城の崎にて

出来事

「自分はいもりを驚かして水へ入れようと思った。不器用に体を振りながら歩く形が想われた。自分はしゃがんだまま、わきの小鞠ほどの石を取り上げ、それを投げてやった。自分はべつにいもりを狙わなかった。狙ってもとても当たらないほど、狙って投げることの下手な自分はそれが当たることなどは全く考えなかった。石はコツといってから流れに落ちた。石の音と同時にいもりは四寸ほど横へ跳んだように見えた。いもりは尻尾を反らし、高く上げた。自分はどうしたのかしら、と思って見ていた。最初石が当たったとは思わなかった。いもりの反らした尾が自然に静かに下りてきた。すると肘を張ったようにして傾斜に堪えて、前へついていた両の前足の指が内へまくれ込むと、いもりは力なく前へのめってしまった。尾は全く石についた。もう動かない。いもりは死んでしまった。自分はとんだことをしたと思った。」(志賀直哉『城の崎にて』より)

志賀直哉の『城の崎にて』の印象深いいもりとのシーンを引用した。城崎は、城崎と書いて城の崎と読む。「の」が入っていない。「の」を書き込んだのは志賀直哉だった。どうして「の」を入れたのかは分からないらしい。小説の本文は城崎となっている。「の」を入れることによって誤読を避ける解釈や柔らかさを出したという解釈もある。

志賀直哉が描いた城崎は、今はもうないのではないだろうか。現在の城崎は、観光客で溢れかえっていた。コロナウイルスによる観光客減というのは、観光バスには影響があったかも知れないが、感じられず、人の流れはものすごく多かった。プリンのお店の前には長蛇の列があり、潮が引いたと思ってもまた数分後には長蛇の列になるというような有様だった。

1泊2日の2つ日目、家族みんなで城崎に行こうとなって、駐車場に車を止めたのが10時過ぎだった。外湯めぐり大人1300円で7つのお風呂が楽しめるというので、妻と娘、ぼくとおばあちゃんという2組に分かれてお風呂に行った。おばあちゃんは、歩くのが困難になってきているので100メートル歩くのにかなりの時間がかかる。200メートル、300メートル歩くのが一仕事なので、ぼくたちの組は、2つのお風呂に入ろうということにして、まずは地蔵湯というお風呂をめざした。地蔵湯は城崎の北柳通りにある。駐車場の近くにあった一の湯から200メートルほど離れているだろうか。そこまでかなり長い時間かかって歩いて行って温泉に入り、11時頃からその横にあったTOKIWA GARDENという名のCafeに入った。

店は超満員だった。かろうじて2席残っていたのでテーブルについてカフェラテとカルピスを注文した。なかなかお洒落なお店だ。城崎は、さまざまなお店が軒を連ね、綺麗な店内が外から見えるところが多かった。カフェラテは、今まで飲んだ中でもとびきり美味しく感じるものだった。

昨日は、同じ城崎で観光バスが橋の欄干にある灯籠にぶち当たって、灯籠を倒す事故があった。観光バスのバックミラーがバスの左サイドに付いていて、それによってバスの後方を見ることができるようになっている。このミラーの付いているアームが灯籠に当たって灯籠をなぎ倒す瞬間を目撃してしまった。今日になると灯籠はどこかに移動されていて、灯籠のあった橋の欄干にはブルーシートがかけられていた。あんな狭い道に大型の観光バスが入り、車が対向しているのを見ると、どうしてこの道が歩行者天国になっていないのか、不思議な感じがした。

城崎を出たのは3時を過ぎていた。大きな町になっている豊岡市を抜けて高速に乗り、夕食に和泉市のららぽーとに立ち寄った。自宅に帰ると9時を過ぎていた。


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出来事

Posted by 東芝 弘明