新しいメガネと新しいファシズム

雑感

Osaka HDR by Mukatsuku-bob

昨日、クラモトさんという眼鏡屋さんが、紀の川万葉の里マラソンの会場でメガネの販売を行っていた。もちろん賛助会費を払って出店してくれたお店の一つだった。ワゴンの車の中に機械が据え付けられ、小学校によくあった視力検査の表がかけられていた。横のドアから入ると一番奥にソファーのような後部座席があった。そこに座ってレンズの中を覗くと視力の検査を行ってくれる。
ぼくは、目の状態を検査していただいた。
「はい、瞬きしないでくださいね。まずは右目を調べます」
恰幅のいい女性が明るく話しかけてくれる。
「はい、結構です。次は左目です」
いわれるとおりレンズを覗き奥に見える熱気球を見つめると短時間で検査が終了した。
「乱視と、老眼と遠視がありますね」
楽しそうな感じだ。
ひょいひょいとレンズのケースからいくつかのレンズを取り出して試験用のメガネに重ねてくれる。
「これが見えますか」
なんと見事にうまく焦点が合っていく。レシートには機械で計測した右目と左目の数値が並んでいる。
「月が3重に見えるんです」
「そうでしょうね」
答えが妙に明るい。
いくつかのレンズをはめ込んだメガネで見るとあの小さな薬瓶のラベルの文字まで読めるようになった。

結局、遠近両用のメガネを作ることにした。
生まれて初めてメガネを使うことにした。

 

昨日、大阪府知事と大阪市長のダブル選挙の投開票がおこなわれた。大阪府知事は松井氏、大阪市長は橋下氏が当選した。今回の選挙は、朝日新聞が指摘していたように、小泉さんの郵政選挙と非常によく似ていた。公務員を徹底的に攻撃すれば、格差と貧困に苦しんでいる国民は溜飲を下げる。公務員が特権階級になっているように見え、この特権階級を徹底的に攻撃すればするほど、住民の期待が集まるというのは、郵政民営化の時と同じような状況だ。選挙後の大阪府民へのインタビューを見ても、橋下さんなら何かをやってくれるというような返答がかなりあった。中身をしっかり吟味して橋下さんと松井さんを支持したということではない。

橋下さんは、知事が設定する教育目標から見て、出来の悪い先生がいれば首を切るという極端な条例案の実現まで実行に移そうとしている。各学校における教員評価で2年連続最下位になった教師は、分限免職(クビ)にできるというのが教育基本条例だ。これは、戦後、政治の介入を排除した教育の原理への挑戦だ。教員評価の最大の尺度は、大阪府知事が策定する教育目標だ。この目標が示す事柄に逆らう教師は、教員評価が極めて低くなる可能性が強い。
政治が教育に介入することによって、戦前の日本は、御国のために命を捧げることを正しいとし、戦死することを名誉なことだと教えた。その結果、圧倒的多数の国民は、日本が侵略戦争を行っていたことを知らず、積極的に侵略戦争に荷担した。政治が教育を完全に支配した中で国民は真実を知ることさえ許されなかった。

教育は、真理を追求する点で自由でなければならない。特定の政治の政策に左右されてはならない。この大原則に挑戦する橋下さんは、独裁政治を実行しようとしていると言われてもしかたがない。
選挙で勝てば、それが民意だという。今日もテレビで、「この民意に逆らう大阪市職員には職場を去っていただく」と言っていた。これは、反対意見を認めないで権力者が強権をふるうことに他ならない。

日本共産党は、橋下さんの独裁政治に対し、独裁政治阻止の一点で平松さんを勝手に応援して選挙を闘った。この判断は正しかったと思う。これに対し、マスコミと橋下陣営は、既成政党対個人(維新の会)というような描き方をした。その中でなぜ橋下氏のいうことが独裁なのかということは、必ずしも深く大きく伝わらなかった。ただし橋下陣営は、この批判をかなり気にして、独裁政治という批判に一定の反撃をせざるを得なかった。

選挙の中で橋下さんは、教育基本条例のことをまともに語らなかったという。デマと使い分けで選挙を闘っておきながら、勝てば民意だというのは全く話が違う。

ファシズムは、国民の怨嗟を活用しながら、国民の願いに応えるようなポーズを取って圧倒的な支持を得て、結局は、国民の自由と民主主義を破壊し、強権的な政治の仕組みをつくっていく。この仕組みづくりが恐い。熱狂的な支持が支えになって、気がついたら民主主義が破壊されていたというのがヒットラーが支配したドイツだった。
現時点では、橋下さんが提唱している教育基本条例への支持も高い。知事が教育目標を設定して、教員を指導することによって教育がよくなる、だめな教師がいなくなるというように思っているということだろう。
現在のファシズムのいけにえは公務員だと思う。公務員を特権的な階級であるかのように描き、攻撃することによって支持を得て、国民の不満を解消し、実際は国民犠牲の政治を実行に移していく。それが教育基本条例によく現れている。

この教育基本条例に対して、10人の方々〔池田香代子(翻訳家)、市川昭午(国立大学財務・経営センター名誉教授)、尾木直樹(教育評論家)、小野田政利(大阪大学教授)、小森陽一(東京大学教授)、佐藤学(東京大学教授、日本学術会議会員)、高橋哲哉(東京大学教授)、竹下景子(女優)、野田正彰(関西学院大学教授)、藤田英典(共栄大学教授、日本教育学会会長)〕が呼びかけ人になり、反対を表明している。この呼びかけに浅田次郎さんや阿刀田高さん、梅原猛さん、石坂啓さん、妹尾河童さん、高村薫さん、あさのあつこさん、杉良太郎さん、永六輔さん、小山内美江子さん、山家悠紀夫さん、安斎育郎さんなど多彩な人々が賛同し、その輪は広がっている。(大阪教育基本条例反対アピール運動〔Blog〕
この中には、大阪府在住でない方々も多い。なぜ大阪府という一地域の条例案に対し全国の心ある著名人の方々が反対を表明しているのか?──ぜひこのことをじっくり考えていただきたい。真実はいったいどこにあるのか。熱狂的な支持がある中でこそ冷静な判断が求められている。

橋下さんが知事時代に掲げたさまざまな勇ましい政策は、府民の反撃によって数多くは反撃され、覆されてきた。しかし、こういう流れをたどってきたことをマスコミはほとんどきちんと伝えてこなかった。
橋下さんのイメージは、マスコミが作りだした虚像に近い。虚像と幻想による圧倒的な支持。これは、小泉首相に対する圧倒的な支持と瓜二つの現象ではないだろうか。

反撃はこれからだろう。これからの闘いの中で橋下さんの本当の姿を明らかにできるかどうか。反動的な政策を府民の反撃によってくい止めることが出来るかどうか。選挙は終わったが闘いの新たな火ぶたは、切って落とされた。これが現在の局面ではないか。

ぼくもメガネというよく見える道具を手に入れたので、より一層物事の真実を見抜けるよう努力をしていきたい。


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雑感

Posted by 東芝 弘明