フォントについての本当の話

雑感

共産党の紀北地区委員会主催の夏合宿で、綺麗な民報とビラの作り方という講師を行うことになっているので、あらためてフォントのことを調べてみた。綺麗な民報やビラを作るためには、綺麗なフォントを使用できるかどうかにかかっている。
調べてみて驚いたのは、WindowsとMacのフォント環境の違いだった。
長くなるので結論から書こう。
綺麗な印刷物を作るためには、Opentypeのフォントが必要になる。Opentypeというフォントは、フォントの中で一番新しい形式のものであり、フォントの長い歴史を経て生み出された、プロ使用に耐えることのできるフォントだ。
コンピューターで印字をするという歴史は、コンピューターの性能に制約されてきた歴史でもあった。ドットの集まりだった文字は、最初は、どうしてもギザギザ文字になった。これを綺麗に印字するためには、パソコン側にインストールするフォントとプリンター側にインストールするフォント、パソコン画面上で綺麗に表示するためのフォントという3つのフォントが必要だった。パソコン側で綺麗に見せるフォントをプリンターに印字して印刷するという方法もあったが、これをするには、非常に時間がかかるとともに、文字落ちが少なからず発生するという状態だった。

ぼくは、この時代にMacを使い始めたので、最初は1書体3万円もするフォントをいくつか買って、パソコン側とプリンター側にインストールするということを行っていた。しかし、この高いフォントは、パソコン画面上ではギザギザに表示されていた。
この状態を劇的に変えたのは、MacOSX(10)だった。パソコンの画面上も印字も綺麗にするということで、導入されたのがヒラギノ(大日本スクリーンが制作したフォント)という字体だった。しかもMacにインストールされていたヒラギノはOpentypeフォントだった。
このフォントは、プリンター側にフォントを必要としないもので、商用印刷にも対応していた。MacOSXは、バージョンアップするたびにOpentypeフォントの導入を進め、数多くのOpentypeフォントをOSにバンドルするようになっている。

Windowsを使っている人になじみが深いフォントは、Truetypeフォントだろう。このフォントは、どんなに文字を拡大してもなめらかな表示ができるものだ。このフォントは、マイクロソフトとアップルコンピューターの共同開発によって生まれたものだった。この問題に対して2社は、仲が良かったのだ。
Truetypeフォントは、アドビのポストスクリプトフォントに対抗して、簡単に綺麗な印字ができるフォントとして作られたものだ。パソコンでの画面表示とプリンターによる印字を一致させるというのが、開発の時の目的だったのだろう。しかし、ポストスクリプト形式で統一されていた商用印刷には対応しておらず、印刷会社で印刷を行うには、アウトライン化という名前の画像化が必要だった。
現在もWindowsのOSにバンドルされているフォントのほとんどは、Truetypeフォントだ。

Truetypeフォントの問題を解決して、商用印刷にも十分適応するOpentypeフォントを2社で共同開発したのは、マイクロソフトとアドビであり、アップルはこの開発に賛同した。このフォントの開発によって、パソコン側とプリンタ側にフォントが必要だった状況は克服された。アドビとの共同開発によって生まれたOpentypeフォントは、当然の如くポストスクリプト形式を踏まえたものになった。Opentypeフォントの開発は、フォントの歴史上、革命的な出来事だった。しかし、どういう訳か、開発したマイクロソフトは、Opentypeフォントをほとんどバンドルせず、今日に至っている。

Opentypeフォントは、アドビが提唱する仕様に準拠しており、多言語に対応し異体字など文字数の大幅な増加に対応している。また文字間の複雑な詰めを実現することによって、綺麗な印字を実現している。この2つの改良点は、Truetypeフォントの弱点を完璧に克服するものだった。Opentypeフォントは、WindowsでもMacでも使用が可能になっている。ただし、Opentypeフォントの能力を十分に発揮するためには、Opentypeフォントに対応したソフトが必要になる。この点でもWindows環境には遅れが存在する。

Windowsの日本語環境で言えば、Windows8.1からOpentypeフォントである遊明朝体と遊ゴシック体フォント(それぞれ3つの太さを持っている)がバンドルされるようになって、綺麗な文字を使用できるようになった。このフォントを使えば、商用印刷にも対応できる。調べていくとMicrosoftOfficeもこの遊明朝体と遊ゴシック体の使用を進めており、ダウンロードも行って配布に努めている。ということは、マイクロソフトOfficeは、Opentypeフォントに対応しているということだろう。こうなるとこの2つのフォントを使わない手はない。

Windowsに入っているMS明朝とMSゴシックは、Truetypeフォントであり、18年ほど前から使用されているものだ。このフォントを拡大して見れば分かるが、字体の太さが一定ではない。MS明朝で印刷すると若干かすれたように見えるのは、文字の線の太さが安定していないことによる。
MSP明朝とMSPゴシックは、Pという文字が付いているようにプロポーショナルフォントという部類に入る。文字の詰め情報を持ったフォントなので綺麗に見えるのかといえば、そうではない。そもそも開発された時期が古く、その当時のパソコンの性能に制約されたものなので、フォントのデザインが安定していない。プロポーショナルというのも、パソコンの表示能力が低かった時代の中で、何とか綺麗に見せたいということで詰めを設計しているので、綺麗に表示できるとは言い難い。これらのフォントを使用すると、洗練されていないように見えるのは、フォントのデザインに大きな原因がある。Truetypeフォントは、無料配布が当たり前の世界。フォントが無料だと思っている人々は、綺麗な印刷物が綺麗なフォントによって支えられていることを知らない人が多いだろう。

Opentypeフォントは、購入すると結構な値段になる。安い物でも2万円弱、1書体3万数千円というものも多い。この高額なフォントをアップルは、日本語フォントだけでも20書体ほどバンドルしている。OSが無料配布なので、フォントの側面から見れば、高額なフォントをただで使えるという、ものすごいことを実現していることになる。Macを購入すれば、それだけで商用印刷に耐えうる印刷物を作成できるというのは、かなりなものだ。

Windows環境でOpentypeを使って商用印刷に耐えうる印刷物を作ろうと思えば、おそらくアドビのCreativeCloudを購入する必要がある。CreativeCloudは、アドビの製品の全てを月4980円で購入できる(9月2日までは3980円、1年間箱の値段で契約することになる)ものであり、契約すれば、illustrator、Photoshop、inDesign、AdobeAcrobat、AdobePremiere、DreamWaiverなどのソフトが使えるとともに30数個の日本語のOpentypeフォントを使用させてくれる。アドビは、標準でも同社が作成した小塚明朝と小塚ゴシックをソフトにバンドルしている。さまざまな太さをもった小塚シリーズがあれば、それだけで綺麗な印刷物を作成することができる。

マイクロソフトは、過去の遺産に引きずられてMS明朝とMSゴシックを手放せないできた。このフォントさえ使っていれば、フォントの互換性によって表示できないというリスクを回避できる。しかし、結局はこのフォントに縛られて、せっかく開発したOpentypeというフォントを本格的に使用できない状態になっている。
アップルはソフトにしてもハードにしても新しい技術革新に対して、たえず貪欲だった。Macに搭載されている各種デバイスの接続プラグなどは、いとも簡単に過去の遺産を切り捨ててきた。ソフトも同じようなことが行われてきたが、この分野ではユーザーの負担を軽減するために、OSを無料配布し始めた。OSを有料にすることによって、ユーザーが新しい環境に付いてこないリスクを解消するために無料配布が行われている。マイクロソフトがソフト専門の会社であるのに対し、アップルがハードとソフトを一体的に販売している会社だった違いが、OSの配布の違いに表れている。
業界の中で最大手であるWindowsは、激しい戦いに勝ち抜いてきたことによって、鯨のような体を持つに至った。その結果、激しい進化を成し遂げようとするたびに、たえず過去の遺産に足を引っ張られることになった。ハードとソフトという両方を生産しているアップルは、スティーブ・ジョブズをアップルに復帰させたときに、全ての互換機メーカーを切り捨てた。アップルのOSは、アップルでなければ使用できないという囲い込みを行うことによって、市場の拡散をあえて行わず、ハードとソフトの有機的結合とでもいえるような状況を生み出して、革新に次ぐ革新を成し遂げてきた。ジョブズが作ったこのDNAは、アップルという会社の最もコアな精神として、今日も生きている。マイクロソフトとアドビが共同開発したOpentypeフォントを、アップルが一番活用しているという現実は、アップルという会社が何を大切にしているかを物語る一つのエピソードになっている。マイクロソフトが開発したOpentypeの深い意味を理解ているのはアップルで、フォントの優れた環境を整えているのがアップルだというのは、なかなか面白い現象だ。

MacOSXに移行するときに、スティーブ・ジョブズは、徹底的に綺麗なフォントにこだわったのだという。その結果日本語フォントとしてヒラギノをバンドルするに至った。現在、Macに入っているフォントの過半数はOpentypeフォントになっている。Mac用のマイクロソフトのMS明朝とMSゴシックもOpentypeになっている。2001年にMacOSXの最初の販売があってから15年、MacはOpentypeフォントとともにあった。Windowsが過去の遺産に囚われている中で、Macは印刷業界との親和性をより一層深め、今日に至っている。この歩みの差は大きい。


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Posted by 東芝 弘明