「事業仕分け」の仕分け人って誰がするの?

雑感,かつらぎ

「事業仕分け」の話を昨日書いた。30分ほどで書いたので書きたいことがもう少し残ってしまった。
「事業仕分け」の実施形態は、仕分け人が行政の課長たちに対して、厳しく仕分けを行うことになり、それを無作為抽出で指名された住民の中で応募してきた人が「市民評価員」として傍聴するというものだ。実際に事業の評価を行い、仕分けを決定するのは、傍聴人である「市民評価員」ということになる。裁判員裁判のような感じだ。

問題は「仕分け人」と呼ばれる人々の存在だ。これらの人々の中には専門的な知見をもった人がいるようだが、「仕分け人」の選定は、「構想日本」が行うのだという。人選は100%「構想日本」に委ねられる。「構想日本」という組織がどのようなことを主張し、どのようなことを実現しようとしているのかを調べつつ、「仕分け人」の人選がどうなるのかを見極めないと「事業仕分け」の姿は浮き彫りにならない。

「構想日本」のホームページにある「事業仕分け」のアナウンスを引用しておこう。
「2002年に岐阜県から始め、自治体での事業仕分けはこれまでに100以上の自治体で200回余り行ってきました。
国レベルでは、2008年に自民党無駄撲滅プロジェクトチームが初めて実施。その後、民主党政権時の政府で行いました。現政権でも「行政事業レビュー」として継続しています。また、行政だけでなく、議会の会派が主催して実施することもあります。
国会では2011年に衆議院決算行政監視委員会で事業仕分けが行われました。国会で与野党の議員に民間人が加わり、税金の使い方の議論が行われたことは憲政史上初のことです。」

「現政権でも「行政事業レビュー」として継続しています」とも書いている。「行政事業レビュー」とは何なのかよく分からないが、「桜を見る会」で事業仕分けが行われているとは思えないし、検察官の人事について「事業仕分け」が行われているとも思えない。文書の改ざん、隠蔽、廃棄、ウソ答弁が横行している現政権に「事業仕分け」があるとは思いがたいのではないだろうか。

講師の伊藤伸氏によると、蓮舫さんのイメージがあるけれど、もともと「事業仕分け」は地方行政のために考えられてきたことだという話があったが、構想日本のアナウンスは、10年ほど前の国における実績をなぜ書くのだろう。現時点では、国政における「事業仕分け」はほとんどないのだろうか。
これだけではよく分からないので、千葉県香取市の事例を引用しておこう。

★香取市事業仕分けの特徴★
1.2年連続2回⽬、昨年に引き続き3班体制で実施。ここ数年の自治体の中では最も大規模での開催。
2.住民基本台帳から無作為に選ばれた2,000人の中から、応募のあった158名が市民評価員として参加予定。応募率は7.9%と昨年度よりさらに高い(全国平均は約4%)。
3.昨年実施した仕分け結果のうち、改善が必要と判断されたものの約5割はすでに予算へ反映するなど、仕分け結果の実行も行っている。

【日時】2019年10月19日(土)  9:00 ~ 16:35(予定)
              2019年10月20日(日)  9:00 ~ 16:50(予定)

【議論の仕方と参加者】
構想日本仕分けチーム(1班あたりコーデイネーター1名、仕分け人4名)と説明者(香取市職員)が議論し、それを聞いたうえで市民判定人(*)が対象事業の評価を行う。
*市民判定人:無作為に選ばれた2000人の中から応募のあった158名の住民。

【コーデイネーター、仕分け人】
【1班】
・コーディネーター
 山根 晃 (足立区勤労福祉サービスセンター 特命担当部長)
・仕分け人
(両日)
 中村 卓(構想日本 特別研究員、前草加市副市長)
 中田 華寿子(構想日本理事、元 ライフネット生命株式会社常務取締役)
(1日目)
 田中 俊(構想日本プロジェクトマネージャー)
 原田 謙介(前YouthCreate代表理事)
(2日目)
 江藤 雅一(神奈川工業会 事務局長)
 伊永 隆史(一般社団法人情報メディア総研 代表理事)

【2班】
・コーディネーター
 小瀬村 寿美子(厚木市こども未来部こども政策アドバイザー)
・仕分け人
(1日目)
 神津 多可思(リコー経済社会研究所 所長)
 長島 寛人 (弁護士)
 永由 裕大 (構想日本プロジェクトリーダー)
 岩崎 律子 (静岡県経営管理部 行政経営課 主査)
(2日目)
 増田 洋紀 (一般企業 会社員)
 川原 康寛 (古河市健康福祉部子ども福祉課 主幹)
 米山 やすし (一般社団法人つくしの郷 代表理事)
 高橋 菜里 (松下政経塾・第38期生、元ながおか・若者・しごと機構理事、元NPO法人プロジェクト88理事長)

【3班】
・コーディネーター
 露木幹也 (一般財団法人小田原市事業協会収益事業課 主事長)
・仕分け人
(両日)
 安藤 真(株式会社資生堂 グローバルイノベーションセンター プロジェクトマネージャー)
(1日目)
 北村 卓也(川崎市 健康増進課 事業企画担当係長)
 根本 知左香(一般企業 会社員)
 増田 洋紀(一般企業 会社員)
(2日目)
 中泉 拓也 (関東学院大学経済学部 教授)
 伊藤 伸(構想日本総括ディレクター)
 佐藤 幹子(名古屋市大都市・広域行政推進室 主事)

「仕分け人」は、おそらく自分のスキルを持って自治体の仕事を仕分けすることになるのだろう。地方自治体の本質をどれだけ理解して仕分け議論を行うのか、よく分からない。どうして猫の目のように毎回仕分けする人が変わるのだろうか。細かく専門家が入れ替わるのだろうか。
香取市による2日間の日程で、どのような事業の仕分けを行ったのか。事業のリストも引用しておこう。

【対象事業】
~19日(1日目)~
【1班】
・機能訓練拠点施設維持管理事業(高齢者福祉課)
・高齢者等入院時おむつ代助成事業(高齢者福祉課)
・生活支援体制整備事業(高齢者福祉課)
・小見川社会福祉センター運営事業(社会福祉課)
・がん検診事業(健康づくり課)
・成人保健事業(健康づくり課)
【2班】
・学校給食事業(学校教育課)
・中学校国際交流事業(学校教育課)
・特別支援教育支援事業(学校教育課)
・公園維持管理事業(都市整備課)
・空き家対策事業(都市整備課)・木造住宅耐震改修等助成事業(都市整備課)
【3班】
・コミュニティ育成事業(市民協働課)
・水上スポーツ大会等開催事業(生涯学習課)
・スポーツ・コミュニティセンター管理運営事業  (生涯学習課)
・生涯学習振興事業(生涯学習課)
・伊能忠敬記念館管理運営事業(生涯学習課)
・地籍調査事業 (土木課)

~20日(2日目)~
【1班】
・短期人間ドック補助事業(市民課)
・商業活性化支援事業(商工観光課)
・中小企業資金融資事業(商工観光課)
・観光施設等管理事業(商工観光課)
・小見川ふれあいセンター管理運営事業(商工観光課)
・合併処理浄化槽設置推進事業 (下水道課)【2班】
・ふるさと農園運営事業 (農政課)
・農業振興資金利子補給事業 (農政課)
・農業後継者新規就農助成事業 (農政課)
・農産物防除対策事業 (農政課)
・児童館運営事業 (子育て支援課)
・こども園運営事業 (子育て支援課)
【3班】
・バス路線運行事業 (企画政策課)
・循環バス運行事業 (企画政策課)
・乗合タクシー運行事業 (企画政策課)
・生活環境整備事業 (環境安全課)
・ごみ処理施設運営事業 (環境安全課)
・塵芥処理事業 (環境安全課)

【参加費】どなたでも傍聴できます(無料、事前登録不要、途中入退室可)
【主催】香取市
【協力】構想日本

インターネットに中継があるので中継も見てみたい。3つの班に分かれて2日間で事業の説明を受けて質疑応答がなされていくのだろう。議会がうらやましいと思うのは、判定する住民の存在だ。議会の指摘が行政に反映するのには、かなりの抵抗と時間がかかるが、この「事業仕分け」は、「仕分け人」の質疑を聞いた住民による判定人によって、判定が下され、それが行政に反映されることになる。2日間の取り組みで行政の施策が変更されるのは驚異的だ。
自治体の事業の経過を見ていない「仕分け人」が、報告を聞き、テレビのコメンテーターのようにカウンターパンチ的な質疑を行って、傍聴人が判定を下すスピード感は半端ない。
大学教授による自治体分析には時間がかかるし、時間を掛けている。こういう態度を取るのは当然だろう。「事業仕分け」が丁寧なプロセスを経て行われるのであればまだ納得できるが、カップ麺のような事業判定には違和感がある。裁判員裁判は、殺人事件でも裁判員でもできる事件に限定して行われている。短時日ではあるが、それでも一つの事件を多面的に丹念に事実を明らかにした上で判定を下す。それと比べると「構想日本」の「事業仕分け」は、乱暴ではないだろうか。

議会に来た傍聴人が、町長と議員のやりとりを聞きき判定して、行政の仕事に変更を求めたら有無を言わさずに行政の仕事が変更されていくようにすれば、このような事業仕分けは必要なくなる。議会と住民によって「事業仕分け」と同じような効果が生まれる。さらにこういうようにすれば、行政が取り組んでいない未来の事業についても、議員の提案が行政の施策に変わるということも、加速するだろう。

しかし、こんなやり方がいいとは思えない。「事業仕分け」で一番心配なのは、職員のモチベーションだ。サンドバッグ状態に置かれた職員が、はたして意欲を持って仕事に取り組めるのだろうか。


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雑感,かつらぎ

Posted by 東芝 弘明