平和は眠りを許さない

雑感

同級生のN君のお母さんが亡くなった。病気になっていることを亡くなるまで知らなかった。彼はお母さんを自宅で看病し最期を看取ったと話してくれた。
今年になってから何人か、同級生の親が亡くなっている。ぼくたち自身が50を過ぎているので、親の世代は70代後半から80代半ばになりつつある。年を重ねるということは、親が歩いてきた道を20数年ないし30数年遅れてたどるようなところがある。年齢を重ねていくことでしか見えないことがある。

ぼくの人生で言えば、とうとう父の年齢も母の年齢も超えてしまった。追い越してみると、2人の人生は「何て短い人生だったのか」と思わざるをえない。
20歳を過ぎた頃、50歳になったら新しく見える世界があるような感じを漠然と持っていた。30年経っても新しく見える世界はなかったといっていい。
50歳を超えた自分と20歳そこそこの自分は違うけれど、30歳の自分と50歳の自分はそんなに変わらない。新しい世界は見えなかったけれど、自分の年齢というフィルターを通して、親の人生は少し見えてきた。

すべての人にとって、人生はたった一回しかない。一回きりの人生というものは、年齢を重ねない限り体験できないこと、味わえないことが多い。30歳のまま、あんまり変わらない精神年齢の中で初めての体験を重ねて行く。その体験は、自分の親が歩んだ道に重なっている。
泣いたり笑ったり、苦しんだり喜んだりして一度きりの人生を生きているけれど、人間は、世代を超えて同じようなことを繰り返しているように見える。

違いは、都市、農村、漁村、山村などの風土ではないだろうか。風土の違いは大きい。人は環境の違う中でその影響を深く強く受けながら一度きりの人生を歩く。
ぼくたちのように、親が生きた同じ地域で、人生を歩いていると親の生きた道が自分というフィルターを通じて見えてくるのは、あまり変わらない風土のおかげなのかもしれない。
もう一つの違いは、文明の進み具合だろう。時代が違うと人はよく言う。戦争の時代と平和になった戦後の時代。こういう違いが、人の人生に深く強い影響を与える。

平和の中で生きることのできたぼくたちの世代にも、不幸の要因は無数にあったが、それでもまだ幸せだったのではないだろうか。政治が実現すべき幸福の条件が、次第に破壊されている今の時代、不幸の陰影が濃く深くなっている。でも、国家によって死ぬことを押しつけられる時代ではなかった。このような歴史はまだ67年しかないけれど。

生き方を国家の力で左右されるような企みは、国民の知らないところで具体的に進んでいる。これは絵空事ではないし妄想でもない。経済的な利害の延長線上に憲法第9条や第25条の破壊がある。
自民党などが、自衛軍の創設と基本的人権の制限を盛り込んだ憲法改正案を発表した。憲法改正論議に歯止めがなくなってしまった。
歯止めを外したのはマスメディアだと思う。彼らは警告を発しないどころか、「今こそ憲法改正の論議を」とボリュームをマックスにして鳴らしている。まるで第二次世界大戦なんかなかったかのように。新聞が犯した罪などは綺麗に忘れている。
67年の平和の歴史が大きな危機に直面している。
憲法は古いというマスメディアは、日本国憲法を押し流すことによって、自分の過去の罪も押し流そうとしている。

都会に出て親とは違った人生を歩むのもいい。人間には自由がある。この自由は、庶民がたたかいとった自由だった。同時にぼくたちには、親が生きたこの地域で生きていく自由も与えられている。平和の土台を守り抜いていけば、ふるさとで生まれてふるさとで生涯を終わるという生き方を、何代にも渡って続けていくこともできる。
平和を土台にして、そういう生き方を重ねて行けば、人々は自分たちの人生をもっと慈しむようになるかも知れない。
時代は変化していく。これは避けられない。いい方向に変化させていく一員になりたい。国家の力によって、国民の生き死にを左右するような変化とはたたかいたい。

政治家が、国民の生き方を語りはじめている。
「マスクを外し、背筋を伸ばし、手は真っ直ぐ下に下げて、指を真っ直ぐにそろえて、国歌を歌え」──こういう言葉に拍手を送ってはならない。
この政治の先には、回れ右という命令が控えている。さらにその先には「赤紙」がひらひら揺れている。

自分の人生の歩みが、親の歩みに重なるような感じ方の土台には平和があった。
自分たちの子どもの世代にもこの土台を残す。
67年間の平和のバトンを渡す。
ぼくたちが歩いてきた道を支えた土台。
平和。
これは空気のように大切なもの。

「平和は眠りを許さない」


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雑感

Posted by 東芝 弘明