嘱託職員とは何か?

行政

ぼくのBlogへのアクセスで一番多いのは、条例と規則、要綱の違いについてだ。この問題は、何を条例にし、何を規則や要綱にするのか、明確な基準が定まっていないところに起因している。自治体によっては、条例で定めているところ、規則で定めているところなどの違いがあったりする。保育所の保育料については、条例で定めるのが本当だと思うが、わがかつらぎ町のように規則で定めているところも多い。
規則と要綱になるとさらに基準があいまいで、自治体によって対応がまちまちになってくる。おそらくこれが解という方程式はないというのが正しいだろう。
規則で定めるのか、要綱で定めるのかによって何が違ってくるのかといえば、制定後の改正のしやすさに違いがあることになる。要綱は、自治体の内規のようなものなので、首長が決裁をおこなえば変更はいつでも可能ということになる。規則になると組織的な検討が必要なケースもあり、審議会に諮るなどのルールが適用されることもある。また、議会の会議規則のように条例と同じように議会の採決が必要なものもある。
基準が定まっていないという点でいえば、自治体の非正規職員(臨時的任用職員、非常勤職員、嘱託職員、委託(請負))の規定だと思う。
その中でもっとも議論になっているのは、嘱託職員だろう。
国語辞典を引くと嘱託社員という言葉はあるが、嘱託職員は、広辞苑にも大辞林にも言葉として存在しない。嘱託という言葉に意味について広辞苑は、「(1)頼むこと。まかせること。(2)正式の雇用や任命によらないで、ある業務にたずさわることを頼むこと。また、その頼まれた人。」と書いている。自治体内で雇用されている嘱託職員という存在は、この(2)の意味に解されるとぼくは思っている。地方公務員法の規定に根拠を求めることがむつかしいのが、嘱託職員だというのがぼくの見立てだ。
なぜ、根拠が薄いのか。今日はそれを論じてみたい。
地方公務員法の第3条は、公務員の職種を規定して列挙している。公務員とは何かを考える際、この第3条第3項ははずせない。第3条を紹介するついでに第4条も引用しておこう。

(一般職に属する地方公務員及び特別職に属する地方公務員)
第3条 地方公務員(地方公共団体及び特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第2条第2項に規定する特定地方独立行政法人をいう。以下同じ。)のすべての公務員をいう。以下同じ。)の職は、一般職と特別職とに分ける。
《改正》平15法119
2 一般職は、特別職に属する職以外の一切の職とする。
3 特別職は、次に掲げる職とする。
1.就任について公選又は地方公共団体の議会の選挙、議決若しくは同意によることを必要とする職
1の2.地方開発事業団の理事長、理事及び監事の職
1の3.地方公営企業の管理者及び企業団の企業長の職
2.法令又は条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程により設けられた委員及び委員会(審議会その他これに準ずるものを含む。)の構成員の職で臨時又は非常勤のもの
2の2.都道府県労働委員会の委員の職で常勤のもの
3.臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職
4.地方公共団体の長、議会の議長その他地方公共団体の機関の長の秘書の職で条例で指定するもの
5.非常勤の消防団員及び水防団員の職
6.特定地方独立行政法人の役員
《改正》平15法119
《改正》平16法140
(この法律の適用を受ける地方公務員)
第4条 この法律の規定は、一般職に属するすべての地方公務員(以下「職員」という。)に適用する。
2 この法律の規定は、法律に特別の定がある場合を除く外、特別職に属する地方公務員には適用しない。


第3条第3項第3号に「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職」とある。ここに唯一嘱託員という言葉が出てくる。ただし、この嘱託員は、特別職を規定した第3項の中にあるので、特別職ということになる。したがって受け取る給与は、報酬であって賃金ではない。
この第3条第3項第3号が規定している嘱託員というのは、特殊な技術を持った人のことで、たとえば、3年がかりの大規模な施設建設をおこなう際、特殊な技術を持った職員を現場に配置し、管理監督していただくようなときに、3年雇用で嘱託して仕事を依頼するというような場合を想定している。報酬は、労働時間に必ずしも規定されるものでないケースもあり得る。
ただし、東京の狛江市などは、この第3条第3項第3号を適用し、嘱託員(以下「嘱託職員」という)という規定をして、嘱託職員を雇用している。狛江市の場合、嘱託職員と法が規定する嘱託員は同じだということになる。しかし、このような例は、全国でいえば少数派だと思われる。
なぜ東京の狛江市が、地方公務員法の第3条3項第3号の規定をおこなったか、という点は興味深い。地方公務員法には、一般職で賃金を受け取る嘱託職員という規定はない。もし、地方公務員法に嘱託職員という明文規定があれば、広辞苑や大辞林にも嘱託職員という言葉が掲載され、意味の説明があるに違いない。
法的な根拠が薄いからこそ、狛江市は、あえて第3条第3項第3号の規定をもちだして根拠づけたとも読める。
地方公務員法のどの条文をひっくり返しても、嘱託職員という言葉は出てこない。賃金を支払っている嘱託職員は、第3条第3項第3号が規定する嘱託員とは違うというのが、一般的な見解だろう。
全国の多くの自治体では、嘱託職員の根拠を第3条3項第3号においていない例の方が多い。
では、嘱託職員という職員の身分をどう考えればいいのだろうか(かつらぎ町には、嘱託職員という雇用形態は存在しない。臨時的な職員のほとんどは、臨時的任用職員となっている)。
嘱託職員には、1年雇用、期末手当支給、定期昇給というような規定があるところも多い(ただし、これは一般論であって、労働条件は各自治体によって大きく違う)。しかし、いずれにしても嘱託職員は、任用期間に限りが設けられている臨時的な職員ということになる。
臨時的な職員について、地方公務員法に明文規定があるのは、臨時的任用職員だ。これは地方公務員法22条に根拠をもつ職員ということになる。22条を引用しよう。

(条件附採用及び臨時的任用)
第22条 臨時的任用又は非常勤職員の任用の場合を除き、職員の採用は、すべて条件附のものとし、その職員がその職において6月を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする。この場合において、人事委員会は、条件附採用の期間を1年に至るまで延長することができる。
2 人事委員会を置く地方公共団体においては、任命権者は、人事委員会規則で定めるところにより、緊急の場合、臨時の職に関する場合又は任用候補者名簿がない場合においては、人事委員会の承認を得て、6月をこえない期間で臨時的任用を行うことができる。この場合において、その任用は、人事委員会の承認を得て、6月をこえない期間で更新することができるが、再度更新することはできない。
3 前項の場合において、人事委員会は、臨時的任用につき、任用される者の資格要件を定めることができる。
4 人事委員会は、前2項の規定に違反する臨時的任用を取り消すことができる。
5 人事委員会を置かない地方公共団体においては、任命権者は、緊急の場合又は臨時の職に関する場合においては、6月をこえない期間で臨時的任用を行うことができる。この場合において、任命権者は、その任用を6月をこえない期間で更新することができるが、再度更新することはできない。
6 臨時的任用は、正式任用に際して、いかなる優先権をも与えるものではない。
7 前5項に定めるものの外、臨時的に任用された者に対しては、この法律を適用する。


本来、自治体の臨時職員で法の根拠をもった職員は、臨時的任用職員だということになる。臨時的任用職員の任用期間は6か月、再延長はあっても1年を超えてはならないことになっている。1年を超える場合、地方公務員法は、正規職員を雇用しなければならない。
なぜか。この答えは明白だ。
そのポストに1年を超える範囲で職員が必要な場合は、正規の職員を雇用しなければならないからだ。特殊な技術を持った職員が3年間だけ必要ということであれば、先ほどの第3条3項の3の嘱託員を有期雇用すればいい。
つまり、臨時職員の場合、1年の期限を切って雇用し、さらに再任用を続けていくということは、本来は想定されていないということになる。
では、嘱託職員という雇用は、何に根拠をもった雇用形態になるのだろうか。
ここで登場してくるのが、地方公務員法第17条だ。第17条を引用してみよう。

(任命の方法)
第17条 職員の職に欠員を生じた場合においては、任命権者は、採用、昇任、降任又は転任のいずれか一の方法により、職員を任命することができる。
2 人事委員会(競争試験等を行う公平委員会を含む。以下この条から第19条まで、第21条及び第22条において同じ。)を置く地方公共団体においては、人事委員会は、前項の任命の方法のうちのいずれによるべきかについての一般的基準を定めることができる。
《改正》平16法085
3 人事委員会を置く地方公共団体においては、職員の採用及び昇任は、競争試験によるものとする。但し、人事委員会の定める職について人事委員会の承認があつた場合は、選考によることを妨げない。
4 人事委員会を置かない地方公共団体においては、職員の採用及び昇任は、競争試験又は選考によるものとする。
5 人事委員会(人事委員会を置かない地方公共団体においては、任命権者とする。以下第18条、第19条及び第22条第1項において同じ。)は、正式任用になつてある職についていた職員が、職制若しくは定数の改廃又は予算の減少に基く廃職又は過員によりその職を離れた後において、再びその職に復する場合における資格要件、任用手続及び任用の際における身分に関し必要な事項を定めることができる。


この第17条にも当然、嘱託職員という言葉はない。では、第17条のどの条文に根拠があるというのだろうか。
答えは、第17条第1項だ。
第1項をもう一度引用しよう。

(任命の方法)
第17条 職員の職に欠員を生じた場合においては、任命権者は、採用、昇任、降任又は転任のいずれか一の方法により、職員を任命することができる。


しかし、この条文は、任命の方法を書いただけであって、職員の分類をおこなったものではない。つまり、嘱託職員というのは、任命賢者によって任命された職員であり、地方公務員法の職員規定に具体的な根拠をもった職員ではないということになる。「任命しましたよ」ということに最大の根拠をもった職員ということになる。
ネットで検索すると、嘱託職員の任命の根拠に第17条第1項をあてているところは多い。
この17条の規定だけで雇用できるということになれば、さまざまな雇用の形態が成り立つように見える。雇用を規定する要綱をつくり、そこで地方公務員法の適用を受けることを書かないと公務員でない雇用の仕方も実現できるのではないだろうか。こんなことも考えてしまう。
ぼくの整理はここまで。
地方公務員法第17条に根拠をもつ職員というのは、ぼくには苦しいピッチングに見える。この点について、国や県にきちんと見解を問いただしたいとも考えている。

自治体によっては、嘱託職員の雇用がどんどん広がり、正規職員と置き換わり、正規職員と何ら変わらない職務に従事しているところがある。保育所の保育士などでは、臨時的任用職員と嘱託職員が過半数をはるかに超えている事例がある。
国や県は、公務員が多すぎるという批判の中で、職員の定数管理を守るよう指導を強めてきた。公務員の定数を増員することを認めるとそれだけで交付税を増やす必要がある。地方分権だといって、地方に仕事を増やし職員の増員をしなければならない実態をつくりながら、職員を減らせという「指導」をおこなうのは、大きな矛盾だ。
自治体が生み出しているワーキングプアー。その根底には、交付税削減という国の態度が横たわっている。


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Posted by 東芝 弘明