「なんとも立ち姿が美しい方ですね」

雑感

山田洋次さんが『男はつらいよ』に復帰した第5作、『望郷篇』は、以後48作に連綿と続く「寅さん」の基本を確立した作品に仕上がっている。がさつで乱暴な寅さんは、後景に押しやられて姿を見せなくなり、寅さんの気持ちが映像ににじみ出て、見る人の心に残る姿が胸にしみる。2018年の現在から『男はつらいよ』を観ると、1970年代初めの日本をのぞき見ている感覚と、俳優陣の若い姿が新鮮に見える。
第6作の『純情篇』には、柴又駅でのさくらと寅さんの別れのシーンが描かれている。何度繰り返されたか分からないほど続けられた別れのシーンは、見るものの涙を誘うものになっている。駅のシーンが初めて登場したのは、この『純情篇』らしい。

 『男はつらいよ』の映像は、シネマスコープと呼ばれる超横長画面で撮影されている。48作の全てでカメラを回したのは高羽哲夫さん。『寅さん』がこのシネマスコープで撮られたことによって、1970年の作品であっても、今の時代とあまり遜色ない映像を堪能することができる。映像が綺麗なので古い映画を見ているような感じがしない。1970年初めのテレビの映像とは格段の違いがある。

倍賞千恵子さんは、「渥美清さんは、なんとも立ち姿が美しい方ですね」というラジオの番組での司会者の言葉に対して、心根の優しさが立ち姿に現れる、笠智衆さんにも同じことを感じていたという意味のことを語ったことがある。人に対する気持ちが、伝わってくるシーンは、『男はつらいよ』の中に溢れている。多くの観客はそれを見るために映画館に足を運んでいたのかも知れない。同じシーンを他の俳優が演じても、ああいう映像にはならないということだろう。
その人の心が現れるような立ち姿の人間。そういう人への憧れが湧いてきた。


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雑感

Posted by 東芝 弘明