提案説明の在り方を考える

かつらぎ町議会

3月会議初日。かつらぎ町は、町長の挨拶から始まり、各課長が議案の提案を一つ一つ行う。この習慣は、ぼくが議会に初当選したときにすでに確立していた。議案が多いとき、3月の議会ともなれば、午後7時30分頃まで提案説明にかかるということが多々あった。説明責任を果たすという点で、この姿勢はいいと思ってきた。おそらくこの姿勢の根底には、議事録を手に入れた住民が、議事録を読めば議会に何が提案されたのか、分かるようにするという考え方があると思われる。予算についても款と項という予算分類の原則に従って、議決の必要な点については議事録に残すという考え方に貫かれてきた。だからこそ、予算の提案にもかなりの時間がかかった。

ただ議案の提案説明の基本は、議案そのものを読み上げるということが中心だった。議案の中には、条例の一部改正というものも多い。条例改正の経緯や背景、改正の考え方などをきちんと伝えないと、読み上げるだけでは意味が分からない。読み上げるだけでは、後日ていねいにヒアリングを行わないと意味が理解できなかった。最近は、議案の説明資料が充実し、なぜ今回の条例改正が行われたのか資料で説明するようになった。こうすることによって、改正の中心点と改正理由が鮮明に伝わるようになった。このような提案に変わったので、条例案すべてを読み上げるということはなくなった。

予算については、主要施策一覧表が作られ、この施策が予算の何ページに書かれており、長期総合計画との関係でどのような位置づけになっているのか。施策の目的と目標、財源の内訳、自治体の独自施策なのか補助事業なのか、国からの施策なのかすべて分かるようになっている。このような資料を作成することになって、説明の仕方が変化した。
この変化によって、款と項をすべて読み上げながら提案するというスタイルが変化した。
予算には、自治体のお金の動きがすべて書かれており、質疑はその全般に関わって行われるので、主要施策だけで議論を行う訳ではない。説明していない部分に大きな問題が潜んでいる場合もある。経年的な予算組みの中にも本年度の特徴が鮮明に現れているときもある。従って当局の説明の範囲で質疑を準備するのは間違っていると思っている。

住民との関係で交渉も行われ、同意が得られない場合は、予算が執行できなかったり、予算の組み替えを行って、予算執行の段取りを変化させる必要が生じたりもする。町の目的通り事業がうまく進まないことも起こり、新規事業などでは予算の見積が大幅に違っていることも起こる。
この複雑な動きの中で事件も発生する。過去には、国への補助金返還をもったいないと考えた町長が、国に対しては虚偽の報告を行って(集団で虚偽文書の作成を行った)、そのお金を決算書の中に忍び込ませてお金を裏に回したことがあった。このとき財政に関わっていた町幹部は、議会に一切このことを報告しなかった。忍び込ませた予算は、億単位のものだったが、議員はそのとき決算書の中にこのお金が含まれていることが見抜けなかった。
この例は極端な話の一つだが、生き物である予算には、当然色々なことが含まれる。議員は当局の説明しなかった部分にも、目を光らせる必要がある。説明責任を果たさなければならない町当局は、何を報告して何を報告しないのか、当然取捨選択しながら報告をすることになる。説明を避ける傾向は、ゼロにはならない。
また予算段階では、この動きが見えないことも多いが、予算計上の段階でも、考え方が問われたり批判の対象になることもある。議員は住民の代表として、予算の動きをすべて把握する努力を行い質疑に臨む。こういうことを考えながら3月会議の準備を進めるので、膨大な準備時間が必要になる。

予算は、有機的に結合して成り立っている。例えば国保税。これは県から交付される医療費の給付とリンクしている市町村の納付金によって、保険税が決まってくる。納付金に見合う財源を確保しないと納付金との差が生まれ、多い場合は基金に積み立てられる結果になるし、少ない場合は会計に穴が開いてしまう。従って説明のときには、今年度の国保税がどうなるのかということを、有機的に関連している予算の中で説明すべきだということになる。しかし、今日は、この観点でよく分かるような説明はなされなかった。こういう提案説明になると、後日、なぜ保険税はこうなったのかを自分で突き止める必要がある。
ただしこれは一例。国保の予算にだけこういう傾向があったという話ではない。上水道と下水道の予算や他の予算にも同じような傾向があった。問われているのは行政側の説明全般だ。分かりやすい説明も増えているが、まだまだ道は半ばだということだ。

一般会計における財政課の課長の提案は、早口だったのでメモしきれないスピードだった。こうなると議員はついていけない。「説明を受けたことは質疑で繰り返して聞かないようにすべき」という指摘がなされているが、今回の説明のスピードでこれを成し遂げよと言われても不可能だと思われる。
時間がかかっても仕方がないので、住民に分かるようにきちんと説明してほしいと思っている。早く提案説明が終わるように。というのが主要な命題ではない。
完璧な自治体は存在しないので、語らないことから本当のことを見抜くという課題はどこまで行っても残るし、集計された数字の世界である予算や決算の中には、町当局が気づいていない本質があるということもある。会計に精通した人間が、誰よりも本質を見抜く力をもっており、それが町当局の認識を超えて深く本質を把握することがあるように、事物というのは奥が深い。
そういう世界に生きている人間として、いかに分かりやすく住民に説明するのか、という観点で説明責任を果たす努力をしてほしい。


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かつらぎ町議会

Posted by 東芝 弘明