「藤稔」食べくらべ物語 2006年8月28日(月)

出来事

お昼を食べに自宅に戻ると、妻が買い物から帰って食材を運び入れているところだった。
昼食は親子3人で自宅で食べた。
食卓にミニ納豆が並ぶ。昨日、「発掘あるある大事典」で内臓脂肪の危険性について特集がおこなわれた。わが娘は、興味深くこの番組を見て、「メタボリックシンドローム」なる言葉も覚えてしまい、納豆を食べたいとくり返し発言をしていた。娘の要求は、お昼の食卓で早くも実現したということだ。
デザートはブドウにした。もらい物の「藤稔(ふじみのり)」とお供え物だった「巨峰」をお皿にのせて両方を食べることにした。「藤稔」の方が色が深く黒みがちであり皮が薄い。「巨峰」は、「藤稔」と比べると赤紫色をしている。
「いいことを思いついた」
娘が大きな声を出して食卓を右回りに回ってきて、ぼくの横に立った。
「お父さん、目をつぶって両方を食べて見るんよ。それで、どっちが『藤稔』か当ててよ」
ぼくは目をつぶって、娘の提案にしたがって2つのブドウを食べ比べた。
明らかに味が違う。
「うん、わかった」
口の中で味の違いが鮮明になり、脳みそに染みこむように確信が広がった。
「最初食べた方が『藤稔』や」
「ブッブー。最初が『巨峰』で2つ目が『藤稔』」
「エーッ、そんなはずないやろ」
ぼくはものの見事に見分けられなかった。
娘はうれしそうに笑っている。
娘に笑われたのでぼくも笑ったが、妙に顔が引きつってしまう。悔しい顔というものがあるとすれば、ぼくの顔はまさに「悔しい」を絵に描いたようだったに違いない。
「次はお母さん」
妻は、完璧に2つの違いを言い当てた。娘も挑戦して、ものの見事に2つを言い当てた。
妻も娘も「藤稔」を食べるのは初めてだった。なぜ初めて食べるブドウの品種を言い当てられるのか。
「『藤稔』の方が味が濃厚や。明らかに違う。お父さん、味覚おかしいで。私は前から味覚はいいんや」
妻の言葉はいつものように鋭い。
「私でもわかるのにー。なあお母さん」
娘の一言が胸に突き刺さる。
「藤稔」は最近試食させてもらったことがある。両方の味を知っていたのは、家族の中でぼくだけだった。しかし、ぼくだけが間違ってしまった。
食に対する修行が足りないということだろうか。むしろ、キャリアがじゃまをしたのかも知れない。7歳の娘のキャリアはぼくより少ない。ぼくの豊かな味覚の経験が障害になって判断を誤らせたのかも知れない。
──という風に理屈をこねて言い訳するとものすごくむなしい感じがする。
「藤稔」と「巨峰」──違いが分からない男の証明になってしまった。
「藤稔」はおいしい。食べてみれば違いが分かる。これは、妻と娘からの伝言です。


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出来事

Posted by 東芝 弘明