マイナンバーカードはアジャイル型サービス

雑感

マイナンバーカードは、政府が一元的に状況を管理できないアジャイル型(名詞のアジリティ(agility)は敏捷、機敏という意味)を採用していると思われる。
アジャイル開発とは、「価値の最大化に向けて、顧客に価値のあるソフトウェアを早く、継続的に提供するためのアプローチです」(DX SQUARE)とある。マイナンバーカードは、次から次へとサービスを拡大していくので、新しいサービズがマイナンバーカードを軸に拡大していく仕組みだ。総点検しないとどうなっているか分からないところにアジャイル型だと思われる特徴がある。
近い将来、全く内容の違うもの、健康保険証や企業の社員証、母子手帳、免許証、図書カードにもなる。公共施設の予約もできる。自宅にいながらクレジットカード決済で、公共料金の支払いもできる。
これは便利だと思う。たった1枚のカードで数多くのサービスを決済していく。公的な手続きも全部できるというイメージ。そうなるとマイナンバーカードは市民カードになる。
それを支える仕組みは3つ。一つはマイナンバーカードによる情報のひも付け。これがまずは基本。ただしこの仕組みは法律にしばられている。2つ目はマイナンバーにあるICチップによる情報の連携。ここには20ほどのソフトが入るそうで、このソフトを活用した連携が考えられている。もう一つがマイナIDを活用した、本人の承認を軸とする情報の連携と結合及び決済。これによってマイナポイントの付与も実現した。

マイナンバーカードを軸に情報の連携がなされる。便利なのは、マイナンバーカードから読み取ることのできる、住所、氏名、生年月日、性別の4情報とマイナンバーの番号は、本人から発信される極めて正確な情報になるということだ。
本人が手書きで自分の住所や氏名を書くことを考えて見よう。自分の正確な名前を書くという点で、本人は戸籍謄本にある正確な漢字表記をしているだろうか。
ぼくの場合、東芝の「芝」は、正確には「くさかんむり」のつなぎ目が切れている。漢字の十が2つ並んだ文字が正確な「芝」になる。しかし、本人は普通に書く場合は東芝電機の「芝」を書いている。かつらぎ町で住民票を請求すると十十となっている「くさかんむり」の芝で印字されている。

こういうように戸籍どおりの漢字表記を正確に書いていない人は結構な人数になるだろう。しかし、マイナンバーカードで、そこに記載されている正確な表記を、「本人同意」で活用するようになれば、自治体や民間の会社は、極めて信用の高い情報を手に入れることができる。この便利さを活用して、本人が同意すれば、正確な住所、氏名、生年月日、性別とマイナンバーの番号によって、多くの手続きが実現する。これは、マイナンバーカードのマイナIDという番号を使う。このサービスに期待が膨らんでいる。この仕組みを利用すれば、次のようなことも可能になる。引っ越し会社と契約し、併せて代行手続きを依頼することに同意すれば、引っ越し会社はマイナIDを活用して、自治体への転入手続き、電話契約、電気の契約、ガスの契約などを済ませてしまう。

これは、一体どういうことなのか。本来は、本人が契約書にサインしなければ前に進めなかった契約が、引っ越し会社にだけマイナンバーカードを使って「本人同意」を行えば、その他の契約は、引っ越し会社が代行できることを意味する。会社に代行のシステムを悪用する人がいれば、頼んでいないNHKとの契約をしてしまうかも知れない(わが家はその体験者。いわば犠牲者だった)。
実はこの本人同意による個人情報の開示は、医療機関によるマイナンバーの読み取り機でも始まっている。カードの確認とともに本人同意が求められる。同意すると、医療機関と薬局は、本人のマイナポータルの一部の情報を見ることができるようになる。医療機関と薬局が、今本人同意に基づいて見ることができるのは、2か月ほど遅れて表示されるレセプト点検の情報だ。

マイナポータルサイトは、passwordで入って見るようになっているので、他人が見えないと言われている。しかし、本人同意があれば、マイナポータルの情報は、見られるようになるし、本人同意があれば、民間がマイナポータルの情報を利活用できるようになる。個人情報の徹底的な利活用。ここにマイナンバーカードが描く未来がある。

「なりすましが横行したら怖いですよね」ということになる。マイナンバーカードを紛失し、passwordでマイナポータルに入られたらどうなるのかという問題が、近い将来発生しかねない。

正確な住所と氏名の表記。この問題に深刻に立ちはだかるのが、外字問題だ。自治体でいうと、外字というのは、パソコンの機械に入っていない文字を自治体が独自に作って登録してきたことを意味する。自治体は、パソコンの黎明期、自治体独自の外字をたくさん作って、空いているコードに漢字を当てはめていた。そうしないと手書き時代の戸籍の複雑な漢字をデジタル化して印字できなかった。
この努力が何を生み出しているかというと、たとえば、橋本市とかつらぎ町、紀の川市、岩出市の外字に当てはめられているコードは全く違うということだ。ぼくのパソコンでは、「芝」の「くさかんむり」が十十のになった「芝」を表示できない。自治体でも「くさかんむり」の切れた芝を表示する場合、自治体ごとに文字コードが違う可能性があるということだ。「ひがししば」という呼び名の東芝という性は、全国で30軒ほどしかない。この30軒は、もともと親戚だったらしい。この親戚だった東芝の「芝」の表記が統一しているかどうか。それは分からない。東芝の印鑑の「芝」は普通の「芝」を使っている。ぼくの姓にある「芝」だけでも整理がつかない。

最近は、人名漢字の外字の統一のためにソフト開発が進み、昔ほどコードが違うというのは少なくなっているだろうけれど、戸籍の中には、個人が勝手に作った漢字(書き間違いがそのまま漢字になっているケースも多い)というものがあって、コードの完全一致は難しい。また、昔、職員が自分たちで作った外字システムを引きずっている自治体もあるだろう。

健康保険の保険者が管理しているパソコンと自治体の住基ネットの漢字表記とは合わない。場合によっては、難しい漢字が文字化けしてしまう。本人がマイナンバーカードを健康保険証にしてもいいと申請しているのに、77万件もひも付けができない問題の一つは、この外字問題だ。もう一つの原因は、住所の不一致。これらをどう解決するのかという検討もなしに、健康保険証を廃止するという方針は間違っているだろう。

単純で怖い問題は、カードの紛失だろう。カードによって何もかも決済できるようになると、紛失したら再発行されるまで日常生活ができなくなる。将来、社員証や鉄道の定期の代わりになると、電車に乗るのも現金、会社に入るためには、他人による証明が必要になる。車で通勤している人は、再発行まで車に乗れなくなる。再発行を求める際、本人が本人であることを証明しようと思えば、自治体が本人の顔写真や指紋を登録する仕組みを作らないといけないかも知れない。そうしないと本人証明のハードルが高くなってしまう。ただし、これが実現すると、完全な監視社会へと日本が変貌してしまう。マイナンバーカードを紛失したら本人確認は極めて困難。こういう時代が来るかも知れない。

現在は再発行まで3週間。便利になればなるほどマイナンバーカードを使う機会が増える。使う機会が増えることに従って紛失のリスクは高まる。紛失しても基本的にはマイナンバーカードの番号変更はないという。ただし、悪用された場合、どうしてもマイナンバーカードの番号変更が必要になる。アジャイル型で臨機応変にサービスがつながる社会が進展した場合、番号変更が隅々まで行き渡るのかを考えると怖い。そんなことが正確にできるのかと不安になる。

個人情報の利活用ということが日本のDXの最大のカギになっている。地方自治体の個人情報保護条例を廃止して、国は個人の基本的人権を守るという視点を法律から外してしまった。
徹底的な個人情報の保護の上にDXを推進する別の道はある。この別の道は、マルチなマイナンバーカードの実現とは両立しない。先進国は、日本のようなマルチなマイナンバーカードが存在しない。個人情報を守るためには、マイナンバーカードは将来、廃止されなければならない。ぼくはそう思う。
個人情報の保護を基本としたデジタル化。個人情報の保護を徹底した上に立ったデジタル化。求められているのはこっちの方だ。


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雑感

Posted by 東芝 弘明