成功物語の中から生まれた深刻な破綻
先週の土曜日、たまたまNHKを見ていたら大手企業の一つであるシャープがなぜ傾いたのかを座談会形式で議論して、深めるような番組があった。話に参加している人の中にSONYの技術者であった方が加わっていた。
話は非常に興味深かった。
シャープの経営的な困難は、成功物語の中から生まれたもの。これがぼくの感想だった。
日本の企業は、史上空前の利益を上げたその頂点に近いところで、それゆえにリーマンブラザーズの破綻による金融恐慌と過剰生産恐慌に直面した。この恐慌も成功物語の中で生まれたものだった。
この10数年間の変化は次のような状況のもとで生み出された。話を少し脇道にそらし10数年の変化の背景を書いてみたい。
日本の企業は、小泉改革を大きな節目として経営方針の舵を新自由主義の方向に大きく切り替えた。
このBlogでも何度かこの問題については書いてきた。
新自由主義的な改革の柱は次のようなものだった。
1 労働法制の改悪──終身雇用から雇用の流動化への転換。派遣労働などの不安定雇用の増大と働く者の賃金引き下げ。
2 社会保障の破壊──資本にとって社会保障の負担を減らすことが大きな目標になった。
3 庶民増税と法人税の引き下げ
これらの改革は、企業の負担を徹底的に減らすことによって、高収益を手に入れることが目的だった。
4 株主資本主義への転換──銀行の改革と企業の資金調達の仕組みの改変。銀行は為替、証券による利益の追求への転換。中小の銀行の整理統合。郵政の民営化。株主資本主義の導入──企業の資金調達を株で行うように転換した。国際てきな企業会計ルールの導入。
5 市場開放
これらを貫いたキーワードは2つ。規制緩和と自己責任だった。
日本の企業は、このような新自由主義的な改革の中で、史上空前の利益を上げ、200数十兆円の内部留保をため込んできた。それは、たび重なるリストラと正社員から派遣労働への切り替え、社会保障の破壊、庶民増税、企業減税などによって必然的に引き起こされた結果だった。
企業内部では、何が起こっていたのか。この点でNHKの番組は興味深かった。
日本の企業は、海外での委託生産(OEM)を盛んにおこなった。これは、日本国内での製造をやせ細らせるものだった。これに加えて、徹底的なリストラが行われ、技術者の切り捨ても進行した。日本企業の中で徐々に技術の形骸化が進行した。
日本の技術者は、中国の電機メーカーや韓国、台湾の電機メーカーにかなり入り込んでいる。サムスンの躍進の土台の一つに日本の技術者の力がある。
日本企業は、徹底的なリストラを推進しながら、コストダウンを図り価格競争に打ち勝つたたかいを徹底的に突き進めた。その結果、資本の高蓄積が生み出され、儲けは史上最高を記録した。電気製品の価格は、まさに価格破壊という言葉がよく似合うように下がっていった。
低価格化は、買う側の人間を驚かせるものが多かった。
NHKの記者は番組の中で、日本企業をリストラされた技術者がサムスンや中国の企業の中にもかなりいることを紹介しつつ、彼らはある時期から彼らが持っている技術を提供することに「ためらいがなくなった」と発言した。日本の企業が、彼らを必要としなくなって見限ったことが、ためらいをなくさせた原因だった。
その結果、日本の電機メーカーには、魅力的な商品開発の精神が失われて行った。既成概念にとらわれない斬新な発想、商品を開発する上で必要なチームワーク、これらが失われたのではないかというのが番組が投げかけた問題意識だった。
史上最大の儲けを上げた日本企業が、わが世の春を謳歌していたその瞬間に、企業はその内部から崩壊しはじめた。
企業の儲けを支えているのは、働く人々であることは間違いない。この企業の儲けの源泉である働く人々を徹底的に痛めつけ、絞り上げ、人間を安く働かせる不安定雇用に切り替えてきた結果、企業は自らのよって立つ基盤を掘り崩してしまった。
日本の企業は、いま、日本国内の市場を見放しつつある。証拠の一つが国民への負担増にためらいがないことだ。消費税増税は、公共事業の財源に使われる可能性が強まるとともに、より一層の企業負担の軽減につながっていく。日本企業は、狭く小さく細くなりつつある日本の市場に見切りを付けて、海外での儲けに力を注ぎ、さらに大規模な国内リストラを推進しようとしている。
SONYの技術者の方は、2度、3度Appleの話を紹介していた。
この世になかったものを出して、世界に大きな衝撃を与えてきたAppleは、自社のイメージを大事にして、ロゴマークにも徹底的にこだわっている。Appleは、Macが生み出す文化に誇りと確信をもって、決して安売りはせずに製品を販売する。Appleの技術を盗むものは絶対に許さないという姿勢を貫いて。
この姿は、かつて日本の企業がとっていたスタンスではないだろうか。パナソニックでなければとか、SONYでなければとかいうこだわりを消費者から奪い去ったのは企業自身だ。自分たちで自分の墓を掘っている、それが今の局面ではないだろうか。
成功物語が必然的に引き起こした深刻な破綻。日本企業は、この破たんの原因が自社の戦略にあったことをまだ知らないのではないだろうか。
「王様は裸だよ」
そう言われて気がつけばいいのだけれど。
この記事の東芝さんの考えには、僕として到底賛同できないないようですが・・・・シャープに関連する記事だったのでコメントします。
シャープの経営危機を簡潔に言うと、非常に不運でした。もちろんその不運はシャープの経営責任によるものです。対してAppleは非常に幸運だった。それだけです。Appleは工場を持たないので、すべて委託生産です。日本企業よりもっと徹底しています。
電機業界だけじゃないですが、グローバルで動く時代ですので中国のような国に簡単に真似されるような物を生産している会社は、これから生き残ることはできないと思います。Appleのような商品開発と企画の企業・・・要するに頭脳を使った仕事ができる企業が生き残る。同じく日本もこれからそうなろうとしています。というか・・・そうなってるんだけど・・笑。
ただ・・・中国なんかに真似できないようなものを生産している企業は生き残るでしょう。電機業界の場合、日立・東芝(東芝さんの好きな)・三菱です。日立の原子炉・・・さすがに中国は真似できないでしょう。
Appleは確かに委託生産です。注文すると中国から製品が届きます。しかし、同時に技術が流出しないように徹底的に管理していますよね。裁判の数がものすごいです。ぼくなんかが見ても「似てないなあ」と思うようなロゴに対してもヨーロッパで裁判を起こしていました。
Appleはアメリカで製品を生産したいようです。しかし、最大の問題は技術者がいないことだと書いてありました。日本もアメリカも技術の担い手が失われているようです。
日本の造船業でも同じような傾向があると赤旗が過去に書いたことがあります。技術立国だった日本が揺らいでいるのではないでしょうか。