母が体験した戦争

雑感

母は、第2次世界大戦が終わったとき20歳でした。
すでに小学校の教師でした。
短歌を書いていた母は、戦争が終わったとき、「日本が戦争に負けたと思って泣いた」ことを書いています。しかし、その後、あの戦争が日本の侵略戦争だったこと、自分たちが間違ったことを教えていたことを知り、「もう二度と戦争を繰り返してはならない」「教え子を戦場に送るな」という戦後の教育の原点ともなった運動に参加して労働組合に加盟しました。

母の思いの中には、許嫁が戦死したこと、同級生が出征し帰ってこなかったこと、疎開の子どもたちとの交流など、さまざまなことが色濃く残っていました。青春時代に戦争に翻弄された人々の平和を願う思いは、戦後日本が再出発するときの原点になりました。
戦争が終わって68年。自公政権は、戦後の反省を忘れたかのごとく、戦前への回帰に足を踏み入れました。
戦争を体験した人々が少なくなり、戦争を知らない世代が、歴史の事実をねじ曲げて、歴史を科学も技術も発達していなかった戦前の社会体制に戻そうとしています。今、国会で政治を反動化させている議員の方々は、戦争体験を親の世代から聞くことのできた世代です。歴史のバトンを受け継いで、平和と自由、民主主義を発展させる任を背負った世代だともいえます。しかし、政治を反動の方向に動かしている政治家の中には、日本の敗戦への憎しみがあり、時代を民主主義の方向に転換させたことをいまいましく思ってきた世代の遺志を受け継いだ人々なのかも知れません。

日本の戦争が正しかったと信じている人々の中には、今回の特定秘密保護法案についても、法案の内容を把握しないで、あたかもこの法案が、中国との間で、国家秘密を守るかのように捉え賛成している人もいます。
戦争のときに日本の戦争が正しかったと思い込まされていた国民は、多数を占めていました。信じていた人は、考えの上では窮屈ではなかったと思います。生活は窮乏を極めるようになりましたが。
しかし、自分の頭で現実を見つめていた人々にとって、あの時代は、自由と民主主義のない非常に息苦しい時代でした。
ナショナリズムに心惹かれている人の中には、政府の危険な動きが、逆に好ましく見えている人がいます。もうすでに、他民族を敵視し、日本のナショナリズムを鼓舞するという思想動員が、一定の成功をおさめているということでしょうか。

今の憲法の下で国民は、自由と民主主義を手に入れ、基本的人権の保障を実現し、国民主権を実現しました。日本人は、刀を持つこともピストルを持つことも許されていません。このような国民主権の国日本は、国家権力の手をしばって、国権の発動たる戦争を禁止しています。このような仕組みをもつ日本は、未来永劫、侵略戦争を引き起こすことのない国になりました。国民の生活の中には、戦争を引き起こすような火種は、全く存在しなくなりました。
日本政府がふたたび戦争を起こすためには、どうしても国民主権を侵害し、国民の目と耳と口をふさぎ、国家権力による戦争参加への仕組みをつくる必要があります。そのためには、今の憲法をひっくり返す必要があります。特定秘密保護法は、国民主権、基本的人権、平和主義という憲法原則とは正反対の社会体制を作ることによって憲法を死に体にする方法です。これはまさにヒットラーがワイマール憲法を形骸化させた方法にそっくりです。

国による戦争は、国家の力によって、上から国民に深く差し込まれてくるのです。国会の動きに興味や関心がない人々にとっては、明日からも日常生活は何も変わらないと思います。家族の団らんがあり、忙しい仕事があり、悩ましい問題を抱え、笑ったり泣いたりする生活は、間違いなしに変化しません。
しかし、知らないところで、警官の増員が図られ、国民を監視するシステムは、確実に強化されます。特定秘密保護法は、秘密を保護するために国民を徹底的に監視する仕組みですから、膨大な警察機構を必要とします。警備・公安警察の増員が図られ、国民を監視し始めると、次第に異常を感じる人が増えるかも知れません。でも、こういうことを考えないし見ない人々は、まさに昨日に続く今日であったという日々が積み重なります。あなたにとって政治は関係のない存在でも、政治があなたに介入する時代が始まります。

母の世代がまさにそうでした。母の青春は戦争の時代そのものでした。けなげに、一所懸命、日本がアジアを開放することを信じ、日本が戦争に負けるはずがないと思い込まされていました。こういう時代を再び繰り返させてはなりません。
戦前徹底的に弾圧を受けた日本共産党員は数千人程度です。今日、国会をとりまいた人々は15000人を超えた模様です。全国で特定秘密法案に反対し立ち上がっている人々は、おそらく数百万人だと思われます。
戦後の自由と民主主義を大事にして育った人々は、半端な数ではありません。国民がノーの意志を示せば、安倍内閣を退陣に追い込むことは可能です。

「山宣一人孤塁を守る。だが私は寂しくない。背後には大衆が支持している」
戦前、代議士だった山本宣治は、治安維持法に国会で一人反対し、最後の演説でこう訴えました。今は時代が違います。たった1人だった山宣は、姿と形を変え、無数の人々の精神となって現在の運動の中によみがえっています。山宣が命をかけて貫いた精神は、全世界共通の精神となりました。この道にこそ未来があることを確信し、歴史の回帰を許さないたたかいが、本物の未来を拓く道ではないでしょうか。
山宣が歩いた道を、今度は圧倒的多数の国民の歩む道として、歩いて行きましょう。


にほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログ 和歌山県情報へにほんブログ村 政治ブログへにほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へにほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログへブログランキング・にほんブログ村へ

雑感

Posted by 東芝 弘明