愛国心の押し売り
共同通信の配信記事 2013/11/14 21:16
文部科学省は13日、小中高校の社会科分野の教科書検定基準を改正し、近現代史の歴史的事実に関し政府見解の尊重を求める規定を明記する方針を決めた。教科書検定審議会の了承を得て来年1月にも改正し、来春申請される中学生向け教科書の検定から反映させる。
基準改正とは別に、愛国心を養うなどの教育基本法の趣旨を反映した記述を増やすことを狙い、教科書会社が編集の方針を記述する文書で、同法に沿った内容であることを今より詳しく説明させる。
「南京事件や従軍慰安婦に関する記述が偏っている」とする自民党の改革案に沿った内容だが、これまでの検定も事実上、政府見解に基づいた意見を付けて記述の修正を求めており、検定制度にどの程度の影響があるのかは未知数だ。
現行の社会や歴史分野の検定基準は「未確定な時事的事象について断定的に記述しない」などと規定。文科省が近現代史に追加するのは/(1)/政府見解や確定判決をきちんと取り上げる/(2)/諸説ある事柄について、多数説や少数説をバランスよく取り上げる―といった内容。
文科省幹部によると、南京事件の被害者数や慰安婦への日本軍関与の実態、竹島や尖閣諸島など領土に関する問題が念頭にある。
また、伝統文化の尊重や愛国心を養うなどの教育基本法の教育目標が教科書に十分反映されていないとの自民党の主張を受け、教科書編集者に同法に関する内容を記述しなければならないことを意識させるとしている。
一方、自民党が昨年の衆院選で公約に掲げた、中国や韓国などアジア諸国との歴史的関係への配慮を求める「近隣諸国条項」の見直しは、当面の検討課題とし、今回は見送る。文科省幹部は「外交問題に発展することは確実なので、政府全体で検討する必要がある」と話している。
教科書採択で同じ教科書が使われ続けている自治体では吟味が不十分な可能性があるとして、教育委員会が採択理由の公表を徹底するよう教科書無償措置法を改正する。
また、沖縄県竹富町が採択地区協議会の選定とは別の教科書を使っている問題を受け、統一採択に従わなければならないと法改正で明文化する。■教科書会社萎縮の恐れ
【解説】文部科学省が教科書検定基準に加える「政府見解を取り上げる」や「バランスを取る」などの項目はこれまでの検定でも運用で実行されてきた。実際に教科書の記述が変わるかどうかは分からないが、教科書会社が論争のある問題の記述を避けようとすることも予想される。
改正の発端は、自民党議員らによる「自虐史観」に対する批判だ。教科書で従軍慰安婦を扱うことや、保守層が「被害者数が多すぎる」と主張する南京事件に対し、検定基準の改正で軌道修正させようとの思惑が浮かぶ。
中学歴史教科書に限れば、過去には1997年春にすべてが従軍慰安婦を扱ったが、 従軍慰安婦記述への風当たりが強まり、2006年春にはゼロになった経緯もある。
政府見解が 必ずしも正しいと言い切れるかについては賛否があるだろう。第1次安倍内閣は、従軍慰安婦の強制性を認めた93年の河野談話を踏襲するとしつつも、07年に「強制連行を直接示す資料は見当たらなかった」との政府答弁書を閣議決定した。政府見解がその時々の政治・外交状況に左右されることの表れとも言える。
子どもたちが使う教科書には客観的事実や学説に基づいた内容が求められるが、事実が確定していないケースもある。政治的思惑で教科書の内容にまで制限をかける行為には慎重であるべきだ。
琉球新報の記事 文科省の教科書改革 「愛国心」なしは不合格 2013年11月16日
【東京】下村博文文部科学相は15日の記者会見で、小中高校の教科書検定基準と教科書無償措置法を見直し、「愛国心を育む」などとした教育基本法(教基法)の趣旨を徹底するための「教科書改革実行プラン」を発表した。教基法の目標に照らし、重大な欠陥があると判断した教科書は不合格にすることを検定基準に明記する。戦時中や戦前の日本に対する「自虐史観」を排除する狙いがあるとみられる。日本軍が強制したとされる沖縄戦の「集団自決」(強制集団死)への影響については「個別具体的な事例について言及することは控えたいと」と述べた。
下村氏は「現在の教科書は教基法の趣旨にのっとっていないと指摘される教科書もある」と指摘。全教科で愛国心を養うなど教育基本法の趣旨を生かすため、検定申請時に教科書会社が編集方針をまとめて文科省に提出する書類に、どの程度、教基法の趣旨を反映しているかも明示させることを明らかにした。
八重山教科書問題をめぐり、地方教育行政法(地教行法)の見直しも議論されていたが、下村氏は「まずは最小限に、無償措置法の中の共同採択のルールを明確化する」と述べ、採択地区協議会で同一の教科書採択を義務付ける考えを示した。地教行法は今後、教育委員会改革制度改革の中で改定し、教科書採択を教育長の権限とする方針。
教科書検定基準の改定は(1)通説的な見解がなかったり、特定の見解を強調したりしている場合にバランスの取れた記述にする(2)政府見解や確定判例がある場合の対応を規定する―との内容。検定不合格の要件に「教基法に照らして重大な欠陥がある場合」と明記する。
今回の改定は自民党の教科書検定の在り方特別部会の「中間まとめ」に沿ったもの。
この記事について、改めて考えたい。
一口に「愛国心」といっても、話者によってその意味するところには大きな幅がある。愛国心の対象である「国」を社会共同体と政治共同体とに切り分けて考えると分かりやすい。
社会共同体としての「国」に対する愛着は「愛郷心」(あいきょうしん)と言い換えることが出来る。
政治共同体としての「国」に対する愛着は「忠誠心」(loyalty)と言い換えることが出来る。(ウキペディア 愛国心)
政府が愛国心を語るときの愛国心とは、政治共同体に対する愛国心ということになり、これは政府に対する愛国心も含まれるだろう。いよいよ、社会の教科書が愛国心を一つの指標として評価されることになる。教科書検定が、愛国心によって左右されるようになると、真実を追求することが困難になる。
愛国心の中心は、愛郷心であっていいと思う。政府は、ときの政治的な動きによって、大きく変わる。政府が半国民的なものであれば、反政府的な考え方が愛国心でさえある場合がある。
国が、国民を支配しながら、この国を愛せというのは、愛の押し売りであって迷惑この上ない。愛すことのできないものを、愛しなさいと言われるほど、嫌なものはない。
国民は、政府が押しつける愛国心に対しては、「ごめんなさい」という権利がある。この場合の権利は、福沢諭吉が書いた権理だと言いたい。
一番、嫌いことは「歴史の事実をかえる」ことです。
その次「強要される“愛国”心」、でこの「あいこくしん」ですが英語で「LOVE」なんでしょうか。
決してそうだと思いません。
どうしてかと言うと「LOVE」は、家族の中でも常に使われます。そしてものすごく奥の深い意味があります。
ですから「LIKE」とは違うんです。
2年間、アメリカで生活した時に、実感しました。
ですから「好き」でなく「愛する」って言う意味合いは、本当に重い、重いものだと私は常日頃、感じています。
だから孫たちにも「LOVE」です。当然ですが・・・・・・・・・・・・
ちょっと辞書で引いてみました。英語で愛国心は、patriotism(パトリオティズム)です。これは、祖国を愛するという意味です。祖国を愛するということでいえば、愛し方は色々で政治的な体制を超えているようなニュアンスがあるように思います。
日本の愛国心は、日本語の言葉にあいまいさが潜んでいそうですね。国家のことを日本は、普通に国といいますよね。日常的に国という言葉が、国家を指している場合もあれば、日本を指している場合もあります。従って、愛国心という場合、政治共同体を愛することと社会共同体を愛することが、ごちゃ混ぜになっているような感じが出てきます。
祖国というのは、先祖代々が生まれ育った国ということですから、社会共同体の方のニュアンスが強いように感じます。ぼくなどは、愛する祖国というときに、なんだか広大な大地をイメージします。
個人的には、愛するという言葉には、くすぐったさを感じてきました。好きとか恋とかの方がしっくりきて、愛するとなると、なんだか言葉に出しづらいような、構えた感じを感じてきました。Loveは言いやすいですよね。LikeとLoveとなるとLoveの方がいい感じがします。言葉というのは不思議です。
ちなみに、明治のときに福沢諭吉は、権利(right)を「権理」と訳しました。rightには正しいという意味があり、権利を主張することは、正しいことを主張するという意味が含まれています。そういうように語源を考えると、rightは「権利」よりも「権理」の方が断然良かったのにと思います。
rightが権利になったのは、当時の官僚がrightを権利と訳したからです。福沢諭吉の権理という訳が今日に生きていたら、権理の主張は、正しい理を説くという意味と重なって、国民の中に根付いたのになあと思います。権利というと利益を主張したり利害を主張するようなニュアンスがあるので、嫌う人も多いです。自民党の方々の中には、権利を嫌う人がいるのも確かです。
権利が権理だったら、随分違ったのにと思います。誰も使っていませんが、ぼくはときどき、権利をわざと権理と書いています。説明しないと伝わらないものですが、権理という言葉が好きです。今からでも遅くはないので、権利を権理にかえてほしいと思っています。