「思い出のマーニー」観ました

雑感,映画

ma-ni-

昨日、「思い出のマーニー」を観た。場所はTOHOシネマズ梅田だった。映画を観る前に6階のオープンカフェでコーヒーとケーキを食べ、読みかけの本を読んだ。広い空間に静かな空気が流れていた。
「思い出のマーニー」を映画館で観られて良かった。そう思った。
「自分の娘に見せてあげたい」
エンドロールの画面を見ているとそんな思いも溢れてきた。

10代の少女の気持ちがていねいに描かれていた。自分の内面とくり返し対話するのが10代の特徴なのかも知れない。周りが見えているようで自己中心的で、もろく揺れ動く世代。そういう世代をくぐり抜けて少年や少女は大人になっていくのだけれど、人は次第に10代の感覚を思い出の中に折りたたんで、ときには、どこにしまったのかを忘れて生活している。
杏奈は、父と母を失い頼子「おばさん」の元で生活している。心は貝のように閉ざされていて、友だちと呼べるような同級生もほとんどいない。ぜんそくという病気を抱えていて、夏休み、静かな田舎で静養することになって、北海道の札幌から海辺の田舎町の大岩さんの家で一夏を過ごすことになる。
満ち潮になると歩いて行けない所にある誰も住んでいない湿っ地屋敷で、杏奈は不思議な少女マーニーに出会う。物語は、静かに緩やかに、少しホラー的な要素もかもし出しながら動き始める。

杏奈は、マーニーに出会って、はじめて人に対して心をひらく。2人は永遠の友情を誓い合う。この物語は、誰にも心を開かなかった少女が、マーニーに出会うことによって、氷が次第に溶けるように心を開いていく物語だった。マーニーとの別れによって、物語に込められた謎が解き明かされ、杏奈はまわりの人にも心を開き始める。それは、彩香という新しい友だちができたことと、頼子を「おかあさん」と紹介することを通じて鮮やかに描かれる。
数多くの映画の中で、数え切れないほど多く繰り返されてきた「おかあさん」という言葉。なのに杏奈のこの言葉に涙がこみ上げてくる。

マーニーが杏奈に与えたものは、「思いがけない、“まるごとの愛”」(映画のパンフレット)だった。杏奈を包み込んでいた愛の大きさが観客も包み込んでくれた。ここには静かに広がる希望があった。大きな事件は何も起こらない。すべては杏奈の夢の中の出来事なのかも知れないのに、マーニーの日記の存在とマーニーを知る久子との出会いによって、杏奈とマーニーとの物語は、現実と非現実が入り混じる不思議なものへと観客を誘い込んでいく。
この作品の中で大きなカギを握っているのは、杏奈と友だちになる彩香と絵を描いている久子だと思う。この2人は、マーニーが杏奈にとってかけがえのない存在であることを鮮やかに伝える役割を担っている。2人はそのことに気がつかないのだけれど、杏奈にだけわかる形でそれは示される。

以下は、ぼくの感想余話。
映画の謎解きはしない。それはもったいない。観たい人には秘密を残しておきたい。観た人は、映画の全てを知っているので、ぼくが書かなかった部分をおぎなって読んでいただけると思っている。
宮崎駿監督の作品は、謎を解いてもまだ謎が残るような描き方をしていることが多かった。「千と千尋の神隠し」のラストの千尋の髪を結んでいるゴム、「ハウルの動く城」のソフィーの銀髪、「崖の上のポニョ」の海の中の老人たち、「風立ちぬ」の直子と堀越二郎の関係。堀越二郎の生き方。宮崎駿の作品には、映画の話を克明に書いてもなお解けないテーマが残されていた。それは、謎を解かないまま観客に提示しているようにさえ見える。観た人にさまざまな感想を湧き出させてくれる作品たち、そこに宮崎駿の秘密の一つがある。それは、山田洋次監督が、映画「男はつらいよ」に幾重にも織り込んだ人間の心の動きと同じようなものだった。
「思い出のマーニー」に残された謎は、杏奈が子どもの頃抱えていた人形の存在なのかも知れないが、作品が描いていた謎解きを書いてしまうと、観る人の楽しみを奪ってしまうような所もある。一つの映像にたくさんのものを織り込んで描くという描き方は、米林監督にはまだできないのかも知れない。
宮崎さんのような複雑さは「思い出のマーニー」にはないけれど、真っ直ぐに描かれた作品世界は、観る人の心を揺さぶるものだった。真っ直ぐなのに、丸くて温かい。微妙な心の揺れや感情をアニメーションで表現するのはものすごく難しかっただろうと思う。実写による生身の人間の演技なら、唇の動きや目の表情が細やかに映し出される。アニメーションが最も苦手な、描ききれない部分でもある。この作品は、これに挑戦する希有なものだった。

「もう一度見たい」
娘に見せてあげたいと思いつつ、浮かんできた思いの中にはこういう気持ちもあった。
映画館を出ると、ぼくは真っ直ぐにパンフレットを買いに行った。


にほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログ 和歌山県情報へにほんブログ村 政治ブログへにほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へにほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログへブログランキング・にほんブログ村へ

雑感,映画

Posted by 東芝 弘明