思い出せない。

出来事

東京に着くと雨は降っていなかった。時刻は12時25分ごろだった。八重洲中央口から外に出て、タクシーに乗り、シェーンバッハサボウへ。
1時から町村議会議長会主催による広報研修会が始まった。

朝、大阪に向かう電車の中で、筒井康隆さんの『創作の極意と掟』を読んでいると、文字による描写をしたくなった。
前に大学生風の女性が座っていた。髪はほぼセンターで分けられ、下を向いている。目線の先には、プリントらしき紙が見えた。膝の上には、紙袋とビニール袋の二つの荷物があり、抱きかかえられていた。紙袋からは箱が覗いていた。お菓子の箱のように見える。
靴はバスケットシューズ、ブルーのジーンズ、赤いストライプのシャツ、シャツの上にはグリーンの、グリーンの、ほら、あのよくみんなが着ている、毎度お馴染みの、あの。
全く言葉が出てこなくなった。
あの服は何という種類の服だったんだろう。
考えても全く思いつかないので、iPhoneで検索した。服、男性、昔の学生、何を検索してもヒットしない。電車の中を見渡しても、その女性以外に同じ種類の服を着ている人が見当たらない。
ぼくの家には、何着もある、あの服。
河内長野あたりから、新今宮あたりまで延々と検索してから、あきらめた。どうも、気分が優れない。出そうで出ないのは、体に悪い。
難波で地下鉄めがけて階段を降り、御堂筋線に乗った。たまたま議会事務局員のMちゃんの向かいに立ったので、聞くことにした。
「ほら、あのTシャツのような形の生地のごつい、あのね、林ますみさんが、ミキハウスのロゴの入ったやつ着てたやろ」
「キャラクターですか?」
「いや、そうじゃなくって。何というか、肩のところがこうなってて」
両肩のところからなで肩のように弧を描いてみせた。
「えっ、トレーナーですか?」
「トレーナー?」
引っかかるものがあった。
そうだ、トレーナー、トレーナーだ。霞がはれるような感覚が広がった。

ぼくの目の前に座った女性は、ぼくたちが、大学生の頃着ていたようなファッションをしていた。地下鉄の通路を行き交う人々の服装をいちいちチェックして歩いていても、誰も着ていなかったトレーナー。思い出せて本当によかった。

研修はみっちり休憩なしに4時間続いた。最初の講師の人が強調した、「文章の長さは30字まで」。この言葉が強く印象に残った。


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出来事

Posted by 東芝 弘明