アベノミクスの破たんが解散総選挙の引き金をひいた

雑感

7月から9月までのGDPの速報値が発表された。11月18日の読売新聞と毎日新聞の記事を踏まえて書いておく。
読売新聞は、「物価変動の影響を除いた実質GDPが前期比で0・4%減、このペースが1年間続くと仮定した年率換算では1・6%減と、想定外のマイナスとなった」と報道した。
これを受けて、日経平均株価も1万6973円80銭となり、前週末比で517円3銭安となった。これは、今年2番目の下げ幅だった。もう少し読売新聞を引用しよう。
「大企業の業績は好調だったが、消費の低迷で投資を控える企業も多く、設備投資は0.2減だった」
読売新聞でさえ「『アベノミクス』への評価に陰りが見え始めた」と書いた。
記事の中には「想定外の落ち込み」だという表現になっている。ここが「しんぶん赤旗」と明確に違うところだ。経済的指標が全体として悪かったのは、円安による物価の上昇と消費税の増税及び実質賃金の低下にある。「しんぶん赤旗」は一貫して国民経済全体を視野に入れて、消費税増税が経済を悪化させるという視点を貫き、政府発表の数値を分析してきた。大企業の業績が上がり、株価が上がっても、日本経済全体は落ち込んでいるという視点はぶれなかった。これは、消費税を3%から5%に引き上げたときに起こった景気の底割れという歴史の教訓を踏まえたもだった。

アベノミクスは、「(1)大胆な金融緩和(2)公共事業などの財政政策(3)規制緩和などの成長戦略」(毎日新聞)という3本の矢から成り立っている。この矢は、大企業応援の政策であって、ここには国民の生活をよくするという視点は何もない。なぜないのかも明白だ。この理論は、大企業が潤い儲けが上がってこそ、賃金も上昇し、国民経済も潤うというトリクルダウンと呼ばれる架空の哲学に依拠しているからだ。
毎日新聞は「企業業績を伸ばし、賃金に反映する好循環は成功しているが、何巡かしないと完成形にならない」という甘利明経済再生担当相の記者会見での言葉を記事にしているが、ここにはトリクルダウンの考え方が見事に表れている。

日本のサラリーマンの賃金は、10年間で年間平均80万円も減少してきた。内需の冷え込みは、働く者の賃金の減少に最大の原因がある。正規労働者を非正規労働に置きかえるような労働の「規制緩和」を進めてきた結果、不安定な雇用形態が拡大するとともに、正規雇用の労働者の賃金も減少の一途をたどった。毎日新聞は、「しぼむ実質所得」「長引く消費低迷」「企業収益波及せず」「設備投資も低調」という見出しを記事に付け、経済の好循環というまさにトリクルダウンの図を書き、これがうまくいっていないことを説明している。

企業の利益は、内部留保として貯め込まれ、賃金の上昇にも設備投資にも回らなくなっている。多国籍企業化している会社では、収益を海外の工場建設などに投資しているが、国内には投資していないという指摘もある。
こういう現実をまともに見ないで、大企業の業績が上がれば賃金が上昇して、経済が好循環すると説くのは、日本経済の実態をみない空論にすぎない。アベノミクスは、破たんする構造をもっており、それがあからさまになって表に出てきたのだ。今回の消費税増税の凍結・延期は、まさにアベノミクスの破たんを見事に表している。

消費税の増税は、今回も法人税の減税とセットで進行しつつあった。実効税率で35%程度の法人税を20%台にするという話が進行していた。法人税率1%は、5000億円の税収に匹敵する。仮に6%減税すると3兆円の税収減になる。25%まで下げると5兆円の税収減がおこる。この穴をどう埋めるのか。政府は、外形標準課税を強化して赤字の企業でも税金を徴収する仕組みを検討している。しかし、財源の穴埋めとして期待されるのは、やはり消費税だろう。5%から8%への増税で年間8兆円の負担増になった。1%消費税を増税すると税収は2兆6600億円増える。あと2%増税すれば、法人税の減税は実行に移せる。政府と財界はこういう計算をしていたのだ。
3本の矢の3番目の成長戦略は、大企業の経済活動の支援が軸なので、この中に消費税増税が組み込まれていたと見ていい。消費税増税を凍結・延期したのは、まさにこの成長戦略の破たんを意味する。

解散総選挙は、アベノミクスの破たんによって引きおこされた。戦争する国づくり、原発再稼働、アベノミクス。この3つの分野で根本的な転換をはかるために、選挙で日本共産党が躍進することが求められている。
国民の意思で政治を動かす絶好のチャンスがやってきた。

地域経済の状況に視点を移そう。
アベノミクスの3本の矢には、地方における地域経済の活性化という視点は何もない。関連も関係もない。とくに大企業が地域にないところでは、アベノミクスをどんなに強めても、何の変化も起こらない。ただし、どの地域でもアベノミクスに若干関係がある人々がいる。それは、株で儲けた人たちだ。株をしていない人で地方に住んでいる人とアベノミクスの関連は見いだしがたい。
ところが、悪影響という点になると、全国民的規模で被害が及んでくる。
「和歌山にアベノミクスは来ませんでしたが、消費税増税は今年の4月1日、全国津々浦々に一気にやってきました」
ぼくはこう演説したことがある。働き方の問題でも、ぼくたちの田舎でさえ派遣労働が当たり前のように聞かれるようになった。

地域経済は衰退している。衰退の原因は、日本政府による大企業優先の政治とアメリカの利益優先の政治にある。
京都大学の岡田知弘教授が書いた論文読んだ。日本の企業が多国籍企業として展開していき、生産拠点を海外に移すとともに、輸出企業中心に支援策が講じられ、規制緩和が推進されると、地域経済の衰退が目に見えるようになったと書いてあった。90年代に入りバブルが崩壊して以降、自民党によって採用された政策が、地域を確実に崩壊に向かわせた。この傾向に拍車をかけたのが、小泉さん以降展開された構造改革だった。
地域の衰退は、自然現象ではない。大企業を栄えさせる政策が、結局は地域経済を疲弊させてきたのだ。多国籍企業は、国内への再投資を縮小させてきたので、大企業が潤えば地域も潤うという形を日本は完全に失ってしまった。

TPP交渉が秘密裏に進められている。一部企業の利益のためのこの交渉は、日本の農林水産業に壊滅的な打撃を与える。日本の農業も輸出すればいい、と一部の方々は言っている。しかし、外国を相手に農産物の輸出を実現しようと思えば、相手国の産業構造や市場を深く理解する必要がある。このような知識をもち、貿易ができるノウハウをもっているのは商社だろう。
結局は、農協に出荷していた農産物を商社に出荷するように変わる。果たして農協出荷よりも儲かるのかどうか。完全に販売のノウハウを商社に依存すると、農家は商社に首根っこを押さえられる。
自民党流の経済発展のデザインは、完全に破たんしている。人口減少も地域の衰退もGDPの減少も、その原因は今までの経済政策にある。このことを自覚できない自民党は、歴史的な役割を終えた古い勢力にしか過ぎない。

日本経済の成り立ちと地域経済の成り立ち、産業の仕組みを知り、どうすれば地域経済を立て直すことができるのか。これを考えていかなければならない。

長くなった。具体的な地域経済の振興策を行うためには、国の政治の転換が必要になっている。極端な大企業中心主義とアメリカの利益優先の政治を改めないと、本格的な回復の見通しは立たない。
現状の枠の中で、もがき苦しみながら地域経済を活性化する努力をしようと語っている。この分野の施策は、まだあまり形になっていない。現状の枠内での努力には自ずから限界がある。しかし、衰退に任せ壊れてしまったら、立て直すのは非常に困難になる。
人々は、それぞれの地域で主権者として誇りと自覚をもって生きている。生業の復活や活性化は、人間の生き方そのもの。国の政治の転換は、地域経済活性化の土台や条件を大きく変えるけれど、結局は自分のもっている仕事が成り立つようにするには、個人的な努力や地域における努力が最後まで必要になる。地域経済の活性化は、国政の問題であると同時に、国民一人ひとりの問題でもある。この視点で、この問題に肉薄したいと考える。


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雑感

Posted by 東芝 弘明