りんごの話

雑感

『君たちはどう生きるか』を読み始めた。戦前の日本の東京は、ぼくが思っていた以上に文明的だった。省線電車(運輸省管轄の電車)が走っており、車の普及もかなり進み、タクシーも走っていた。
話の中にニュートンとりんごの話があった。おそらくぼくが初めて読んだニュートンとりんごにまつわるエピソードは、この『君たちはどう生きるか』だったのだと思った。
高校を卒業して、『われら高校生』という日本民主青年同盟が発行していた高校生向けの新聞にニュートンはどうしてりんごが木から落ちるのを見て、万有引力を発見したのかという特集があった。このときの記憶が鮮明だったので、この特集記事よりも前に『君たちはどう生きるか』に載っていたことをすっかり忘れていた。

なぜ、ニュートンはりんごが木から落ちるのを見て万有引力の発見に繋がったのか。
この問いに対する『君たちは──』の説明は、その原理のすべてを書いてはいなかったが、ニュートンはこう考えたのではないか、という点で非常に示唆的だった。
物には引力があるというのは、ニュートンの発見ではなくて、それ以前の科学者によって主張されていたが、ニュートンは、りんごの実の高さを月まで伸ばしていったときに、どうして月は落ちてこないのかという疑問にたどり着いた。ニュートンは、そこから月の研究を行って、天体に働いている引力も地球上の樹からりんごや葉っぱが落ちたりする力は、すべて同じ引力の働きによるということを発見した。しかもその法則を計算式で表した。

『君たちはどう生きるか』の記述には、月も地球に向かって落ち続けているということは書かれていなかったが、自分の頭で疑問を追求していって真理にたどり着く物の見方考え方が大切だということを力説していた。

ぼくは、随分前に小学校の卒業式の来賓の挨拶で、ニュートンはりんごが木から落ちるのを見て、月はどうして落ちてこないのかという疑問をもって、月も地球に向かって落ち続けていることを発見したという話をして、自分の頭で考えることの大切さを語ったことがあった。小学校の卒業生に真意が伝わったかどうかは、心もとなかったが、ニュートンの問題意識と研究態度は、学ぶとは何かを考えさせてくれるものだと思う。

この考え方は、すでに80年前に世に出た子ども向けの本だった『君たちはどう生きるか』で豊かに展開されていた。読んでも忘れる人間の性質についても痛感した。
『君たちはどう生きるか』という本の書評には、道徳の本だというような評価があるが、この本は人間の生きる規範を教えているのではなく、生きる上で何が大切なのかを語りかけ、考えさせる本になっている。哲学する本だというのが、この本の最大の特徴だろう。
12歳ぐらいのぼくが読んだ本を59歳になろうとしているぼくが読んでいる。47年の時間がたって読む本は面白い。


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雑感

Posted by 東芝 弘明