働く者の権利と『なつぞら』

雑感

『なつぞら』が面白い。連続テレビ小説で労働組合が好きな坂場一久が描かれ、女性が結婚し、出産したら契約に切り替えられる話が出てくるのは、初めてのことかも知れない。
実際、東映動画の世界では、労働運動が盛んに行われ、働く者の権利をめぐってかなり激しいやり取りが行われていて、なつのモデルだった女性もその渦中にいた。高畑さんも宮崎さんも組合運動の先頭に立っていた。

日本の労働運動は、レッドパージを通じて、資本と正面から向きあわない傾向が強まり、労働運動の弱さが働くルールの未確立、弱さになって現れるようになった。1日、24時間。睡眠時間8時間、自由な時間8時間、働く時間8時間、これをめぐって労働運動が行われて来た。結局、1日24時間という限られた時間の中で、日本は働く者の権利を守りながら生産性を引き上げて、ワーク・ライフ・バランスを生み出して行くというようにならず、マルクスのいう絶対的剰余価値の生産という点で今もたたかわれているような状況にある。本当の意味で8時間労働制が確立しない中で、日本は生産性を引き上げる必要のない国となって、先進国の中で立ち遅れ、長時間労働を当たり前にすることによって、社会がひずみ、悲鳴を上げるようになりつつる。

1990年以降の29年間、日本はGDPを引き上げることができず、労働者の賃金はちょうど1990年初めのころと同じ状況にまで落ち込んできた。失われた30年。これが現実的響きを持ちつつある。

日本は素晴らしい国だという言い方が、結局は世界の中で事実をまともに見ない言い方とつながり、さまざまな面で日本が周回遅れになって世界の先進国からその地位を失いつつある。ヨーロッパの国の中には、ドイツのように労働時間を短縮しながら日本よりも生産性を引き上げ、労働者の賃金を引き上げて発展する国が生まれてきた。比較すれば、その差はものすごく大きい。1日の限られた24時間の中で、12時間、14時間、16時間というように長時間働かされている(自主的に働いているように見えて、働かされている)中で、人間の生活が蝕まれている。社会の中にさまざなま矛盾が蔓延し、結婚と希望が結びつかなくなり、人間と人間のコミュニケーションにさえ歪みが生まれている。8時間労働制を実際に貫ける社会にならないと日本はもう前に進めない状況になっている。

一言で言えば、長時間労働の中で人間の生活も社会も壊れつつある。働く者の権利を守れない国は、国自身を破壊してしまう。日本人は疲れ、疲弊し、人間関係さえ壊れるような状況に立ち至っている。

『なつぞら』を見ながら、若者の闘い、生きることと働くこと、生活することの意味を考えている。働く者の権利を守る視点で『なつぞら』を見ている自分がいる。


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雑感

Posted by 東芝 弘明