「ささえあい橋本」を厚生文教委員会で訪問した

出来事,かつらぎ町議会

9時前に役場の前に行くと、すでにワンボックスのワゴンが停まっていて、議員が車に乗り込んでいた。朝、橋本市の「ささえあい橋本」が行っている福祉有償運送の視察に行くことになっている。ぼくも車に乗り込んで、議員全員が揃ったところで役場を出た。橋本市民会館の駐車場には、9時16分に到着した。自分で運転してここに来るよりも、乗せてもらった方が時間がかかるような感じがする。いつも、早く行けるようになったのでギリギリに出発することが多く、道順に意識が集中しているからかも知れない。

視察は9時30分に始まった。最初、御礼のあいさつをして、「ささえあい橋本」の方の説明を聞かせていただいた。そのあと質疑が始まった。
「ささえあい橋本」は、福祉有償運送の取り組みがあることは宣伝しておらず、橋本市の包括支援センターなどからの依頼を受けて動くようにしている。介護認定のサービスを組むときに、ケアマネージャーと同行訪問をして、契約を交わすようにしている。このようなやり方で800人ほどの会員に対して買い物や病院、施設などへの運送をおこなっている。
したがって、800人の会員の圧倒的多数は、要支援1、2の方と要介護度認定を受けた方だ。どのような方が紹介されてくるのかは、今日の説明だけでは分からなかった。橋本市がどういう人々を福祉有償運送に紹介しているのかを聞いてみたくなった。
料金は1㎞100円だが、利用料金の最低額は200円となっている。最低の利用料が200円で㎞単位に料金を支払うことになっている。カウントが行き1回、帰り1回だから行きと帰りに料金を払うという方法だろう。この料金体系だと人件費は全く出ないという形だ。車のガソリン代、オイル代、タイヤの摩耗、車の点検代、車検代車の購入費等々を計算すると、こういう経費のギリギリのところの料金設定になっている。このような料金体系を組んでいるのは、「ささえあい橋本」の独自の判断だ。
100円のうち90%をドライバーが受け取り、10%を運営経費として納めるという形態だ。

質疑は「民業(タクシー業)を圧迫しないか」というところから始まった。
「民業圧迫との兼ね合いでいえば、橋本市が調整を行っています。橋本市の紹介で利用者が紹介され、契約が交わされるので、タクシー業界からのクレームというのはありません」という話だった。紹介の仕方は、上に書いたとおりだ。
福祉有償運送は、おおむねタクシー代の半分まで料金を設定できる。どのような料金体系を組むのかは、運営する団体の判断だろう。ぼくは、委員長なので基本的には質疑を行わない。話を聞きながらこの100円の設定の妙味を感じていた。
今はまだサービスの提供が会員とドライバーとの間でまだなされている部分があるという。事務所に電話を入れ、そこからサービスが始まる仕組みに移行中だという説明だった。ドライバーとの直接交渉で運行されていると事務所が全体の事業を把握できなくなる。1か月単位のドライバーによる報告によってドライバーごとの事業量が把握され、10%の経費の受け渡しも行われる。

100円という料金体系の妙味は、運転手にとってまったく人件費部分が出てこないので、2時間、3時間拘束されても拘束時間はすべて「ボランティア」ということになる。車の必要経費だけが返ってくるので不正が起こりにくい。不正を働いて会員を乗せて移送したことを報告しなくても、ドライバーの手に入るのは100円の利用料当たり10円にしかならない。今のシステムで人件費分がある程度出るような料金体系になったら、全ての運行を最初から記録できるコンピューターシステムを導入しないと不正受給が生まれるようになるだろう。

所得の低い高齢者の方々が、市の判断によって福祉有償運送を利用するという形が成立しているのだと思われる。この部分がどうなっているのかは、橋本市に訊ねたいと思った。民業圧迫という質疑はあったが、800人の方々が、日常的にタクシーを利用するという形にはおそらくならない。つまり、「ささえあい橋本」の存在がなければ、「移動」という基本的人権に関わる要求が実現できないなかで、成り立っているのだろうと感じた。ささえあい橋本が行っている移送サービスは、このサービスがなければ、移動を実現できない人々へのサービスになっているということだろう。
必要は発明の母。住民の中にあるニーズに答えた結果、「ささえあい橋本」のサービスが生まれたので、タクシー業界との棲み分けは、最初から実現しているのではないか。橋本市と「ささえあい橋本」の連携。ここに事業を理解するカギがあったのではないだろうか。

運転手は、橋本市がボランティアを募集し、講習を「ささえあい橋本」が行って、さらに意欲のある方に研修を受けてもらって、ドライバーを認定するという仕組みだった。この方法は、かつらぎ町も大いに学ぶべきだと感じた。公民館にしても、社会的な役職にしても、人的な関係だけで人々を組織できる時代は終わりつつある。企業戦士のように働いてきた人々は、地域とのつながりを持たないで退職している。これらの人々に社会的な活動へと促すためには、ボランティア養成講座という仕組みを積極的に構築する必要がある。この面での取り組みも深く知りたいと感じた。

橋本市は、「ささえあい橋本」の福祉有償運送がかなりの役割を発揮している一つの事例だと思われる。年金が少ない人が増えている中で、どのようにして移動の権利を保障するのか。ひとつの積極的な事例だった。ここから学ぶことは多いと感じた。

ドアtoドアの乗り合いタクシーも、低料金でのタクシーとして、全国で運営されている。乗り合わせる人々が、1人1人200円ないし300円の乗り合いタクシーの運営方針によって決められた料金を支払ってタクシーを利用する。市内どこまで行っても200円というような、タクシーの料金体系からいえば、成り立たないような仕組みのもとで運営されている。民業圧迫かといえばそうではない。多くは、タクシー会社に乗り合いタクシーは委託されている。そのためにオペレーターの経費も含め、何千万円かの委託料がタクシー会社に支払われ、初期費用のコンピューターシステムも行政が負担している。運営と運行のシステム設計と事業の運営費用を自治体が計算して、タクシー会社に委託する方法がとられている。コンピューターシステムによる運営を商工会などタクシー会社とは別の組織に委託している例もある。

乗り合いタクシーは、面積の大きな街であれば、エリアを限定して運行されている。料金もそのエリア内で支払うようになっていたり、目的地までの料金だったりする(エリアをある程度越えても移送するケースがあるため)。乗り合わせる、1日8便程度(1時間に1便、8時間運行)、という条件なので普通のタクシーのようにはいかない。10人乗ったら10人の目的地に人を降ろしながら、もしくは途中で人を乗せながら運行される。この不便さが乗り合いタクシーの特徴なので、普通のタクシー料金ではない料金設定ということが実現できる。タクシー会社はボランティアではないので、運営委託料と料金収入で人件費も含め経営が成り立つ制度設計を行っているということになる。タクシー会社と行政との関係は、Win Winの関係になるということだろう。行政がなでWinなのか。住民の基本的人権に関わる移動の権利を保障するとともに、地域住民の社会的交流を促進し、健康の促進にも寄与し、経済の波及効果も生み出すという点でWinになるということだ。
会員を乗せて下ろすという複雑な運行を成立させているのは、コンピューターだ。事前登録制と予約制なので、会員がオペレーターに電話をかけると、顧客を乗せる場所と下ろす場所が入力され、瞬時に運行ルートがコンピューターによって作成され、どこで誰を乗せ、どこで誰を下ろすのかが決定される。この情報をタブレット端末を持った運転手に送信して車が走るということになる。

かつらぎ町が、ドアtoドアの移送手段として、福祉有償運送を実施しつつ、乗り合いタクシーを運営するのか、それとも乗り合いタクシー1本に絞るのかは今後の検討課題だろう。山間部の移送手段は、別の形の研究がいるのかも知れない。


にほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログ 和歌山県情報へにほんブログ村 政治ブログへにほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へにほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログへブログランキング・にほんブログ村へ

出来事,かつらぎ町議会

Posted by 東芝 弘明