子どもの頃飼っていた猫 2005年12月5日(月)

雑感

ものすごく寒くなった。
花園から来た議員の車には、かなり分厚い雪がのっかっていた。
町全体が冷蔵庫になった。この寒さは半端じゃない。
心の準備なしに冬がやってきた感じ。
子どもの頃、かつらぎ町の新城に住んでいた。
みぞれが降り初雪が降ると冬が始まり、3月になって雨が降ると春が始まるという感じだった。
朝、吐く息が白くなった日、なんだかやけに窓の外が白っぽい感じがした日は、窓を開けると貴志川の対岸の、シュウロの葉っぱや木々に雪が積もっていた。布団から起きて服を着替えるのが寒くていやだった。
小学校何年生の頃だったろう。Mさんの家から白地に茶色の模様のある猫がわが家にやってきた。ミルクに砂糖を入れないと飲まない贅沢な猫だった。
ご飯にカツオブシをかけてやると、ぐるぐるのどを鳴らしてカツオブシだけ食べるような猫だった。
母は、この猫にキティという名前を付けた。まだ、世にキティちゃんというマスコットが生まれていない頃のことだ。母親はシートン動物記に出てくる野良猫のキティから名前を付けた。
当時、みんなが飼っている猫の名前は、ミケ、タマみたいなものが多く、外国名の名前を付けているものなどなかったので、ぼくは、友達から自分の家の猫の名前を聞かれるのが一番いやだった。
当時、テレビでは川崎のぼるさん原作の「いなかっぺ大将」が放映されていた。主題歌を歌ったのは天童よしみだ。
主人公の風大左右衛門、通称大ちゃんは、子どもながら柔道の天才で、田舎から出てきた天真爛漫な少年だった。動物と心が通じ、動物語を話せるという特技をもっていた。
柔道のお師匠さんになったのは、野良猫のにゃんこ先生だった。
ぼくは、このにゃんこ先生の「キャット空中3回転」、これにすごくあこがれていた。
キティは、ぼくの「キャット空中3回転」の実験材料になった。
キティの脇の下をもってブランコをこぐように空中に放り投げてきちんと着地できるかどうかを何遍もためしてみた。さすがに3回転させるとお腹からぼてっと畳の上に落ちてしまう。
屋根の上からスカイダイビングさせて着地できるかどうかという実験もしたことがある。
そういう実験をしたあとは、キティはしばらくぼくに寄りつかなかった。
新城の家は、田んぼの中の一軒家で、裏には壁のように山が迫っている。キティは、成長するにつれて、ネズミを捕るようになった。スパルタ教育の成果だったのかも知れない。
ネズミを捕るのは、実にじょうずだった。
ぱっと飛びついて、両手でジャブを繰り出す、ネズミから手を離す、逃げる、ぱっと飛びつき、ジャブを繰り出す、これを何回か繰り返して、弱ると食べるのだ。
となりの部屋で、ばりばり音がするので障子を開けると、キティが山でとってきたウサギを食べていたこともあった。
畳の上は血だらけだった。
冬になるとホームごたつの中に入ってきて、気持ちよさそうに寝ていることが多かった。のどを触ってあげるとぐるぐる気持ちよさそうな声を出した。
猫は、家につき、犬は人間につくのだという。なんだかこの話は真実をついているように思う。
猫には、凛としたところがあって、自分の世界があるように見える。
家族の一員だったキティは、餌をもらって食べることがなくなり、半月に1度ぐらいしか帰ってこなくなった。キティがいない日にちが長くなり、どうしているのだろうかと考えはじめると、ふらりと帰ってきた。次第に野性味が出てきて、自分で生きていうるという感じが強くなっていった。
体格はものすごく太く大きくなった。
帰ってきたときは、何食わぬ顔でぼくの横に寝そべっていた。
いつしかキティはふっといなくなり、2度と家に帰ってこなくなった。
それから何か月たっただろうか。
小学校の校庭に何匹か猫の群れがいて、その中心にキティらしき大きな猫がいた。
「キティ」
声をかけて近寄っていき、手を伸ばして抱こうとするとするりとすり抜けて逃げていった。
ぼくのことを忘れてしまったのか、それとも別の猫だったのか、ぼくには確信が持てなかった。
それ以来、キティを見ることは2度となかった。
記憶の中に1つの映像がある。
雪の降る朝のことだった。灰色の空から雪が静かに降り、景色は墨絵のように見えた。
雪の降る景色の先にある田んぼの中で、身をかがめ、地面の高さまで頭を下げて気配を消しているキティがいた。じっと見ていると、少し大きな鳥が田んぼに降りてきた。
キティはタイミングを見計らってパッと鳥に飛びついた。何枚か羽が飛び散り、キティの手には鳥が捕らえられた。
音のない世界の、スローモーションのように鮮やかな出来事だった。


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雑感

Posted by 東芝 弘明