小説を書く努力を始めたい
Amazonで保坂和志さんの「書きあぐねている人のための小説入門」という本を買って読んだ。保阪さんは、小説を書いてきた作家だ。その人の小説を1冊も読まないで、小説の書き方を読み、創作ノートを読むというのは、少々奇妙なことだと自分でも思う。
保阪さんは、ストーリーがあまりない小説を書いている。ストーリーテーラー的な作家ではないという点は驚きだったが、ストーリーは、結論から逆算しながら組み立てていけばできるという話が面白かった。結末が鮮明であれば、この結末に向かって書いていけばいいという話には、妙に納得した。
文体は、情景描写によって生まれるという話も新鮮だった。
小説は、文字だけで情景を描写し、場面を描く。一度に目に飛び込んでくる景色を一文字一文字、一行一行積み重ねる中で立体的に描いていく。文章は、読むのに時間がかかる。一瞬にして目に入ってきた景色でも、それを一度に描くのは不可能だ。ここにどう描くのかという苦労がある。しかし、生みの苦しみをへながら描いてこそ、文体が生まれるというのは、なんだか妙に納得した。
描写を少ししてみよう。
ホテルの総ガラス張りの玄関は外の景色を綺麗に見せていた。私は玄関の左端にある自動ドアに向かって歩いた。自動ドアは丸い円筒型になっている。円筒の中に進むと、後ろでドアの閉まる音がし外側のドアが両側に開いた。風が入って来た。寒い。気温が下がり始めている。外で待っている議員の数人がこちらを見た。黄色に染まった落葉樹が日の光を弾いていた。
映画ならほんの数秒のシーンなのだが、綺麗に流れるようにこのシーンを描くのは難しい。作家の中には、文章でリズムを作りながらなんとか流れるように文章を書きたいと思って、何度も書き直しをおこなっている人もいる。しかし、細かな描写を増やしていくと時間の流れが止まってしまう。
小説を書きたいという夢を20歳の頃から持ってきた。
本当に書きたいのなら実作に入っていかないと、小説は書けない。どのような小説を書きたいのかということすら定まっていないけれど、書く努力を始めたいと思っている。
和歌山県の紀北地域のことを小説という形で描いたものは少ない。有吉佐和子の「紀ノ川」と「華岡青洲の妻」ぐらいだろうか。ぼくたちが生きてきた青春時代というものを、その風景とともに小説という形で描いてみたいと思っている。
というふうに分かったように書いているが、小説を書いたことがないので、ぼくの書くものが小説になるのかどうか、実はまったく自信がない。まだ、何にも書いていない時点で、自分の思いを書いてしまってはいけないという気持ちも働く。書く努力の中で次第に小説とは何かが見えてくるように思っている。読んでいるだけでは分からない世界が書くことにはある。書くことによって見えてくる世界があると信じている。
議員活動をしていると、議会のたびに思考の中断が起こる。神経を集中して議会対策をおこなっていると、議会のないときに読んでいた本の中断が起こるし、さまざまな問題意識の中断も起こる。この宿命的な状態の中で、実作への努力が持続できるかどうか。まったく自信はない。それでも努力を重ねていけば、5年ぐらいしたら形になっているかも知れない。持続させるためにも、なんらかの文学サークルに入る必要があると思いはじめている。
今日書いたことを忘れないようにしたい。
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ホテルの総ガラス張りの玄関から外の日暮れゆく景色を私は眺めている。黄色に染まった落葉樹の木々が日の光を弾いている。美しいと男は思った。その落葉樹が冷たく寒い冬の季節を予感させる。多分季節の変わり目に少し自分はセンチメンタルな気分になっていると思った。それは毎年の事でたとえばホテルのガラス越しの風景でなくてもいいのだ。今はガラスが光の加減で胸に過去のノスタルジーを去来させている事は自覚している。時々ある事である。男はホテルの外に待っている議員の数人が私を見ているのでホテルの円筒形の自動ドアに向かった。ドアが開き木枯らしが一陣顔をなぜる。ひんやりと体を冷やす感覚もどこか懐かしい。いよいよ冬だなと私は思った。私は議員達を前に軽い既視感を覚えたが頭を横に振り、いつもの季節の変わり目の症状だと思いつつその既視感を拭い去り「お待たせ」と声をかける。タクシーに皆で乗り込み、繁華街の外れにあるバー「ブルーガラスの影」に腰を落ち着けた。飲み物はいつもの黄色い色が鮮やかなカクテル「バナナダイリキ」だ。映画ゴッドファーザーを観てから好きになった酒だ。店内には物憂げにジャズのスタンダードナンバーが流れている。マホガニーのテーブルに張り付いてバナナダイリキをくいくい呑んでいると睡魔が襲ってきた。バナナダイリキは呑みやすいカクテルなのでついつい呑みすぎてしまうが確実に酔いのキックが後からくる。私は今日は明日の事は考えずにこのまま寝てしまいたいと思った。今日1日は何だったのだろうという感覚に襲われた。ひょっとして夢でもみていたのかも知れない。バーのマスターは幻ではないかという疑問が湧いてきた。すると自分も幻か。自信が持てない。「俺は疲れている」休息が必要だ。「マスター、帰るわ、諸君失礼」私は我が家の帰路についた。家に着いた。窓に明かりが灯っている。なんだか泣きたいような気分がした。駄目だ。今日は心が何だか弱っている。でも家族には弱味は見せられない。「ただいま」から元気の声が玄関で響いた。
何も考えずに自動書記みたいにかいてみました。
「マホガニーのカウンター」の間違いがある事に築いた。カウンターとテーブルじゃ、大きな違いだなあ。カウンターの描写をするつもりが間違った。まあ、いいや、このように結論から結末に向かって書くのではなく、いきなり書き出してインスピレーションをどんどん働かせ書きながらモチーフが決まってくるという作家もいるようです。吾輩は違いますけどもね。
読み直してみるとあちこち間違いだらけだ。こんな事はしたくなかった。書いたものは削除できないので訂正したい。
「男はホテルの外に待っている議員の数人が私を見ているのでホテルの円筒形の自動ドアに向かった。」の男は私に訂正する。主語が「私」だったり「男」だったりするのは文章の整合性を欠く。筒井康隆は記者に小説作法について問われた。「先生、小説というものはどの部分が一番大変なんですか」その問いの答えが「推敲です。作品自体は時間はかかりませんが、9割は推敲に時間をかけるのです」と答えていた。
第2章
「ただいま」と声をかけるが返事がない。私は靴を脱ぎ居間へと向かった。妻が煎餅を口に咥えたまま炬燵の中に寝そべりながら振り返る。「あら、あなた今日は飲み会じゃなかったの?」眉間の皺がどうにも私のカンに障る。「眠くなって帰ってきたんだよ」「あら、そう」妻はそう言うとテレビの画面に顔を戻した。まだ我が家のテレビが薄型液晶テレビでなかった頃、ブラウン管テレビの裏にバナナの皮のミイラが年末の掃除で発見された時はあまりのモノグサ妻に罵声を浴びせたかったが、ぐっと堪えた事もあったなあ。男はテレビの裏からバナナの皮が出てきたぐらいの事で騒いではいかん。一応私は外では紳士的な議員という事になっているのだから。然し、世間の人々には分かるまい。何度かこの妻に密かに殺意を感じた事があるのを。妻殺しの完全犯罪を頭の中で計画してみた事もある。だが、私には目に入れても痛くない娘がいるのだ。妻とは他人だが、娘は違う。最近、小生意気になってきて、事もあろうに私に向かって「ハゲー」とか「バーカ」などという事を言う。本来なら張り倒すところだが、私は滅法娘に弱い。こんな口のきかれ方をしても「かわいいやっちゃ」などと思ってしまうのだ。こんな事は世間に知られたくない。我が家の秘密だ。私は娘に対してはドMなんである。こんな事が世間に知れたら私の政治生命が危うくなりはしないだろうかと恐れている。娘は嫁には出さないつもりだ。歳とって出来た子なので愛しさも一入だ。一人っ子なのは可哀そうだなとは思うが致し方ない。妻亡き後、私がヨイヨイになったらシモの世話をしてもらおうと思っている。そのためには今から甘やかすだけ甘やかし、世間の荒波を経験させず、世間知らずな人間に育てなければならない。深窓の令嬢のごとき生活をさせ、男は近づけさせない。みな追っ払ってやる。私の、私の、む、む、娘にちょっかいを出す奴は半殺しにしても構わない。う~む。う~む。いかん! 娘の事を考えると理性がどかに飛んで行ってしまうので落ち着こう。深呼吸をしよう。「すーはー、すーはー」「あなた、何してんの?」私が居間に突っ立ったまま深呼吸をしていると妻が怪訝な顔で振り向いた。「なんでもない。七瀬は寝たのか」「2階でヒップホップダンスの練習でもしてるんじゃないの?」「なんじゃそれは」「最近ハマっているんだってさ」「なんだと! 不良の娘が訳の分からんような体をクネクネするやつだな。とんでもない事だ!」私は衝撃を受けた。なんという事か。よりによって、ヒップホップとは! 私の目尻に涙が溜まって流れ落ちた。私は恐る恐る2階の階段を昇っていった。ジャンジャカジャンジャカ変なリズムの音が聞こえてきた。娘の部屋から聞こえてくる。ドアを軽くノックした。返事がない。こうなれば強行突破しかない。私は意を決してドアを開けた。耳をつんざく世にも奇妙な音のリズムが部屋に鳴り響いている。娘がそれに合わせて体をクネクネと動かして白目を剥き陶然としている。私は我が目を疑った。これが私の目に入れても痛くない娘なんだろうか。ははあ、娘に似た別人かもしれない。「こら、おまえ誰だ!」私は怒鳴った。娘は我に返り、きょとんとして私を眺めている。そして「おとん、酔っ払っているの?」と不思議そうにしている。私は狐に化かされたような態で呆然と確かに我が子である娘をしげしげと見た。娘だ。確かに娘だ。「七瀬、なかなかいいダンスだねえ、今度おとんにも教えてね!」私は心にもない事を口走ってしまった。「バーカ、おとんが踊れる訳ないじゃん、アホとちゃう?」「……」ぐうの音も出ない。一発で撃沈された。寝てこましたろ。「お休み」私は娘に小声で言ってみたがシカトされた。私は自分の寝室にすごすごと引っ込み着替えもせずベッドにぶっ倒れた。しばらくは意識があったが、睡魔が勝った。私は夢を見ている。娘が白目剥いて体をクネクネさせながらタコになって私に襲いかかっていた。 続く
こういう記事を書いたら、必ずコメントをしてくれると期待していました。何だかすごいですね。次第にぼくの日常生活に近づいてきました(?)娘の話は、わが家の秘密でも何でもないですね。自分でしゃべってますから。議員だということで、ポーズを取っている訳ではないので。極めて自然体です。
ところで、改行しないんでしょうか。野坂昭如さんのような書き方だと、わりと読みづらいので。2階に娘の部屋があるし、リビングにはこたつがあります。ぼくは、仏壇のある部屋に毎日ふとんを敷いて眠っています。妻には逆らいません。娘とは対等平等です。
でも、こういうコミカルな小説、嫌いではありません。
続きをお願いいたします。
改行して書きたかったんだけれども、ここのコメント欄の字数制限が分からず詰めて書きました。続きはネタ切れとなったので暫く考えてもっと凄い事になっていくようにしてみたいと思います。
おもしろいことにコメントに対する字数制限はないようです。
こんな風に書くと、ものすごいコメントが来たりして。
そういう場合は、管理者(東芝)が管理のために何とかします。
字数制限がないので、改行してお使いください。
第3章
「見なさい! あなた!」
何だ何だ、えらい剣幕だぞ。今度はなんで俺はまた妻から怒られるのかな、と私は過去の行動を反芻してみたが、とんと見当がつかぬ。
「何だよ」
「何だよ、じゃありません! 見なさい、河原乞食という訳の分からない人がバナナの皮の事を書いているじゃないの。だからあたしはバナナの事は書かないでと言ったんじゃないですか。あなたはね、妻の恥を世間にさらして何を考えている訳? え? 黙ってないで何とか言え、この野郎!」
「お、おまえなあ、亭主に向かって、この野郎とはなんだ、この野郎!」
「やるのか」
「む、おまえ、後ろ手に何を持っている」
「さっき、台所で白菜を切った出刃包丁よ」
「よせ、気でも狂ったか……」
「おうよ、気が狂ったわよ」
「なんだと、ひ、ひえ~! たちけてくれえ~」
「ふん、意気地のない人ねえ、あなた、妻殺しの完全犯罪を頭の中で計画した事があるそうね、何度も」
「ぶ、だ、ぐ、ぎょえ、くは、ののの、の」
「ののの、の、て何よ、ノーという意味かしら」
「むあ、むあ、あむ、あむ、」
「あむあむって何よ!」
「あぬなあ、まあ、おちちゅけや。」
「あんたが落ち着きなさい。さっきから何言ってんだか分からんわよ」
「ちんこきゅうをさせちぇくえ」
「え? ちんこ? ああ、深呼吸ね、早くやったらいいでしょう!」
「ぎょえ、すーはー、すーはー」
私は必死になって深呼吸をするのだが、いつもより苦しい。何しろ妻の後ろ手には出刃包丁があるのだから。もう、私は死ぬ限りの力を込めて深呼吸をした。
「すーはー、す、す、すーはー」
途中つかえはするものの、なんだか精神が落ち着いてきた。
「あのですね、要点だけいいます。話がこじれるといかんからね。つまりぼくは妻殺しの完全犯罪は頭の中で計画しました。でもね、現に君が今生きてますね。つまり、頭の中で計画しただけでは現実になんの影響もないし、犯罪でもない。頭の中でぼくが何を考えようがぼくの自由という訳です。考えただけで君が死んでぼくは犯罪者になるのかね、え?」
「その、え? ちゅうのは何か勝ち誇ったように聞こえるんだけど、それで言い訳したつもりなの? ふん、残念様ね。あのね、いいですか、あなた、耳の穴かっぽじってよ~く聞きなさい。あなたがあたしの殺人計画を思っただけであたしには充分過ぎるほどの犯罪よ!」
「そんなバカな話があるものか。ぼくには弁護士の友人がおるが、弁護士も納得せんよ。思っただけで犯罪になるものか!」
「あなたは本当におバカさんね。法律の話をしてんじゃないのよねえ。あなたが、あたしを殺そうと思ったというその事を言ってんのよ! 法律がどうのこうのじゃないの! 分からんやっちゃな、うら」
妻は私のほっぺたを出刃包丁でペタペタと叩く。
「タスケテクダサイ」
私は涙を流す事によってこの場を切り抜けようと思って涙を流した。不思議と涙が出てきた。こりゃいいぞ。もっと出したれ。
「ウ、ウ、ウ、」
調子に乗って鼻水が出てきたのは僥倖と言わねばなるまい。私は涙を流し鼻水まで流し、
「タヂュゲデクダチャイ」
と哀願した。哀願してみると不思議な事に本当に見るも哀れな鼻水、洪水のような涙だらけのグチャグチャ顔になっているのが鏡を見らんでも分かる。
「なんちゅう顔やねん。ああ、なさけないなあ、仕方ない、今回だけはカンベンしたるわ、けどな、あの、河原乞食ちゅうのんは何とかしさらんかい。好き勝手書きさらしおって、ホンマ腹のたつう! わかっとんのかい、なんとかしさらせ!」
「はい! 何とかします。おおい、今、パソコンでヘンな事書いてる河原乞食君、もう、そろそろ、これでしまいにしようじゃございませんか」
「それで、河原乞食は分かるんかい」
「そらもう、あねさん、こう見えてもぼくの意見には河原乞食君もさからえんでしょうよ。ぼくはブログ主なんすよw」
その時であった。私の頭上からキタチョーセンのニュース番組でお馴染みの男の声のような声がした。
「吾輩は河原乞食であーるすみだ。かむさはむにだすみだ。吾輩は始めた以上、この小説を完成させるあるすみだ。あにょはせよ。ぷぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱあぱぱああああああぱ」
何という事だ。悪夢だ。夢なら覚めてくれ。今の声は妻にも聞かれた。ああ。
「ダメなようね、あなた、『こう見えてもぼくの意見には河原乞食君もさからえんでしょうよ。ぼくはブログ主なんすよw』……」
「……」
えらい事だ。続きを書いてください、なんて書いてしまったし、ダメかやっぱし。この3章はぼくの妻はソクラテスも腰を抜かす程の悪妻に描かれているではないか。う、うわ~! た、助けてくれ~。
私はこの小説がまだ続きとなるのかどうか、非常に気をもむばかりであった。
続く
小説、ご苦労様です。エネルギッシュですね。
第4章
寒い。もう冬の訪れだなあ。私は手に息を吹きかけた。
「ううう、寒いなあ」
隣のカンちゃんの所に行ってストーブに当たらせてもらおう。
私は橋の下に作った急ごしらえの段ボール小屋から出てカンちゃんの小屋を訪ねた。
「カンちゃん、失礼するよ」
「おお、ホームレス代議士ヒロちゃん、さあさあ、こっちこいや、ストーブだろ?」
「うん、しょっちゅう悪いね」
「いいのよ、ここでは困った時は助け合って暮らしているんだから。でもこれから本格的に寒くなるからストーブを何とかして手に入れなきゃあいかんね」
「そうですねえ」
このカンちゃんなる人物は素生を明らかにしない男だが、他の連中の噂では偉い所のワンマン社長であったらしいという話だ。彫りの深い顔に伸びきった無精ひげが風格を感じさせる。歳は私より10歳程上らしい。という事は62歳か。
「コーヒー飲むか? ブレンディーだけど、ネスカフェのほうが美味いのだがネスカフェは高いからなあ」
「飲ませて頂くだけで嬉しゅうございます」
「うむ」
カンちゃんちでブレンディーを御馳走になりながら、私は今後の行く末を暗然たる気分で思いやった。
「何を深刻な顔しとるのや」
「いや、何でもないです」
「君もな、色んな事情があるのじゃろうが、住めば都、ちゅう言葉もある。君はまだ新人やから不安なのはわかるが、なに、じき慣れるじゃろ」
「そんなもんでしょうか」
「そうよ、天国じゃ」
「天国? わははははは」
「天国じゃ、わはははははは」
「おとーちゃーん」
「七瀬の声だ」
「娘さんかね」
「そうです」
「帰ってみれば?」
「はい、コーヒー、御馳走さまでした」
「うむ、なになに、またいつでもどうぞ」
「失礼します」
「うむ」
私は自分の小屋に戻った。戻ったと言ってもすぐ隣なのだが。
「おとう、またカンちゃんところに行ってたんか」
「うむ、コーヒーを頂戴してたんだ。色々親切にしてくれるんだよ」
「おとう、ケータイ、充電してきたで」
「うむ、すまんな、ま、中に入れや、外はごっつ寒いやろ」
「ほな、失礼するわ、あ、外とそんなに寒さはちがわへんやんか」
「そう言うな、風がないだけましやんか」
「この布団どないしてん」
「カンちゃんがゴミ捨て場の不法投棄のやつを拾うてきてくたんや」
「汚いで、臭いやんか」
「ないよりはマシや、それよりか、おまえ英会話はがんばっとるんかい」
「やっとるよ、ジシザペン」
「おお、ガンバっとるな、けどな、七瀬、それは英会話とちゃうで」
「なんでやねん」
「これはペンです、ちゅうてもな、見れば分かるちゅうねん。そんなんは英会話とちゃう」
「ほな、どんなんが英会話やねん」
「たとえばな、ヘロー! とかいうのが英会話やねん」
「ふ~ん、ようわからへんわ」
「どんな英会話教室やねん、何教えてんのや」
「おとん、人の心配しとる場合やないよ、これからどうすんねん」
「なんとかなる」
「なんとかなる、て、このままホームレスする気かいな」
「七瀬はまだ子供やから分からんけどもな、男にはな、メンツちゅう大事なもんがあるんや。あの女に家をおんだされておめおめと、御免なさい! ぼくが悪かったです。家に入れて下さい、ちゅうてな、頭下げるのはな、男じゃないねん」
「分かった、ほなら、うちがおとんの面倒みたるさかい、心配ないで。何でもいいたってや」
「すまんのう」
「まかしといてや、飯くうたんかい」
「まだや、キャッシュカードも、通帳も印鑑も、あの女が握ってるからなあ」
「どないして飯くってるんや」
「夜中にスーパーの残飯が出るさかいそれを貰ってるんや。残飯ゆうても豪華やで」
「ふ~ん。うんこはどうしてるんや?」
「川に直接流してるんや。これがホンマのカワヤや。ぶははははははは」
「わろとる場合かい」
「そやな」
「尻はどないするねん」
「段ボール集めて、廃品回収のおっちゃんに渡すと、トイレットペーパーをくれるんや」
「おとう、けっこう、生活力あるんやねえ」
「おおよ、男1っぴき、ど根性や」
「ブログはどないすんねん」
「この小屋で毎日更新してんねん。問題はバッテリーやねん、そやから予備のバッテリーがあってよかったわ、七瀬、そろそろバッテリーが危ないんでこれを充電してきてくれ」
「分かったわ、まかしといてや」
「たのんだぞ」
「うん」
娘は去って行った。娘は、私のいざという時の味方なのだ。そういう風に育てた。あの女は鬼だが、娘は天使だ。私はいざとなればホームレス議員としてこの小屋から議会にも行くし、議員活動もする。あの鬼には負けないのだ。2度と家には帰らん。だが、むこうが頭を下げて、
「私が悪うございました。家にどうかお帰りください」
と、頼み込んだら考えん事もない。然し、あの鬼が頭を下げる事はないだろう。世間体を悪くして恥をかくのはあの鬼であって、私ではない。同情は私に集中するだろう。テレビが取材に来るかもしれない。身だしなみだけはちゃんとしなければならん。風呂は遠くに銭湯があるが金がないのでたまにしか入れん。だによって、お隣のカンちゃんから、いつでもつこうてくれと、オーディコロンがカンちゃんちにあるので議会に出る時は体臭はそれでごまかそうと思っている。歯は川で磨いているし、何不自由もない。カンちゃんが、さっき言っていたが、「住めば都」というのも存外本当の事だろう。夜中に読書をしたいのでカンテラも用意してある。天国だ。誰にも邪魔されず読書三昧だ。
「ふはははははははははははははははは」
段ボールの壁ごしにカンちゃんがビックリしたような声で、
「どうしたあ、大丈夫かあ」
という声がした。
「大丈夫で~す! ちょっと笑いたかったもんですから、ビックリさせてすみませんでした」
「な~に、いいって事よ~!」
陽が落ちてきた。風も強くなってきたみたいだ。ひと眠りして、夜中になったらスーパーに行って残飯を貰ってこよう。食事が済んだら、浅田次郎の本でも読むか。私は寝床に着いた。汚い布団でも自分の体温で次第にぬくぬくとなってきて、私はうとうとしてきて、そのうち眠りに落ちた。
続く
何だか脱線してきましたね。ハチャメチャな感じです。私のところのような田舎では、ホームレスは無理です。公園や河原で住んでいると、警察と役場にチェックされます。ものすごく目立ちます。田舎でホームレスをするのであれば山にはいることですね。ただし、山に住んでいても、見つかる可能性が高いです。
都会の方がホームレスはしやすいと思います。
了解しました。
何とか、軌道修正して、もすこし小説らしくしましょう。
釈迦に説法でしょうが、第3章は「メタフィクション」という手法を使いましたが、これもやめて、本来の伝統的な「私」小説に戻しましょう。しばらく時間を下さい。悪しからず。
第5章
「ふははははははははははははは」
「おい、東芝君、おい! 諸君、東芝君は笑いながらねとるで、起こしたるか」
「うむ、そうだな、気色悪いな」
「こら、起きんかい!」
「うん? ここはどこだ?」
「何言うてんねん、ブルーガラスの影やんか」
「あ、そうか! ぼくはどのくらい寝てたんや」
「そうやなあ、30分ぐらいかな。どんな夢をみてたんや」
「ぼくがホームレスになる夢やった」
「ホームレス? ケッタイな夢やなあ」
「夢は大概がケッタイな夢と相場はきまっとる。マスター、バナナダイキリおかわり」
マスターは顔を俯けて言った。
「東芝さん、あなた今日はなんだかお疲れのようですよ、この辺できりあげた方がいいのじゃありませんか?」
他の代議士連中がマスターの提案に賛同した。
「そやそや、君、もう、うちに帰ってやすみなさい」
「そうかなあ、それじゃ帰れ、いわれりゃ、帰るわ、君達、付き合い悪いで」
「そんな事ない! 君の身を案じておるんじゃないか」
「そうか、そんならそういう事にしておこう、じゃ、諸君、さらばじゃ」
私は帰路についた。外は暮れなじみ、木枯らしが舞っている。ホテルに待機しているタクシーに乗り込むと私は運転手に自分の家を告げた。
玄関のドアを開けて靴を脱ぎながら、
「お~い、慶子、今帰ったで!」
と、どなった。
奥から妻がどたどたとやってきて玄関に正座し三つ指たてて、
「あなた、お帰りなさいませ」
と、頭を深々とさげた。
「うむ」
「あなた、今日は飲み会ではございませんでしたの?」
「なんだか、疲れたんで帰ってきた」
「そうですか、じゃ、お布団を敷きましょうか、それともお風呂になさいます?」
「飯が喰いたい」
「かしこまりました、お茶漬けでようございますか」
「うむ」
「かしこまりました」
リビングでお茶漬けを喰っていると私の後ろで慶子が畏まって立っている。
「あなた、おかわりはよろしょう御座いますか」
「うむ、もう1杯くれ」
「はい、かしこまりました」
慶子が後ろ向きに電子ジャーから飯を茶碗に盛っている。
「慶子」
「はい、旦那様、なんでしょう」
「七瀬はもう寝たのか」
「はい、もう、寝ております」
「そうか、今夜、おまえを久しぶりに可愛がってやろうか」
「あらまあ! あなた……」
慶子が赤面しながら2杯目のお茶漬けを持ってきた。
「赤くなっておるぞ」
「だって、旦那様、久しぶりどころか、もう、何年も……」
「そうだな、ぼくも忙しかったからなあ、布団敷いてこい」
「は、はい」
「あ、あなた」
「う、うむ」
「は、は~ん」
「むむむむのむと」
「はあ、はあ、はあ、のはあと、あ、そこそこ、あなた~」
「よし、よう、そろ~、メインタンクブロー、発射よーい。ウテー!」
「ああああああああああああああ」
「ああ、あなた、よろしゅうございましたわ。有難う存じます」
「うむ、苦しゅうない、下がってよい、ワシは風呂に入って寝る」
「畏まりました」
「うむ」
私は風呂からあがると寝巻に着替えて布団に潜り込んだ。先ほどの情交で布団はまだ温もっていた。私は目を閉じる。家の中はシンとしている。それにしても「ブルーガラスの影」では変な夢をみた。それがどうにも気になる。あれは正夢かもしれん。私は胸騒ぎがしてきた。ホームレス。つまり、今度の選挙で落選するという暗示ではないだろうか。心臓がドキドキしてきた。
「そんなバカな事はない!」
私はうつ伏せになり、布団を頭からかぶり、不安な考えを拭い去ろうと試みた。しかし次第にその考えに圧倒されてくる。頭が冴えてきた。
「こりゃいかん」
突然、コーヒーが飲みたくなった。なんでだろう。コーヒーが飲みたいとなると、「飲みたい」となるスイッチが入る感じだ。一つの思いに囚われると、なかなかそこから抜け出せない。
「よし、無理やり我慢するのはよくない。コーヒーを飲もう」
私はリビングからインスタントコーヒーを取り出し、コーヒーを作って飲んだ。
「ネスカフェはやっぱ美味いなあ」
その時、私の頭に電光直下の如く閃きがおきた。
「今日のブログをまだ書いておらんではないか!」
私はパジャマ姿で2階の書斎にバタバタと上って行って、さっそくパソコンを立ち上げて、今日のブログに専念した。
「ああ、何を書こうかなあ」
考えるが何も思い浮かばん。
「よし、いつものアレで誤魔化そう」
東芝弘明の日々雑感
今日は疲れた、寝る。
続く
「ホテルに待機している」は、「店を出てタクシーを拾って」に訂正します。
文章の前後を間違いました。
小説を書き慣れていると思います。
自由自在に書いている感じがします。すごいですね。
おほめいただき有難うございます。
着地点をどうするか、悩んでいます。ただの思い付きで書いているので今後、どういう風になるか当方もとんと分かりません。