土佐いく子さんの講演は素敵だった

出来事

午後6時、橋本産業文化会館で開催された土佐いく子さんの教育講演会を聞きに行きました。受付で手書きのレジメが配布されていました。達筆です。さすが小学校の先生ですね。最初に文字を教えてもらう先生は、字が上手な人がいいと思います。土佐先生は、現在は和歌山大学と大阪大学で講師をされています。作文の指導をおこなってきた方で、子どもを見るまなざしの優しい先生でした。
6時から始まったお話は8時まで2時間。でもそれはものすごく短い2時間でした。

土佐先生は、「私は子どものことを一番良く分かっている」と教師は思うけれど、そんなことはあり得ない。分かっているのはほんの少ししかないと話されました。お母さんと学童の指導員と先生が1人の子どもの話をすると、3人が把握している子どもの姿がみんな違います。それを出し合うと少しずつ子どもの姿が見えてきます。大事なのは、子どもの姿をとらえようとする、そのプロセスです。

この話を聞いていると、人間は、人間との関係性の中でたえず無意識のうちに演じているという話が思い出されました。この場合の演じ分けは、意識されたものではありません。たとえば、お父さんの前での子ども、お母さんの前での子ども、先生の前での子ども、お巡りさんの前での子ども、たくさんの人の前での子どもは全部違った顔を見せます。違って当たり前です。人間は、相手との関係性の中で接し方が変わってしまいます。子どもというところを大人に置きかえても同じことです。
自分自身のことを思い出して見てください。電話に出るときの自分と普段友人と話しているときの自分、恋人と話している自分、全部違います。ここに人間の面白さがあります。
自分の本質はどこにあるのか、なんて自分自身はあんまり考えないですよね。なのに、他人のことになると、あの人はこんな人だという断定をかなりしています。分かったようなものの言い方です。人間には、本質なんてないと思います。それはたえず変化の中にあります。自分自身が取った態度によって、新しい自分を発見したり、自分の行為に驚いたり、戸惑ったりします。それが人間だと思います。

土佐先生は、悪いことをした子どもの中に良いことも悪いこともみんな入っています。この子には悪いこともあるけれど、いい所もあるというものではありません。そういうものではなく、悪いことの中にいいことも全部入っていると言われました。これも非常に大事なことだと思います。
池波正太郎は、藤枝梅安の小説を書いたときのテーマの1つが、「人間は良いことをしながら悪いことをする」というものでした。矛盾の同居です。複雑な社会の矛盾が人間の中にも1つのものの2つの側面として色濃く同居しているということです。このような見方は、弁証法そのものですが、子どもの姿の中から具体的に、豊かに生き生きとした姿で読み取るかどうか、というのは、まさに教育観を培うということだと思います。

質問の時間になったので、ぼくは、最後に「先生のような子どもに対する優しいまなざしはどうすれば身につけられるんでしょうか」とお聞きしました。
答が素晴らしかったと思います。再現してみましょう。

今日の話は、うまくいったときの話をしただけなので、私は、いっぱい子どもの信号を見逃してきました。ですからそんなに優しいということではありません。それでも、と言ってつぎのような答え方をしてくださいました。
1つは、自分の子ども時代を思い出すこと。子ども時代、立派ではなかったです。私は小学校の頃は、人前で発言できるような子どもではありませんでした。ですから子どもに元気に発言してくださいとはいえません。発言しなくってもいいよと思ってしまいます。
2つは、子どもの話を聴くことです。子どもが話をしたくなるような関係をつくることですね。聴くことによって心の声を見つけることが多かったと思います。
3つは、私の場合、作文の指導をずっとしてきました。子どもが各作文の中から子どもの心の声を読み取る努力を、先生の仲間の中でするんです。先生同士で話し合うことが大切ですよね。職場での教師同士の話し合いは大事です。
4つは、学ぶということです。子どものことを分かるために学びたいとずっと思ってきました。学べば意欲が湧いてきます。土曜日に学びに行き、月曜日に教室に行って、こらーって言ってしまって、うまく行かなくて、教材研究をして水曜日にはグチャグチャになって、だからまた学んで、なんていう繰り返しでした。

上に書いたことは、ぼくの記憶に基づく再現なので、話を勝手に再構成したものなのかも知れません。土佐先生が読んだら「違うよー」と言われそうですね。
感想ということでお茶を濁させていただきます。

帰り際、本を買わせていただきました。サインをしてもらい、握手をしてお別れしました。
一期一会なのかも知れませんが、素敵な出会いでした。車に乗ると、何だか歌いたくなりました。

買ったのは、この本です。
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Posted by 東芝 弘明