90歳の人との対話に花が咲いて

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「おばちゃん、年はいくつになったんですか」
「数えで今年90になった」
京都が里だというおばちゃんは、椅子に座ってそう言った。
「90にもなったらね。長生きするもんじゃないと思ってね。早くお迎えが来んかなと思うよ」
話はこんな風につながった。
なんだか、どう答えていいのか分からない生臭い話になった。
「家族でもね。迷惑がかかるような生き方だったら死んだ方がましだと思うよ」
話を聞いていると、未来が明るくないこととおばちゃんの認識は深くつながっているように見えた。
「ヨーロッパにはね。医療費が無料の国があるよ。全世界では12か国ぐらいが医療費が無料だよ。それにね、老後がまったく心配ない国がヨーロッパにはあるよ。だから、その国はね、みんな貯金もほとんどしない。貯金しなくても十分生きていけるからね」
ぼくはこんな風な話をした。
「へえー。そんな国があるの」
「日本から見たら夢みたいな国があるんですよ」
「私もね、旦那の遺族年金があるからお医者さんには自由にかかれる。家族に負担をかけなくてもいい。でも娘の世話になって負担をかけてまで生きたくない。90にもなったらね、あと1年、あと1年という感じ。今年の夏は暑かったんで、越せるかいなと思ったよ」
「90年は短かったですか」
「過ぎてみたらあっという間だったよね」
「今よりもいい時代はありましたか」
「そうよ。あったよ。戦争の時代でもね。鬼畜米英を信じて戦争に勝つと思ってみんな一つになっていた」
「今よりもよかったですか」
「よかったよ」
話はこんな風に続いていった。
「介護税(介護保険のこと)、なんでこんなに高いんやろ。私は一つも使っていないんやで」
「あの保険は、家族の所得で保険料を決めているんです。お年寄りの年金の金額だけで保険料を決めるといいと思うんだけど、はじめから家族に負担をかけるような考え方で保険をつくったんです」
おばちゃんは、「地震が一番心配」だとも語っていた。そして、90年間、生きてきて、考えることは社会保障のこと。しかも負担の重さと自分の年齢、寿命のことが心配で、家族に負担をかけたくないという思いで生きている。90年の人生のなかで、今の時代がいちばん未来を暗くしている。
これはいったいどういうことなのだろうか。
今日よりも明日の方が明るかった時代があった。今は今日よりも明日の方が暗い時代になっている。
老人医療費の無料化制度、保険料負担も医療費の負担もない時代は、ほんの少し前まで、この日本の中に存在した。
新自由主義。この改革は、高齢者から未来を奪った改革なのかも知れない。生きる希望を搾取したのがここ数年来の改革なのかも知れない。
社会保障の再建と福祉国家の実現。21世紀の希望は、こういうものであってほしい。


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Posted by 東芝 弘明