七瀬三部作は面白い
視察中の3日間、移動とホテルの中で筒井康隆さんの『家族八景』と『七瀬ふたたび』を読み、火田七瀬の物語を堪能した。同時に読みかけの紫崎友香さんの『春の庭』を半ばぐらいまで読み進めた。新千歳空港の書店で買った阿川佐和子さんの『叱られる力』も飛行機の中で半分くらい読んだ。筒井さんの七瀬三部作目の『エディプスの恋人』も読み始めた。
筒井さんの読みごたえのある面白い小説を読み、それと平行して『春の庭』を読むと、この芥川賞を受賞した作品の力のなさを感じてしまう。読んでいて「面白くないなあ」、という気持ちが前に立ってくる。
人間を描き、社会を描き、人生を描いているはずの文学に読ませる吸引力のような力を感じないのは、作品に力がないのか、ぼくに読む力がないのか。
とにかく筒井さんが形象化した火田七瀬の物語に心が動くので、名残惜しい感じがするのだけれど、この作品を楽しみたいと思っている。
かつてWAOさんが、「この三部作が面白い」といった意味は、何となく分かる。この作品は、人間の意識というものを実によく捉えており、錯綜した人間の言語化されない意識を、テレキネスの能力をもった七瀬を通じて描くという点で特異な力をもっている。作品が進むにつれて、人間の意識の本質がよく押さえられた描写に進化し、描き方がよりリアルになっている。
小説は3人称で描く場合でも、誰かの視点を重視して、その人の心理描写も含めてリアルに描いていくことが多いのだけれど、この七瀬三部作は人間の心理とはどのようなものかを知る上で得るところの多い作品になっている。どれだけ心理学の本を読んで、人間の心理の移り変わりを把握したのだろうか。舌を巻くような知識が作品世界の土台になっている。筒井さんのすごいのは、絶対に作品のために調べた自分の知識をひけらかさないところにある。七瀬三部作は、エンターテインメントでありながら文学作品にもなっていると感じる。
視察から帰ってくると、事務所に星新一さんの『声の網』が届いていた。
「七瀬三部作」をお読み頂きありがとうございます。とは言っても、俺は筒井康隆ではないが、やっと、東芝さんにこの「三部作」の良さを分かってもらえたかと嬉しい気分だなあ。
筒井康隆は小説家としては矢張り、異能の人で、天才の部類に入るでしょう。いや、大天才だ。唯一無二だ。この人の小説に触れてしまうと、次々とあれもこれも読みたくなってくるのです。俺は筒井の作品が出ると書店に飛んで行って読んでいる。という事は全部読んでいる訳です。(と言っても本にかける金が半端でないため文庫本になってから買う訳だが、文庫化が待てない場合は新刊でも買う)
中でも、この「七瀬三部作」が特に傑作で、朽ちることなく後世に読み継がれていく名作でしょう。
断筆宣言をした時は畳につっぷして泣いた。とはちと大げさだがそれぐらい残念無念な気分に滅入ったもんだった。
東芝さん、筒井は常に作品を世に出す時は満を持して出すという、つまり俺の書いたものはどうだ、という挑戦的な野心に溢れたものを出す作家です。筒井康隆の作品に触れたものは中毒症状になります。そういう訳で、七瀬の世界とは全然違う雰囲気で驚愕する作品に「乗越駅の刑罰」というのがある。新潮文庫の「将軍が目醒めた時」という短編集に収められているのだが、この「乗越駅の刑罰」は物凄い作品で、文学とはなんぞやと、あらためて考え直さなくてはならいくらいインパクトがあるので、時間があれば、是非読んでみてください。
筒井ワールドを知らない人は人生を半分ぐらいしか楽しんでいないと、俺は断言できる。
筒井はエンターテイメントとか純文学とかSFとかジャンル分け出来ない、文学界では一国一城のあるじという感がある。
この人の才能を正しく評価していた人が井上ひさしであった。
氏、曰く「筒井さんという人は例えば、我々が運動場で先頭を走っていると、後ろから筒井さんが遅れて走ってくる。我々が後ろを振り返る訳だが、実は彼はとっくに我々を追い越し、我々は周回遅れで走っていたのである」
と評している。
いやあ、文学っていいもんですね。
ほんじゃ、さいなら、さいなら、さいなら。
あ、今さらながらだが、「我が家の娘」3枚も有難うございます。いやあ、可愛いですねえ。七瀬ちゃんは。
WAOさんお元気ですか。お元気そうで何よりです。ほぼ3日間で七瀬三部作読みました。筒井さんの『創作の極意と掟』という小説とは何かを正面から問うた21世紀の文章読本に触発されてこれらの本を読みました。『家族八景』で描かれていた世界を書き続ければ、七瀬は日常生活における人間の意識の問題を問い続けることになったのに、この舞台設定を大きく変更して、まさにSFとしての『七瀬ふたたび』を書いたのにも驚きました。
七瀬は自分たちの超能力者の置かれた状況にひるむことなく、前を向いてたたかっていきました。絶望しない生き方に心動かされた人は多かったと思います。『エディプスの恋人』は、筒井さんの優しさの溢れた作品になったと思います。