火田七瀬の物語の終わり方

雑感

筒井康隆さんの『エディプスの恋人』を読んだ。
『七瀬ふたたび』の終わり方が、絶体絶命状態の終わり方だったので、いったいあの話から今回の『エディプスの恋人』にどうつながるのか、大きな疑問があった。筒井さんは、『七瀬ふたたび』だけで火田七瀬の物語を終わらせたくなかったのだろう。死んだとしか思えない七瀬のその後を描いたのが『エディプスの恋人』であり、まさにつなげるためにつじつまを合わせようとして、もがきぬいた作品だった。
死んだとしか思えない七瀬を復活させるためには神が必要だった。筒井さんは、神を登場させてまで、七瀬の幸福を描きたかったのではないだろうか。
ただし、神を登場させた結果、七瀬は神の存在に支配され振り回されるようになる。これが果たして幸せな結果だったのか、という疑問が残る。

ファンタジーやSFは、設定に超自然的で非現実的なものを含んでいるがゆえに、細部にリアリティーがないと、作品の世界そのものが成り立たなくなる。『エディプスの恋人』に神という非現実的な存在を登場させたゆえに、支配されることを幸福だとは思えない七瀬の苦悩が描かれた。ここに筒井さんのリアリズムがある。

読み終わってから湧き起こってきたのは、『エディプスの恋人』は、書かれる必然性はなかったのではないか。という思いだった。しかし、筒井さんにとってこの3作目は、書かざるをえない作品だった。この3作目を書かなければ、筒井さんは「七瀬」という魅力的な人物と別れることはできなかった。筒井さんの深い思いが、この『エディプスの恋人』には込められている。
人間の感情や言葉になっていない心理を描くという点では、この3作目がもっともリアルになっている。読み始めてこのことを深く感じた。人間の心理描写は、深く進化している。その点では画期的な作品だった。


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雑感

Posted by 東芝 弘明