自虐史観考2

雑感

「自虐史観」という言葉は、藤岡信勝氏が名付けの親のようだ。これは、社会科教育学を専門とする人が言い出したものだ。
そもそも自虐史観というのは、できるだけ客観的に事実を探究しなければならない歴史学に、主観的な「自虐」という言葉をかぶせたものだ。
歴史的にどういう事実があったのか、ということがすべてであって、自虐的云々というのは、歴史学にとっては何の関係もない。悲惨な歴史があるのであれば、それを直視する必要がある。
ところが、日本による侵略戦争だったことを主張すると自虐史観だという反論が返ってくる。

こういう論理の展開の仕方が、そもそもおかしい。歴史的事実として、日本が朝鮮と台湾を植民地にし、満州事変を出発にして満州国という傀儡政権を樹立した歴史は、全く動かない。その後1937年から中国全土で戦争を行い、その延長線上で太平洋戦争を行っている。その過程で日本軍が侵攻していった領土は、東南アジアに大きく広がっている。日本が領土を拡大していった国々は、日本に対して軍事侵攻することはなかった。日本軍は、大量にそれぞれの現地に軍隊を派遣し、戦闘行為を行った。
アジア諸国に対し日本が侵略戦争を展開したのは動かしがたい事実として存在する。日本が軍隊を駐留させて戦争を展開したことに対し、戦場となった国々は、日本に対し軍事的駐留を求めた事実がどれだけあったのか。
不勉強なので誰か教えていただきたい。大東亜共栄圏というものが、歴史の事実であるならば、日本に対し要請があってしかるべきだろう。戦場となった国々が、日本に対して駐留を要請したという文書があれば見せて欲しい。

日本に対し日本軍を進駐してほしいという要請がなくても、大東亜会議と大東亜共同宣言があるではないか。という反論をしたい人もいるだろう。
大東亜会議と大東亜共同宣言とは何だったのか、簡単に触れておこう。
1943年に東條英機首相のもとで、11月5日〜6日の2日間、日本は東京において大東亜会議を開き、大東亜共同宣言に調印している。参加したのはビルマ、満州国、中華民国、日本、タイ王国、フィリピン、インドだった。
結ばれた共同宣言は以下のとおり(カタカナをひらがなに改めた)。

抑〻世界各國が各其の所を得相倚り相扶けて萬邦共榮の樂を偕にするは世界平和確立の根本要義なり
然るに米英は自國の繁榮の爲には他國家他民族を抑壓し特に大東亞に對しては飽くなき侵略搾取を行ひ大東亞隷屬化の野望を逞うし遂には大東亞の安定を根柢より覆さんとせり大東亞戰爭の原因茲に存す
大東亞各國は相提携して大東亞戰爭を完遂し大東亞を米英の桎梏より解放して其の自存自衞を全うし左の綱領に基き大東亞を建設し以て世界平和の確立に寄與せんことを期す
一、大東亞各國は協同して大東亞の安定を確保し道義に基く共存共榮の秩序を建設す
一、大東亞各國は相互に自主獨立を尊重し互助敦睦の實を擧げ大東亞の親和を確立す
一、大東亞各國は相互に其の傳統を尊重し各民族の創造性を伸暢し大東亞の文化を昂揚す
一、大東亞各國は互惠の下緊密に提携し其の經濟發展を圖り大東亞の繁榮を增進す
一、大東亞各國は萬邦との交誼を篤うし人種的差別を撤廢し普く文化を交流し進んで資源を開放し以て世界の進運に貢獻す

この宣言が事実に基づいたものであるならば、日本に勝ったアメリカは、どうしてイギリスとともに「ビルマ、満州国、中華民国、日本、タイ王国、フィリピン、インド」を植民地にしなかったのだろうか。この問いにはぜひ答えていただきたい。

この大東亜会議と大東亜共同宣言は、日本にこれらの国々が従わされ、結ばされたものであり、これ自身が日本の侵略を物語る証拠になるのではないだろうか。ぼくはそう考える。理由は以下のとおり。
日本による戦争が終わることによって、戦闘行為がなくなり平和が実現した。大東亜共栄圏の確立の運動は、共同宣言が書いているとおりまさに戦争だった。この戦争は、米英による侵略戦争に対する日本による反撃だった。共同宣言が指摘どおり米英が侵略戦争を展開していたのであれば、日本が敗北したら、「飽くなき侵略搾取を行ひ大東亞隷屬化の野望を逞うし遂には大東亞の安定を根柢より覆さん」としていた米英は、侵略を強めるはずだ。
しかし、そんな事態にはならなかった。大日本帝国の敗北によって戦争が終わり平和がやってきた。この事実は、戦争を仕掛けていたのは日本であって、米英ではなかったということを示している。大東亜共栄圏は平和を実現するためのものだったというのであれば、この歴史の事実をどう説明するのだろう。

歴史の事実を直視して指摘すると、それは自虐史観だというのは、極めておかしい。主観的願望をもって強く侵略戦争を否定し「自虐史観」だと言っても、歴史の事実は変わらない。侵略は侵略。侵略が正反対のアジアの解放にはならない。日本政府の欺瞞は、1945年の日本帝国主義の敗北時の歴史的事実によって明らかになっている。


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雑感

Posted by 東芝 弘明