「香春岳」の出版記念会(2)

未分類

香春岳という山は、福岡県田川郡香春町にある石灰岩で出来た山だという。長野朝子さんは、この山を見ながら育った人で、香春岳には子どもたちの姿が生き生きと描かれているという。まだぼくはこの作品を読んでいない。
作品の舞台は筑豊地方の炭鉱だ。
豊かな石炭(黒ダイヤ)がとれるとともに、香春岳では石灰岩(白ダイヤ)がとれたので、この地域には、炭鉱で働く人々がたくさんいた。
あいさつで長野さんは、天然資源が豊かであったがために働く人々は貧しい状況に置かれており、豊かな資源と貧しい炭住の生活について、子ども心に漠然とした矛盾を感じていたと語られた。その一方で、炭鉱を支配していた人々は、労働者を収奪していたのでものすごく大きな豪邸に住んでいたといって、いくつかの事例を紹介された。
野田淳子さんのギターの弾き語りがあり、そのあと6人の方が、スピーチをおこなった。
長野さんは小学校の先生であり、小学校1年生と2年生の時の教え子にK1の選手がいて、今も交流があるというエピソードも紹介され、試合のたびに長野さんが電報や花束を贈っていることが紹介された。
このK1選手のお母さんが、スピーチに立った。
長崎出身のこの方は、炭鉱の街に住んでいた子ども時代を紹介して、作品世界はまさに私の子どもの時代だったと語られた。
この話が一番胸に迫ってきた。
それぞれの方のスピーチは、大阪の文化活動の深さを教えてくれるものだった。
出版記念会が終了して、外に出ると降り始めていた雨が本降りになっていた。
「えー雨が降ってるの?」
ギターを左手に持った野田淳子さんに声をかけられた。
ぼくはHさんと連れだって会場を後にした。
「コーヒーでも飲みますか」
ぼくから声をかけた。
天満宮の商店街には、アーケードがあるので傘をさす必要がなかった。喫茶店は、グリーン会館から商店街の通りに入ったすぐのとところにあった。
玄関口に傘立てがあり、そこの傘を置いて中に入ると、何だかイギリス風だと思わせるような、アンティークな感じの空間が広がっていた。
大阪の喫茶店は、テーブルのスペースが小さかったりする。この店も奥に深い作りをしていたが、テーブルはそれぞれ小さくまとまっていた。
Hさんは、以前、日本共産党の文芸作品のコンクールで入選したことのある方で、ぼくらよりもはるかに文学の世界について造詣の深い方だ。
コーヒーを飲みながら夏目漱石や小林多喜二、村上春樹、松本清張の話や映画の話になった。
Hさんは、松本清張の初期の作品がいいといい、「或る『小倉日記』伝」(松本清張の芥川受賞作品)は読みましたか、と質問された。
ぼくは読んでいないと返事をした。
Hさんと別れ、地下鉄で天下茶屋の駅に着き、少し歩くと駅の構内に本屋さんがあったので、本屋さんの扉を押して本を覗いてみた。
古本が入口のところに並べられて一冊200円とあった。古本の文庫と新書も奥に並べられており、そちらは一冊120円だった。
ぼくは、定価販売の文庫本の棚の前に立って松本清張の本を物色した。
「或る『小倉日記』伝」は文庫の中に存在しなかった。そのかわりに宮部みゆきさんが責任編集をおこなった松本清張傑作短編コレクションの上と中を発見した。この上巻に「或る『小倉日記』伝」が掲載されていたので、この本を購入することにした。
古本のコーナーからは、小松成美さんの「ジョカトーレ」と藤田英典さんの「義務教育を問いなおす」を発見したので購入することにした。
小松成美さんの文章には敬服しているので、文句なしに手が伸びた。
藤田さんの本は、教育改革に批判的な大学教授の本だったので買うことにした。
昨日と今日、電車の中で「或る『小倉日記』伝」を読み終えた。この作品は、いわゆる文学作品だが、調査に基づいた作品というところに、その後の松本清張さんの特質がよく現れていると感じた。
読者の前に物語を提示して、多くを語らないで読者に色々なことを感じさせ、考えさせてくれるという松本清張さんは、この初期の作品から健在だった。
最近、忙しいことが集中すると読みかけの本を読むことが激しく中断し、平常に戻ったときに、その本に戻らないという傾向が続いている。
本を読むことでしか得られないものがある。ぼくは、自分の生き方や考え方を本との関係で照らし返すような読み方をする。楽しみのための読書だけでは、もったいないし、知識を蓄積するだけの読書ではもったいない。
ぼくは、作品の受容の仕方こそが、本を読む極意だと思っている。
「香春岳」も読んでみたい。作家そのものを知っているということは滅多にない。そう言う方の作品を読むと感慨はより一層深いように思う。楽しみが増えたといえるだろう。
橋本に着いてもまだ雨が降っていた。文学の香りと本とに囲まれた1日になった。なんだか静かな満足感がわき上がってきた。静かな雰囲気に雨も一役買っているように思った。


にほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログ 和歌山県情報へにほんブログ村 政治ブログへにほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へにほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログへブログランキング・にほんブログ村へ

未分類

Posted by 東芝 弘明