量から質への転化、またはその逆の法則

雑感,哲学

「量から質への転化、またはその逆の法則」
弁証法の基本法則の2つ目のこの法則は、自然界の法則から始まって、日常の人間の活動や経済活動でも非常によく見られるものだと思われる。
対立物の統一のところで紹介した物質の固体、液体、気体という物質の3態と呼ばれる変化は、物質の分子の運動とその物質の形態が固体か液体か、気体かというのは、対立物が統一された状態にあり、状態が変化するのは分子の運動によるという視点で説明した。しかし、固体、液体、気体という物質の状態は、分子の運動の増大によって凝固点や融点、沸点を超えれば固体が液体に、さらに液体が気体へと変化する。これは、物質の運動が量的に変化すれば、質的変化を引きおこすことを鮮やかに証明している。
量的な変化が質的な変化を引きおこす例は、日常生活の中でもよく見えるのではないだろうか。

ものを吊すためのフックがどれだけの加重に耐えられるのかというのも、かなり正確にはかることができる。より重いものを吊り下げるためには、摺下げる側の材質やフックの形状、フックに用いる金属によって違っている。重さの拡大に伴って、どうしても強度の問題が出てきて、それに伴って材質等々を変化させる必要性が生じる。
川の水の流れと水量がどれだけの状態になれば堤防が決壊するのかということも計算によって見いだされる。水流の量と水の流れが一定の限界を超えると堤防が一気に決壊する。量的な増大がどのような変化を引きおこすのかというのは、よく分からない場合もあるが、どのような事物も運動の限界点を超えれば、質的な変化が一気に引きおこされるということだ。
水は摂氏0度で凍るが、0度の状態で一気に凍るのではなく、凍るかどうかは水の運動による。ペットボトルの水をゆっくり凍らせると、マイナス5度になっても、氷となっている部分と水のままの部分に分かれたりする(そういう状態になるよう冷蔵庫で観察しながら凍らせる必要があるが)。この水をお皿の上にたらすと見る見るうちに凍って、逆さつららのように氷ができる。水をたらすことは、水に運動を加えることなので、液体の状態だった水が氷になるということだ。質的変化を促すのは、運動に他ならない。これは、量的な変化は質的な変化を劇的に引きおこすが、新しい質的変化によって新しい質を伴った量は劇的に変化することを示している。

一定の量の物質には、一定の質が同時に存在している。量と質は、ひとつの事物の中の異なる二つの側面ということだ。ぼくたちが目にしている巨視的な物質である原子を単位とする物質は、すべて量と質を同時に併せもっている。量のない質はあり得ないし、質のない量もあり得ない。質を変化させるためには、量的な変化を経なければ質的変化は起こらない。80年代の半ば以降に発生したバブル経済は、地価の高騰を引きおこすための仕組みが生まれ、地上げ屋なる者が出現して、土地転がしが始まって引きおこされた。地価が上がっていく状況の下で、銀行資本が本来なら貸さないようなヤクザまがいの不動産業に資金を提供して、地価がどんどん暴騰していく状況が生まれ、産業全体が活性化するような事態になった。しかし、根底には、土地を転がして地価を釣り上げるという方法が横たわっており、これが新しい価値を生み出した訳ではないので、1992年の秋になると一気にバブル経済は破たんした。経済を冷静に見ていた人は、バブル経済は破たんすると言っていた。実態を表していない地価が暴落し、たちまち不良債権が積み重なってバブル経済が破たんした。ここにも量から質への転化が現れた。

「量から質への転化、またはその逆の法則」。これは、社会に働きかける運動をしているすべての人の前に立ち現れてくるものだが、事物の運動の変化とそれを引きおこしている連関と連鎖が見えていない場合は、法則が貫かれたあとでそのことに気がつくというような形で現れる。
資本主義の生産のあくなき追求によって、人類の生産活動におけるCO2の排出が多くなり、それが地球温暖化を引きおこしていると言われている。量的変化が質的変化を引きおこしているので、CO2の排出の増大による温暖化というのは、なかなか厄介だ。CO2を減少させていく取り組みが進み、大気の中にあるCO2をどれだけ削減すれば、温暖化に歯止めがかかるのか。その辺のところが人間には完全には見えていない。「もうすでに遅い」という批判は、この量から質への転化が起こった後の対策だから、極めて困難だという認識に支えられていると思われる。
人間の意志とは関係なしに自然は、結局は法則を貫徹し人間の経済活動に警告を発する。


にほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログ 和歌山県情報へにほんブログ村 政治ブログへにほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へにほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログへブログランキング・にほんブログ村へ

雑感,哲学

Posted by 東芝 弘明