原発事故の影響について

雑感

偲ぶ会の席でスピーチを聞いていると、携帯電話に着信があった。ぼくは会場の外に出て、階段の踊り場近くで電話を取った。
ぼくが書いた9月12日の次の記事に対するものだった。

休憩時間に原発の話を少しすると、原発は情報公開を徹底的に行い、安全性を高めて運転すれば危険なものではないというテレビ番組の話や、福島県では、今後も放射能による被曝でガン患者は発生しない。極めて低い確率しかないという講演をおこなっている東大教授の話を聞いたという意見が出てきた。
このことを紹介した議員は、こういう話をすっかり信用している。
「日本に原発は必要だ」
こういう話を聞くと、日本という国は、かなりすごい国だとあらためて思う。国民にはなかなか真実が伝わらない。平気で無責任な言動がまかり通る。

「かつらぎ町議会は、さまざまな意見があっても、一致点を見出して協力していこうということになっているのに、この記事はどういうことなのか。『平気で無責任な言動がまかり通る』と書いてあるが、なぜこんな書き方をするのか」というものだった。
かつらぎ町の議会は、この方がいうように、意見の違いがあっても一致点を見出す努力をおこなっている。その点で言えば、意見の違いを丁寧に扱わないことになってしまった。これは配慮を欠いた書き方だった。いろいろなやり取りの中で、「この件についてはブログの中でもう少し書かせていただきます」とぼくの方から申し出た。

ぼくの書き方でいえば、東大教授の話を一刀両断していることになる。専門家でもないのに。
そう、ぼくたちは原子力の問題の専門家ではない。研究してきた方々の専門家としての意見を否定するような知識もなければ、この問題について深い判断力もない。ぼくが、何の論証もなしに「平気で無責任な言動がまかり通る」と書いたのは、証明もなしに書いたので、極めて断定的な、一方的表現になってしまった。不快な気持ちにさせてしまったことを含めてお詫びしたい。

電話の中で、この問題については専門家でも意見が真っ二つになっていることを話した。
専門家の中でも意見が対立していることはかなり深刻だと思う。たとえば同じ東大の教授でも、玄海原発の危険性を具体的に指摘している方もいるし、福島原発事故による汚染の深刻さについて情報を発信している教授もいる。いわば2つの東大というような状況だ。ぼくがコメントで紹介したお医者さんも事態を深刻に受けとめ、講演を行っている。一つの原発事故に対して、どうして真正面から意見が対立するのか。こういう錯綜した状況のもとに置かれている福島県の方々は、一体何を信じればいいのか、複雑な状況に置かれている。
原発推進と原発ゼロの運動が対立しているように、この対立が事故による放射能の影響についても持ち込まれているように見える。
「大丈夫」「大丈夫でない」というように。

ていねいに書くべき問題を一刀両断してしまったので、改めてこの問題について、ぼくが思っていることをきちんと書いておきたい。これは、お詫びをおこなったぼくの責任でもある。
素人なりのぼくの疑問の一つは、事故がまだ収束しておらず、深刻な事態が進行し現在もなお放射性物質が環境に漏れ出して汚染が続いているのに、これから先も人体に影響はないという見方が出ていることだ。どうしてこんな断定的なことが言えるのか。
おそらくこの意見の中には、原発事故の現場で作業にあたっている作業員のことは含まれていない。計測器も十分に配布されず、被曝線量の許容量を超えているのかどうかも判定できない状況にあったという事実や、高濃度汚染か所が現れたりした中で作業をしている事実からは目を背けている。安定的に原発が稼働していたときでさえ、原発内で作業している原発ジプシーとよばれた人々の実態の告発は、少なからずあったが、現在の福島原発の現状は、この状況をはるかに超えている。

野田首相の事故に対する「冷温停止状態」をもって収束宣言したことは、極めて政治的な判断だった。当時、記者会見の席上でさえ、記者からも疑問の声が出され、ネットの調査では9割が違和感を表明した。しかし、この収束宣言によって政府は明確に原発再稼働に軸足を移していった。この宣言は、事実上福島の現実から目を背ける宣言になってしまった。
このような政府の態度と、専門家による「大丈夫」、『大丈夫でない」という対立は繋がっている。
事故による放射能漏れの実態がほとんど国民に伝わらず、原発事故によってどれだけの核分裂生成物である放射性物質が環境に排出されたのか、その汚染状況はどのようなものなのか、政府のまとまった資料公表はない。民間の機関や専門家の調査によって、データの発表はあるけれど、それはひとつの「主張」に留まっている。
人間の命にかかわる問題が、一致した見解による人命重視の対応になっていないことが、意見の対立を引き起こす土壌になっている。

具体的に政府による福島原発事故への対応はどういうものか。日本共産党の紙智子議員の質問を少し紹介したい。これは、2012年8月28日の参院農水委員会でのものだ。(記事は「赤旗」)

紙氏は、モニタリングの観測点が、農地土壌は約3400点(福島県など)なのに対し、海水は220地点、海底土90地点、海洋生物・プランクトン7地点と極めて少ないと指摘。「検査の強化と情報公開の対象を拡大すべきだ」と求めました。森本哲生政務官は「仙台湾は増やした。関係機関との協議を積極的にやる」と答えました。
また、10月に稼働予定の日本原燃再処理工場(青森県六ケ所村)が本格稼働した場合に大気や海洋へ排出される放射性物質量について中根康浩経産政務官は、大気中でクリプトン85が年33万兆ベクレル、海中にトリチウムが年1万8000兆ベクレルと答弁。紙氏は「大量の放射性物質が放出される。稼働を中止すべきだ」と強く求めました。

長くなるので割愛したが、紙議員は、海洋汚染の観測点が220地点しかないことが、漁業関係者の不安を生み出していると指摘して質問に入っている。10月稼働予定の日本原燃再処理工場(青森県六ケ所村)が、大量の放射性物質を海洋に放出している事実は重い。

もう一つ、事故調査・検証委員会の報告が出たときの「赤旗」の主張も全文紹介したい。(「赤旗」7月25日)

東京電力福島原発事故について調査してきた政府の事故調査・検証委員会が報告書をまとめ、原発で重大事故は起きないとしてきた国と東電の「安全神話」をきびしく批判するとともに、事故は全容が解明していないとして継続調査の必要性を強調しました。
問われるのは報告書を受け取った政府の対応です。野田佳彦首相は昨年末福島原発事故の「収束」を宣言し、停止中の原発の再稼働や原発に依存したエネルギー政策の検討を進めています。報告を真剣に受け止めるなら、収束宣言は撤回し再稼働は中止すべきです。

いまだ解明つくされず

原発事故の調査・検証は、国会や民間の調査委員会でもおこなわれており、政府の報告書提出で主なものは出そろいました。地震による被害をどの程度見込むのかなどの違いもありますが、当事者である東電の報告書を除き、地震や津波への備えを欠いた国や東電の責任をきびしく批判し、「事故は終わっていない」(国会事故調)と、原因の調査や被災者対策を続けるよう求めているのは共通です。
とくに政府が設置した調査・検証委員会の報告が、福島第1原発の損傷箇所や被害状況などについて「いまだに解明できていない点も多々存在する」と、継続的な事故原因の調査を求めるとともに、住民の健康への影響や、農畜産物、空気・水・土壌などの汚染についても継続調査を求めているのは重要です。「国は(当委員会や国会事故調の報告で)事故調査・検証を終えたとするのではなく、引き続き事故原因の究明に主導的に取り組むべきである」という報告書の指摘は重いものがあります。
野田首相は昨年末、原発事故から9カ月余りたった記者会見で、「発電所の事故そのものは収束に至った」と事故の「収束」を宣言しました。今回の報告書の指摘を待つまでもなく、原子炉の内部に近づくことさえできず、いまだに多くの避難者が帰ることさえできない実態が「収束」の名に値しないのは明らかです。
地元の福島では「収束」宣言が原因究明や被災者対策の障害になると、宣言の撤回を求める声が相次ぎました。実際、「収束」宣言後、政府は住民が避難させられている避難区域の見直しを進め、住民に新たな亀裂を生んでいます。全国で停止していた原発についても再稼働させる意向を固め、何の根拠もないのに「福島のような事故は起きない」といいはって、まず関西電力大飯原発の3、4号機を再稼働させました。「収束」宣言が事故対策の障害になっているのは明らかです。事故調査・検証委員会の指摘も受け、政府は「収束」宣言をきっぱり撤回すべきです。

「異質」の危険直視を

今回の報告書は原発事故について、施設・設備を破壊するだけでなく、放射性物質の拡散で住民に影響を与え、環境を汚染し、経済活動を停滞させ、ひいては地域社会を崩壊させると、「他の分野の事故には見られない深刻な影響」を指摘しています。その立場から、事故の経験を引き継ぎ、再発防止にあたることを求めています。
政府と電力会社にもっとも欠けているのは、原発事故の、こうした「異質」の危険への自覚です。再稼働や原発依存はやめ、事故の再発防止には一日も早く原発からの撤退を決断すべきです。

この主張は、「事故は終わっていない」という立場が各種報告に共通していることを指摘し、収束宣言の撤回を求めている。主張の次の下りにぼくは注目した。
「とくに政府が設置した調査・検証委員会の報告が、福島第1原発の損傷箇所や被害状況などについて「いまだに解明できていない点も多々存在する」と、継続的な事故原因の調査を求めるとともに、住民の健康への影響や、農畜産物、空気・水・土壌などの汚染についても継続調査を求めているのは重要です」
この「調査・検証委員会」の指摘は重い。専門家であれば、この指摘を踏まえて真摯に事態を受けとめるべきなのではないだろうか。事故がまだ現在も進行中なのに、現時点で「健康に被害はない」などという判断がどうして出てくるのだろうか。事故の現実を踏まえて答える責任があるのではないだろうか。

政府の方針によって福島が翻弄されている。政府がとっている態度が福島県行政に影響している。健康診断で子どもの甲状腺に異常が見つかっても、しこりなどが基準値以下であれば、症状が出るまで再検査は必要ないという見解が、福島医科大学から出されている。これが果たして、平常時には通用する見解なのか。異常な状況下でのがまんを強いる基準ではないだろうか。
政府の収束宣言が果たしている害悪は大きい。


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雑感

Posted by 東芝 弘明