憲法第9条と日米安保条約との矛盾

雑感

Peace Statue in the Heiwa-Koen Peace park, Nagasaki, Japan (June 2008) by Cor Lems

「戦争をする国になる危険性が高まっている」
こう言うと、
「そんなことならへんで」
「東芝さん、考えすぎやで」
という返事が返ってくる。

アメリカと日本の取りまとめである日米安保条約を引用しておこう。

日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約

 日本国及びアメリカ合衆国は、
 両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、
 また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉の条件を助長することを希望し、
 国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、
 両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、
 両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、
 相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、
 よつて、次のとおり協定する。

第一条
 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。
 締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。
第二条
 締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。
第三条
 締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。
第四条
 締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。
第五条
 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
第六条
 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。
第七条
 この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。
第八条
 この条約は、日本国及びアメリカ合衆国により各自の憲法上の手続に従つて批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生ずる。
第九条
 千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約は、この条約の効力発生の時に効力を失う。
第十条
 この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。
 もつとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する。
 以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。

 千九百六十年一月十九日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。

日本国のために
 岸信介
 藤山愛一郎
 石井光次郎
 足立正
 朝海浩一郎

アメリカ合衆国のために
 クリスチャン・A・ハーター
 ダグラス・マックアーサー二世
 J・グレイアム・パースンズ

武力を持たない、戦争をしない、ことを決めた憲法第9条が存在している国で、日米安保条約が結ばれた結果、日本は再軍備をおこない、自衛隊をもち、世界でも有数の軍事大国となっている。日米安保条約は、時代とともに変化してきた結果、軍事同盟が及ぶ範囲を極東から全世界へと広げるに至っている。この根拠となる共同声明は、昨年の5月1日の日米共同宣言だろう。共同宣言は、オバマ大統領と野田首相によって発せられた。
共同宣言には、「アジア太平洋地域と世界の平和、繁栄、安全保障を推進するためあらゆる能力を駆使し、役割と責任を果たすことを誓う」という文言がある。これは、日米安保を条約の変更なしに地球的規模に拡大することを意味する。共同宣言は、「動的防衛力」で「多様な緊急事態(有事)に日米同盟が対応する能力をさらに高める」ことを誓い合っている。

安倍総理が「集団的自衛権」の行使をさかんに語るのは、この日米間の取り決めがあるからだ。

アメリカは、日本に対して、軍事同盟の締約国として、軍事的に対等な役割分担を求めるに至り、日本がアメリカの軍事戦略に荷担し、共同して軍事行動に出ることを求めている。これに対し、自民党政府も民主党政府も積極的に応えようとして、行動してきた。

共同宣言を具体化する上で、決定的な障害物になっているのは、日本国憲法第9条第2項だ。
「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」
この規定が有る限り、日本の自衛隊は、国防軍にはならず、軍隊であることは認められない。また国が戦争をすることは許されない。

アメリカは、どうして日本に執拗に共同で軍事行動をおこなうことを求めるのだろうか。
そこには、アメリカの国力の低下問題がある。日本に一定の役割を担わせなければ、戦争の維持も難しいということだろう。
世界で1番の軍事大国と第9位の日本の同盟が、全面協力するというのは何を意味するだろう。

2012年世界の軍事力ランキング
1位、アメリカ
2位.、ロシア
3位、中国
4位、インド
5位、イギリス
6位、トルコ
7位、韓国
8位、フランス
9位、日本
10位、イスラエル
11位、ブラジル
12位、イラン
13位、ドイツ
14位、台湾
15位、パキスタン
16位、エジプト
17位、イタリア
18位、インドネシア
19位、タイ
20位、ウクライナ

出典:Global Firepower – 2012 World Military Strength Ranking
http://www.globalfirepower.com/

日本が自衛隊であるにもかかわらず(軍隊でないのに)、世界第9位になっているのは驚きだ。国防軍になると軍事力はどうなるのだろうか。自衛隊であるがゆえにもってこなかった装備、体制などが強化されていくと、軍拡が本格化し、世界の順位がさらに引き上がることが予想される。世界第1位と世界第3位の経済大国であり、軍事大国であるアメリカと日本の双務条約としての日米安保条約、軍事同盟が完成することになるだろう。

安倍首相は、日本国憲法第9条の第一項を残すことには、何の抵抗も示していない。
「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」
これは、自衛戦争まで禁止していない条項だ。自衛のためなら戦争を遂行できるという解釈が成り立つ。
アメリカがおこなっている戦争は、一貫してアメリカの自衛のための戦争なので、日本の国防軍が、海外で「集団的自衛権」を行使しても、この第9条第1項には違反しないということになる。「集団的自衛権」というのは、自衛のために本国を守るというのではなく、自衛のための戦争であるならば、海外で軍事行動をおこなえるというものだ。

こういう事態にならない最後の首の皮1枚。それが日本国憲法第9条第2項に他ならない。
ただし、首の皮1枚とはいえ、憲法改正のハードルは高い。
そこで出てくるのが、衆議院の国会議員定数の削減と憲法第96条の改正だ。3分の2条項を2分の1に書き換えることができれば、民意を反映していない虚構の多数でも日本国憲法改正に大手をかけることができるようになる。

もちろん、憲法改正を実現するためには、日本国憲法改正のプロセスのなかで、国会内で反対勢力を締め出すとともに、国民の憲法改正反対の運動に規制をかける必要がある。
ビラを配布しただけで逮捕し裁判にかける事件が再々起こり始めているが、これは、戦争準備に直結する問題として、事態が悪化してることを物語っている。戦争への参加準備は、確実に表現の自由や結社の自由の抑圧とともに始まる。一連の反動的な諸施策が、ある時期から一気に稼働して、日本国憲法改正への流れが組織される。このプロセスの中では、謀略的な事件がでっち上げられ、それを口実に弾圧を強化するということもなされるだろう。

日本のマスメディアは、日米安保条約の本質を絶対と言っていいほど報道しない。安保条約には、日本国にとって最大のタブーがある。

しかし、第2次世界大戦という多大な犠牲をはらった歴史は、日本の反動化を簡単には許さないだろう。日本国民の中には、戦争に反対し平和を求める自覚的な運動があり、核兵器廃絶への強い願いがある。また、日本によって多大な犠牲を強いられたアジア諸国民とその国家は、日本の戦前回帰、日本の軍事大国化を許さない。

安倍政権がやろうとしていることは、全世界の歴史的な教訓に対する挑戦であり、それは同盟国のアメリカの、戦後の原点に対する挑戦でもある。アメリカは、日本の軍国主義を打ち倒した国であり、アメリカの戦後もまた、第2次世界大戦の教訓の上にある。日本が、第2次世界大戦における日本の侵略戦争を是として、軍事大国として復活を果たすことは望んでいない。

自民党は、戦前の天皇中心の国家体制の復活を望んできた勢力を中心にして、戦後復活してきた政治勢力だったという側面をもっている。もちろん、この流れを良しとしない勢力も自民党の中には存在する。しかし、今日、自民党の中心的な勢力は、戦前回帰型の勢力であり、その末裔であることは間違いない。

日米安保条約の一方の当事者であるアメリカが日本に何を要求しているのか、を見定めないと憲法改正の本当の動機は見えてこない。また、この本当の動機を明らかにしないと、憲法改正に反対する運動も大きな広がりを持てないように見える。
日本国憲法第9条と日米安保条約との関係が、日本の根本問題の一つだろう。
アメリカという国が、日本に何を求めているのかを明らかにすることは、日本の未来に関わる大問題であることは、間違いない。


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雑感

Posted by 東芝 弘明