メディアリテラシーとは何か

雑感

最近のTPP参加についての報道を見ていると、郵政民営化についての報道を強烈に思い出した。マスメディアの報道姿勢について、考えたいというのが、今日のテーマだ。

TPP=環太平洋戦略的経済連携協定。環太平洋というからどれだけの国が参加しているのか。日本を加えてもわずか12か国である。
ウキペディアを引用しておこう(開いたらウキペディアが150人のスタッフで運営されている組織であり、寄附によって成り立っていることが書かれていたので、少ないけれど2000円の寄附をした。議会の際、調べ物をするときにウキペディアにはかなりお世話になってきたので、感謝の意味を込めて)

環太平洋戦略的経済連携協定は、2006年5月28日にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国で発効した経済連携協定である。
2006年1月1日に加盟国間のすべての関税の90%を撤廃し、2015年までに全ての貿易の関税を削減しゼロにすることが約束されており、産品の貿易、原産地規則、貿易救済措置、衛生植物検疫措置、貿易の技術的障害、サービス貿易、知的財産、政府調達(国や自治体による公共事業や物品・サービスの購入など)、競争政策を含む、自由貿易協定のすべての主要な項目をカバーする包括的な協定となっている。
加盟国間で、域外に対する競争力を強化するために、自由競争の妨げとなる関税や非関税障壁を撤廃し、経済的な国境をなくすことを主柱としている。目的の一つは、「小国同士の戦略的提携によってマーケットにおけるプレゼンスを上げること」である[2](CHAPTER 16 STRATEGIC PARTNERSHIP Article 16.2: Objectives 2. (d))。
環太平洋パートナーシップ協定への拡大 [編集]
2010年3月から拡大交渉会合が始まり、アメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルーが交渉に参加し、10月にマレーシアが加わった。2010年11月に開かれた2010年日本APECで、TPPは、ASEAN+3(日中韓)、ASEAN+6(日中韓印豪NZ)とならび、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)の構築に向けて発展させるべき枠組みと位置づけられた。ASEAN+3、ASEAN+6は政府間協議の段階にとどまっているのに対し、TPPは交渉が開始されている。2011年アメリカAPEC(英語版)までの妥結と結論を目標にしていたが、大枠合意にとどまり「2012年内の最終妥結を目指す」と先延ばしされている[3]。
拡大交渉中のTPPについて、加盟国・交渉国に日本を加えた10か国のGDP(国内総生産)を比較すると域内GDPの91%を日本とアメリカの2か国が占めるため[7]、実質は日米のFTAだとする見方もある[8]が、あくまで原加盟国4か国間で発効している環太平洋戦略的経済連携協定の拡大 (Expansion) である。

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域内のGDPの91%を日本とアメリカの2か国が占めるという記述に注目してほしい。問題は、日米間の関係が対等平等ではなく、軍事的な同盟である日米安保条約を軸として、アメリカの目下の同盟者(家来もしくはアメリカを親分とする子分)という関係にあることだ。この日米関係のもとでTPPへの参加が行われようとしている。TPPが対等平等の協定であるかのように報道すること自体、すでに誤りを含んでいる。
日米安保条約の第2条を引用しておこう。

締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。

日米安保条約には、この第2条の経済協力条項がある。アメリカは日本に対し、毎年経済的な要求を突きつけ、日本がこれを受け入れるということを行っている。こういうことが平気でまかり通る根底には、安保条約のこの規定がある。このような不平等条約のもとでTPPに参加したらどうなるのか。このことを歴史的に明らかにすることが、TPPとは何かを見極める点では、欠かすことができないだろう。

日本は、敗戦国として戦後出発した。1951年のサンフランシスコ講和条約は、文字どおり第2次世界大戦を終結させて、連合国の代表であったアメリカの全面占領を終結して、日本を独立させるという性格をもった。しかし、サンフランシスコ講和条約が結ばれた同じ日に、秘密裏に調印された日米安保条約によって、アメリカ軍は日本から撤退しなかった。これによって、日本の本当の意味での独立は達成されず、日本がアメリカに従属させられることとなった。戦後の基本的な日米関係は、日米安保条約によって定められている。

軍事的に従属させられることを軸に、経済的にも外交的にも日本はアメリカに従属している。この日米関係は、サンフランシスコ講和条約以後62年間、変わらなかった。TPP参加は、経済的には完全にアメリカの支配下に日本を組み入れる可能性をもった、極めて危険な協定という性格をもっている。日米関係を植民地支配的な関係にまで高めるとでもいうべき内容を持った、TPP参加をどうして手放しで歓迎できるのだろうか。

日本が軍事、外交、経済においてアメリカに従属していることは、公然の秘密になってきた。日米関係が異常な関係にあることを諸外国は知っているが、当の日本人はほとんど知らない。アメリカ兵の犯罪についての裁判がまともに行われないのも、沖縄にあるアメリカ基地の移設問題が進展しないのも、原因は日米安保にある。日本経済が非常に弱い経済基盤の下にあり、とくに国民の命を支えている食糧問題で自給率が40%程度しかない状態まで落ち込んでいるのも、日米関係の帰結によるものだ。
第2次世界大戦の教訓の一つは、自国の農業を守って自給率を引き上げるというところにあった。先進国は、このことを自覚して自給率を引き上げてきたが、日本だけは例外的に食糧自給率を低下させてきた。外国の農産物を大量に輸入することによって、自国の農業を破壊し続けてきたのが、日本の戦後の歴史だった。
日本の地方が疲弊し、高齢化と過疎化に悩み衰退しつつある原因の一つは、農林水産業の衰退と中小商工業の衰退にある。この中で農林水産業の衰退は、歪んだ日米関係に大きな原因があるということだ。

日米安保条約は、日本の最も基本的な規定の一つであり、この問題は日本の現実を読み解くという点で、試金石をなす問題である。日本の政党は、かつて日米安保条約に対する評価によって、野党と与党に分かれてきた。しかし、1970年代から80年にかけて、野党は日米安保条約を受け入れて、安保容認へと態度を変更した。この変更は、野党と与党の立場を曖昧にするものだった。
その結果、自民党と各政党との連立政権が生まれた。政権交代を果たした民主党による政権も、日米安保条約の問題では、自民党と同じ立場に立っていた。政権交代後、成立した鳩山内閣は、まさに日米安保問題である沖縄の普天間基地移設問題を巡って、挫折し自民党政治と変わらない姿へと転落した。
日本政治の試金石である日米安保条約に対して、本当の意味で日本を根本的に変える目的をもった野党は日本共産党だけになった。

政治の右傾化とマスメディアの右傾化は、同じ流れをたどった。日米安保条約容認という点では、マスメディア間にはに全く違いがない。大手の新聞もテレビもTPPについては、積極的な推進の姿勢を持って報道するに至っている。

大量に流されている情報の中から本当の姿を読み取ることは、容易なことではない。
すべての国民は、ニュースソースに直接触れることはできない。なぜか。すべての問題において当事者になることは不可能だからだ。だからこそ、情報を伝達してくれる媒介=メディアが必要になる。
安倍首相とオバマ大統領が日米で会談をおこなったら、私たちはどのような会談だったのかを知ることができる。マスメディアを通じて。正確に言えば、マスメディアというフィルターを通して、私たちは会談を知る。
安倍オバマ会談については、TPP参加=すべてにおいて関税撤廃をくい止めたという報道が盛んに行われた。その元になったのは「TPP交渉参加をめぐって、両首脳は『交渉に参加する場合は、全ての物品が交渉の対象となる』とする一方、『参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではない』との共同声明を発表した。」という共同声明だった。

この共同声明をもって、安倍首相は歯止めを勝ち取ったかのような報道を行うのは妥当なのかどうか。むしろ、こんな共同声明を発表して、事実上TPPに参加することを表明した安倍総理の態度は許されるのかどうか。これを検証するところにマスメディアの果たすべき本当の役割がある。TPPは、賛成・反対の意見が対立している重大な問題だ。だからこそ、この問題は衆議院選挙の争点の一つになっていた。民主党の野田政権は、公然とTPP参加を表明したのに対し、自民党の安倍さんは、「聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対する」と表明していた。この態度表明は多くの農家を安心させるものだった。
それから2か月と少し経って、安倍総理はTPP参加を表明した。
こういう経過をたどったのであれば、マスメディアはいっせいにこの態度表明が安倍さんの選挙の時の態度と照らして、妥当だったのかどうかを見極める必要がある。そういう丁寧な作業を抜きに、いきなりTPPに参加して、日本の農業を輸出産業にというような論調で大量に情報を流すのは、ものすごくおかしい。
日米会談の共同声明は、交渉の中で異を唱えることはできるというものであって、関税撤廃の歯止めになるものではない。むしろ「全ての物品が交渉の対象となる」ことの方が恐ろしい。

郵政選挙の時に、小泉政権は、郵政民営化で日本はバラ色になるかのような描き方をした。マスメディアはこれを無批判に報道した。これと同じ傾向がTPP参加に現れ始めている。

マスメディアを信用している人は70%を超えるという調査結果がある。
だからこそあえて訴えたい。
多くのメディアが、大合唱を行うときは、ぜひ立ち止まって考えてほしい。
メディアには、権力を監視し、真実を報道するという役割がある。この原則は、戦前の大本営発表に組みしてきた反省の上に確立した戦後の原点だった。権力を批判せず、政府寄りの報道を行うというのは、戦争に協力した歴史を忘れた態度だと言わなければならない。
歴史は、時の権力者が国策を見誤って国民の根本的な利益を裏切って、一部の経済的な勢力の利益だけを守ってきたという苦い教訓に満ちている。この歴史的な教訓に立つのであれば、マスメディアは、権力に対して批判的でなければならない。

メディアリテラシーの大切さが、語られている。私たちが時の政府のとっている態度を見極めるためには、マスメディアが流す情報が、政府の方針をうのみにして報道していないかどうか。批判的な視点、物事を検証する視点を見失っていないかどうか。こういう視点で報道を見ることが極めて重要になる。批判的な精神の神髄は、反対するということではなくて、事実を検証するというところにある。政府と同じ見解を批判的な視点なしにたれ流しているときは、まずはその報道を鵜呑みにしてはいけない。

では、事実はどこにあるのか。どのようにすればそれを見極めることができるのか。
一つは、信頼できるメディアを発見するということだ。
個人は、すべてのニュースソースに触れることができないのだから、私たちは、メディアの情報に触れながら真実に接近するという方法を取らなければならない。そのためには、信頼できるメディアを手に入れることが重要になる。その点では、日本共産党の「しんぶん赤旗」をお薦めしたい。この新聞は、政府のとっている態度をたえず批判的に検証している。日本のマスメディアの状況の中で、「赤旗」はジャーナリズム精神を失っていない貴重な新聞になっている。
ぼくが購入している「通販生活」は、主張を持ったカタログ雑誌として貴重な存在になっている。読み物として面白い。ここにはジャーナリズム精神がある。
ラジオやローカル新聞には、住民に触れているのでいいものがかなりある。NHKのドキュメンタリーの中には、丁寧な事実の積み重ねによって、真実をえぐる優れた番組がある。そうでないものもあるが。
新書版。たとえば岩波新書。新日本出版社や大月書店の本など良心的な書籍を発行している出版社がある。批判的な精神を持っている論考には注目していただきたい。

一つは、インターネットだ。
ここには玉石混淆だが貴重な情報が流されている。ウキペディアにも玉石混淆は反映しているが、この百科辞典は、物事の歴史的経緯についても書いているので、事の本質を見極める点で役に立つ情報が多い。

一つは、個人による自己検証だ。
私という個人が、事実を見極める点で大事なのは、自己検証だと思う。自分の力で調べることを重ねて行くと真実に接近できる。個人といえども、部分的にはニュースソースに触れることはできる。TPP問題で言えば、日本の農業の実態と浮上に深く関連しているので、足を運んで農業の実態を把握すれば、マスメディアの流している情報の真偽も見えてくる。

一例を挙げておこう。
競争に勝てばいいといって、オランダの巨大なビニールハウスにおける水耕栽培を紹介したテレビがあった。日本でもこのような設備投資を行い、品質のよい農産物を作って輸出すれば、日本の農業の質は高いから十分に勝てるという内容だった。
和歌山県かつらぎ町の耕地面積は狭く、設備投資にものすごく大きな壁がある。最大の壁は、平均年齢が限りなく70歳に近く、後継者がいないところにある。未来の時間が短い人間に対して、大規模な設備投資を求めても、実現できないのは誰が見ても明らかだろう。台風被害によって、ハウスが壊れたらそのまま農地を放置する例が増えている。こういう現実は、全国に大量に存在していることをマスメディアは知っている。なのに、どうして巨大なビニールハウスを紹介して、日本の農業も同じようにすれば、競争に勝てるというのだろうか。かたや30代、40代の農業の担い手で広大な面積を持っているアメリカの農業と、かやた60代、70代になっている耕地面積の狭い日本の農業が、用意ドンで競争して十分に勝てるというのは、空論過ぎる。
もちろん、後継者がいて、体力も年齢も若く、設備投資に挑戦して輸出する農家も生まれる可能性はある。でもそれは、産業全体の中で何割を占めるだろうか。産業的な成功を論じるのであれば、こういう試算はきわめて大切になる。農水省がTPPに日本が参加すれば、自給率は13%になると発表している。これは、産業全体を視野に入れた試算であり、この試算をマスメディアは無視できないはずだ。しかし、この指摘を報道しなくなっているところに歪みがある。
私たちの身近にある具体的な事実に照らして、マスメディアの報道を検証すれば、自分たちの暮らしの視点から事実に接近できる可能性がある。

もう一つは、物事を歴史の中で見極めるということだ。
この視点は、全てを貫くものとして大事にしていただきたい。全ての物事には、発展のプロセスがある。その物事には一つ一つの歴史がある。この歴史を大切にして現在の姿をとらえ直していくと、真実が浮き彫りになる。歴史を調べることは、現代の問題を読み解く生きた力になる。今日書いた日米安保条約の歴史も、現在の日米関係を浮き彫りにする上で大きな力になるからだ。

テレビと新聞を鵜呑みにして語る人は多い。政府の言い分と同じになっている場合、その語りに対してはぜひ疑問をもってほしい。出発点でその報道を鵜呑みにしないで、政府の言い分を批判的に検証するという姿勢を身につければ、自分の頭で物事を考えはじめる位置を確保できる。メディアリテラシーはここから始まる。


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雑感TPP

Posted by 東芝 弘明