朝日の記事撤回がもたらす変なリアクション

雑感

朝日新聞が、従軍慰安婦の特集を連載した。この特集の中で5日「強制連行があった」という証言が虚偽にもとづくものであったとして、記事を訂正した。また、女子挺身隊と従軍慰安婦について混同もあったことを認めた。

読者に対する強制連行の証言が虚偽だったことに対するお詫びの部分を引用しておこう。

「吉田氏が済州島で慰安婦を強制連行したとする証言は虚偽だと判断し、記事を取り消します。当時、虚偽の証言を見抜けませんでした。済州島を再取材しましたが、証言を裏付ける話は得られませんでした。研究者への取材でも証言の核心部分についての矛盾がいくつも明らかになりました。」

読売新聞は、この朝日の訂正記事を受けて6日、従軍慰安婦問題の焦点が「強制連行があったかどうか」に焦点があるとする論調で主張と特集記事を組んだ。主張によれば、「『戦場での性』の是非と、軍の強制連行があったかどうかは区別して論じる必要がある。広義の強制性があったとして日本政府の責任を問うことは、議論のすり替えではないか」と書いた。

このような批判の仕方は、鬼の首を取ったようなやり方ではないだろうか。
従軍慰安婦の問題は、日本軍が広く戦場で採用していた制度であり、慰安所は軍のあるところに多数存在していた。慰安所のあり方は一様ではなかっただろうけれど、多くの女性が監視状態のもとで慰安所に置かれていた事実は揺るがない。問われているのは、従軍慰安婦とは何だったのか、慰安所で何が行われていたのか、ということであって、軍が強制連行したのかどうか、に最大の焦点があるわけではない。なのにこの問題が、従軍慰安婦問題の最大の焦点であるかのようになったのは、まさにここに虚偽の証言があったからに他ならない。この部分が虚偽であれば、従軍慰安婦の問題がすべて否定できるかのような見方が出てきたのは、日本特有の極めて狭い議論だった。

読売新聞は、一応新聞なので、今回の主張でも朝日新聞の記事撤回を受けても、従軍慰安婦問題をなかったことにはしていない。「フィリピンやインドネシアなども含め、戦時中に多数の女性の名誉と尊厳が傷つけられる行為があったことは確かである。政府・軍の強制連行はなくとも、現在の人権感覚では、許されないこともあっただろう。」とも書いている。従軍慰安婦問題を否定することはできないので、ものすごく歯切れの悪い主張になっている。この歯切れの悪さは、新聞というものの限界だろう。新聞であれば、従軍慰安婦問題を否定しきれないのは明らかだからだ。

ネットでは、朝日新聞が記事を撤回したので、従軍慰安婦問題は朝日による偽造だったかのような論調まで出ている。そういう論調が出てきて、世論がおこり、朝日新聞が従軍慰安婦問題そのものをねつ造したかのような論調が出てきた方がいいというような傾向がある。今の政府は、読売新聞が書けないようなとらえ方で朝日新聞を追及しかねない。

急先鋒である石破さんの記者会見を引用しておこう。

Q.  読売新聞の工藤です。本日付の朝日新聞で、慰安婦問題の、これまで報じてきた一部に関して、事実関係が誤っていた、裏付け取材が不十分だったという点で、検証記事が載っています。これまでこの問題は非常に大きな影響を世の中に与えてきたものだと思うのですが、記事を読んでの受け止め、特に検証を朝日新聞が行ったということについての受け止めをお願いします。

A.  私どもとして、この記事は正直言って、非常な驚きをもって受け止めております。今まで、有力紙たる朝日新聞が、吉田さんとおっしゃる方の証言に基づいて、慰安婦問題を世論に喚起をしてこられ、そしてこれが国際的な問題を伴ってきました。それを、取り消すということになれば、「今までの報道は一体何であったのか」ということです。それは、どうしてこのようなことになったか、ということについて、紙面で述べておられますが、これだけ大きな問題になっている、我が国がそういうことをする国家であるということで、国民も非常に苦しみ、そしてまた国際的な問題ともなっている。なぜ、このような十分な裏付けが取れない記事を今日に至るまでずっと正しいものとしてやってこられたのか。そのことの検証は、これから先、日本国の国益のためにも、この地域を友好の地域として確立していくためにも、極めて重要なことだと思っております。これはこれから、国会の中で、わが党として、いろいろと議論していくべきですが、場合によっては、これだけ大きな地域の平和と安定、あるいは地域の隣国との友好、国民の感情に大きな影響を与えてきたことですから、この検証というものを議会の場でも行うということが必要なのかもしれません。真実は何であったのかということを明らかにしなければ、これから先の平和も友好も築けないと思っておりまして、それは、書かれた社の責任として、その責任を果たされたいと考えております。

Q.  NHKの西井です。議会での検証ということですが、関係者の国会招致等も検討されるということですか。

A.  それはこれからのことです。要は、糾弾するとかというお話ではなくて、国民の苦しみや悲しみをどのようにして解消していくか、それは我が国だけではありません。取り消されてしまいましたが、そのような報道に基づいて日本に対して怒りや悲しみを持っている国々、特にこの場合は大韓民国ですが、そのような人々に対する責任でもあると考えております。それは、一にかかって、その地域との新しい関係を構築していくために、有効なものであるとすれば、そういうこともあり得るでしょう。現時点では何ら確定しているものではありません。

石破さんのトーンは、朝日新聞の報道によって、従軍慰安婦問題が大変な誤解をあたえたかのようなものになっている。朝日新聞の撤回が、右よりな世論を増幅させ、それがより一層日韓関係を悪化させる引き金になるように見える。朝日新聞の記事撤回へのリアクションが日本を孤立させる。日本の「井の中の蛙」のような、ものすごく極端な議論が、世界から大きな批判を受ける。今回の朝日新聞の記事撤回は、「鬼の首を取った」といって喜ぶ勢力によって、最悪の結果を引きおこすのではないだろうか。


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雑感従軍慰安婦

Posted by 東芝 弘明