補正予算─ぼくには理解しがたかった

雑感

議会本会議が開かれた。補正予算1件の審議だった。ぼくは補正予算に反対し討論を行った。採決の結果、反対2(東芝、羽根)、賛成10人という結果だった。審議は具体的な話から理念的な話に移っていった。本会議質疑は3回まで。終わると黙っているしかない。ぼくの質疑までは、具体的に事業の内容を明らかにする質疑だった感じだったが、そのあとは事業の考え方、理念を質疑を通じて答弁してもらうような感じへと変化した。

この主要施策は、町の予算を説明するもので、今回の資料は観光コンテンツ造成事業委託料495万円(旅行会社に委託)と販路基盤整備・プロモーション事業委託料(夢洲新産業・都市創造機構に委託)する予算の資料だった。この予算で関空からヘリコプターで4人が天野にやってきて、丹生都比売神社を特別参拝し、天野の星空を鑑賞して天野に宿泊し、翌日は高野山を観光して臨時の特別列車「天空」で難波に行くというものだった。
この企画を2回実施するので8人がヘリコプターで天野に降りることになる。観光コンテンツ造成事業委託料495万円が、この具体的な事業に使われる。今回の事業はモニター事業であり、実際にかつらぎ町に来る富裕層の人には自己負担がない。

今回は、こういうモニター事業を実施して、観光の新しいプランをつくるところに目的があるというものだった。しかもどのようなコンテンツを作るのかという点についても極めて具体的に提起されていた。それは主要施策に明確に次のように書かれていた。
「町の観光資源と世界遺産「高野山」を結びつけ、関空からの直行ヘリコプターや特別観光列車などの移動ツールを用いた国内外富裕層向けの観光コンテンツ(観光商品)を開発します。また、開発した観光コンテンツを事業展開し、商品化への土台を築くことで、令和7 年度開催予定の大阪・関西万博を契機とした、インバウンドの獲得を目指します。」
ヘリコプターと特別列車を使った富裕層向けの新しいコンテンツ。今回の議案は「なにそれ」というような内容だった。こんなヘンテコリンな内容なのに、議員による質疑が進むにつれて、町長を含む当局の答弁は理念を中心にした思いの表明へと議論がずれていった。町長を含む当局の説明は次のようなものだった。

和歌山県には富裕層向けの観光プランがないので、富裕層で各国の要人などに来ていただいて、自国に帰ってかつらぎ町はよかったよというように情報を発信していただくことが必要かと思っている。そういうことが外国人観光客を増やすことにつながると思っている。かつらぎ町には観光バスの会社もあればタクシーもある、宿泊施設もある。富裕層に泊まっていただくには不足もあるが、宿泊施設もあるし、観光農園もある。本町には観光資源もあるので、最終的には富裕層にかつらぎ町にどんどん来てもらうということではなしに、発信力のある方に来ていただいて情報を発信していただくことによって、多くの外国人の方に来てもらえるようにしたいと言うことである。ヘリコプターを使ってかつらぎ町に来てもらうようなことを続けていくと言うことではない。

この時点でぼくの質疑は終わっていたので、驚きながら答弁を聞いていた。質疑によって議場は、議会に提出した資料とは違う説明で満たされ、なるほど、それでよく分かりましたというような状況になった。質疑というのは次第に具体的になっていくのが普通なのに、どんどん理念が前に出て、具体的な事業のことが語られなくなっていった。

行政の事業というのは、理念があって施策の具体化がある。行政の事業は、具体的な姿を中心に展開される。理念がどのように深遠なものであっても、具体化される事業が全くその理念につながらないのであれば、そういう事業は行うべきではない。ヘリコプターで8人をもてなし、特別列車で難波に行く。富裕層の人の自己負担はない。この事業に770万円をつぎ込む。どんな説明をしてもこの事実は変わらない。今回の事業で外国人観光客がかつらぎ町に増えることにつながるのかどうか。ここが肝心なことであるなら、ここに中心点があるのであれば、もっと具体的にこの部分のプランを語るべきだろう。発信力のある人に宣伝してもらうとかインフルエンサーの人に宣伝してもらうとかいうのであれば、この点での具体的な企画がなければならない。ここに目的があるのであれば、プランの後この事業が具体化されなければならない。インフルエンサーによる宣伝の具体化がどうなるのかは明らかにはならなかった。そもそもそんな説明は主要施策には書かれていない。具体的な事業が理念に合致しているのかどうか。議員が問うべきなのはここにある。

今まで散々国を含む行政はバラ色の夢を語ってきた。関西新空港ができると1時間でくることのできるかつらぎ町でも、国際会議ができるような施設が必要だと言って作ったのが総合文化会館だった。しかし、関西新空港ができると、もっともバラ色の夢を描いていた泉佐野市が苦境に陥った。
「和歌山県への関空による経済波及効果はゼロ」、関空ができて1年後、紀陽銀行はそう発表した。
東京オリンピックの経済波及効果はどうだったんだろう。関西万博が日本経済や観光事業の起爆剤に本当になるのかどうか。関西万博のあと作られるIRカジノが本当に経済波及効果を生み出すのかどうか。夢洲新産業・都市創造機構はIRカジノをも推進する事業体だが、経済波及効果や集客の計算が現実的でないという意見が寄せられている状況の中で事態は推移している。

もっと地に足をつけた計画と見通しをシビアにもって事業を展開しなければならない。これが過去30年間の日本経済から導き出される教訓ではないだろうか。バブルの時に土地神話でゴルフ場開発やリゾート開発が盛んに行われ、風船がしぼむようにそれらが破綻して、1990年代に突入し、2000年代から行われた構造改革によって、日本経済も社会も沈みゆく泥船のような状況になっているときに、1970年代の高度経済成長期のモデルさながらに、関西万博がチャンスだと言って、かつらぎ町のように絵を描くのが、時代認識として正しいのかどうか。こういう事業を展開しても、今までの失敗を重ねるだけのことではないのか。

ぼくは、夢物語に水を差して申し訳ないが、次のような反対討論を行った。

議案第79号、令和5年度かつらぎ町一般会計補正予算に対する反対討論を行います。
串柿の里の空調設備の修繕費や超勤手当の補正予算には賛成します。反対するのは、770万円の観光コンテンツ造成事業委託料及び販路基盤整備・プロモーション事業委託料についてです。今回、この予算が否決されても通年議会ですから、必要な補正予算を組む機会を作り、本会議に上程することを求めます。
地方自治体の事業は、すべて政治の一環です。行政の施策を決定するために問われるのは、時代認識です。2000年以降の小泉改革以来、非正規雇用が増え、格差と貧困が広がるとともに、税負担と社会保障の負担が増やされ続けてきました。その結果、先進国の中で日本だけが賃金の上がらない国、経済の成長しない国になりました。
地方は第1次産業の衰退のなかで、少子・高齢化・過疎化がすすみ、人口減少に苦しんでいます。さらに昨年から物価が上昇し、国民生活は極めて厳しい状況に追い込まれています。
この時代をどう認識しているのか。これが真正面から問われています。今回の事業は、かつらぎ町民の感覚、庶民の感覚からかけ離れています。
東京オリンピックを実施しても景気はよくなりませんでした。賃金が上昇せず消費が冷え込んでいる時代の中で、関西万博が経済に大きなインパクトを与えることはありません。
国費550万円、町費220万円の原資はすべて税金です。町民税分92人分にあたる770万円をつぎ込んで、富裕層8人をおもてなしする事業には納得できません。この事業を通じヘリコプターと特別セットになった観光コンテンツはできないと思います。もし実現しても、経済波及効果は一部の事業所だけに留まります。
質疑の中で主要施策の説明とは形の違うコンテンツができるかのように答弁しましたが、それは町の説明を、町が自分で否定するものでした。計画があまりにもずさんです。
220万円の予算があれば、災害への特別見舞金を支給することもできます。もしくは、子ども議会の財源に充て、子どもの提案に積極的に答えるという活用の仕方も考えられます。もしくは、220万円を目の前において、町民のためになる施策への提案を求めれば、知恵も力も出てくるでしょう。
議会は2元代表制です。町民合意の得られない議案が出てきたら、住民の代表として是々非々を貫くことこそが議員の仕事です。町長も議員も時代認識と庶民感覚を失ってはならない。このことを訴えて反対討論を終わります。


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雑感

Posted by 東芝 弘明