歴史観は生きる上での羅針盤

雑感

今の時代は生きにくさのある時代だろう。多様性が保障される時代に向かいつつあると思うが、同時に政治的な支配の枠組みの中で生かされているので、日本は、社会がどのような方向に向かいつつあるのかという、大きな意味での方向性さえつかめない社会になっていると思う。

政治や社会のことは、水や空気のように当たり前のこととして、自分たちのまわりにあるにもかかわらず、日本の教育は、政治や社会のことを、水や空気のようには教えない。社会を進歩させたいと思うのであれば、人類が積み重ねてきた価値あるものは何かを教え、何をどう変えていくべきかという大河のような流れを教えることが必要だろう。しかし、そうはなっていない。

江戸時代から明治時代、そこから戦争を経て現在に至るまでの歴史の中で培われてきた価値あるものは、日本国憲法の原則として現れている。①国民主権と国家主権、②基本的人権、③恒久平和、④地方自治、⑤議会制民主主義。この憲法5原則と呼ばれるものの上に立って、次の社会を目指すということが、本来は歴史の中に位置づけられるべきだと思われる。

しかし、この5つの原則をよかれと思っていない勢力が、日本国憲法を憎みながら政権を運営しているので、歴史の太い流れが、国民の中に一つの規範として培われていない。ここに日本社会の大きな不幸がある。この憲法5原則でさえ、相対化され、批判のまとになり、社会の変革の波にさらされている。
明治時代への回帰。ここに憲法5原則を攻撃する意図がある。権力側が執拗に攻撃を加えると、何が正しいのかが曖昧になり、真理や真実がどこにあるのかが分からなくなって相対化してしまう。

憲法9条は、第二次世界大戦という母体の中から生まれてきた人類の希望だった。世界に例を見ない日本国憲法のこの規定は、第二次世界大戦の中で最後まで抵抗したのが、大日本帝国だったということと深く関係している。連合国が、戦争を終結させようとしたとき、国連憲章の一歩先を行く人類の理想が憲法9条に込められた。憲法9条を生み出したのは、当時の世界の巨大な意志だったという側面がある。ここに世界史の面白さがある。
しかし、戦後の原点を相対化する権力側の努力によって、憲法9条を守れという態度が、「政治的に特殊な態度」であるかのように描かれはじめている。憲法9条は、政権与党から執拗に攻撃されているので、その攻撃から距離を置きたいという人々を生み出している。日本社会の中で公然と憲法9条を守れという立場を掲げることに対し、「勇気」が求められる時代というのは、かなり危うい。

学校は、本来、歴史の中から生み出されてきた、未来に対しても守るべき教訓を積極的に教えることを中心になり立つものだと思う。多くの社会科学の基礎は、日本国憲法が体現したものを価値あるものとして教えることによって、成り立っていると思うが、学校現場は、もはやそうはなっていない。これが日本人のアイデンティティ崩壊と深くつながっている。

義務教育を通じて、国民が基本的人勧を学び、国民主権を学んで、恒久平和という土台のもとで社会を発展させるということを、国民共通の規範として学ぶようになれば、子ども一人一人が、自分たちの社会をどうよりよく変えるのか、分かりやすくなるのに、自分の進むべき道がはっきりしないという若者を大量に生み出している根底には、政権与党による歴史の改ざんがある。

もちろん、科学は、すべての価値あるものを含めて、検証、証明するという性質をもっている。憲法がもつ5つの原則も、問いを立てて検証することが求められる。教え込みによる教育ではなしに、ゼロから検証しつつ学ぶ。これが実現すれば、自分の頭で考える人間の育成へとつながる。徹底的な検証に耐えうるだけの分厚さと深さを5原則はもっている。
小さい頃から批判的な学びの中で確かめられた認識は、人間の生きる力になる。

何もかもが変化の中にあるという言い方に潜んでいる悪巧みは、歴史的な事実の相対化だろう。変化すべき対象の中に国民主権と国家主権、基本的人権、恒久平和、地方自治、議会制民主主義もあるというのが、支配者側の考え方だ。そうではなくて、歴史から学んで価値あるものを受け継ぎ、発展させるべきものを土台に据えて、変化に対応したり変化させたりすることに意味がある。
自分も含めて、大人に対して注文がある。変化の激しい時代だからこそ、「不易と流行」を見極める眼力が求められる。変化の激しい時代だからこそ、その荒波に飲み込まれないようにするためには、長期的な視点、つまり歴史認識が問われることになる。封建制の社会から資本主義に足を踏み入れた日本が、どのような歴史をたどって、何を実現してきたのか。その中から得られる価値あるものは何か。こういう歴史観は、人間が生きる上での羅針盤になる。
そういう歴史観をもっているのかどうか。それを自分に突きつけなければならない。


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雑感

Posted by 東芝 弘明