ブランデー入りのチョコレート事件
「お父さん。ウイスキー入りのチョコレート、ちょうだいよ」
「うん、わかってるで。残しとるよ」
そんな会話を交わしていたので、事務所においてあったブランデー入りのチョコレートを持って帰ってきた。
チョコレートは、リビングの食卓の上に何の気なしに置く。
今日は朝風呂をいることにしていたので、家族の中で一番最初に入浴した。
風呂から上がってリビングに行くと、大きな声がした。
「お父さん、何食べさせてるんよ。こんなん食べさせて。酔っぱらって気分が悪くなったらどうするんよ」
「食べたんか?」
娘に尋ねると、
「食べたんやけどね。オエッてなったんやで」
「はき出したんか」
「ううん、全部食べたよ。酔えへん?、気分わるなれへん?」
「大丈夫やよ。はよお風呂入り」
娘は、妻が入っているお風呂に入りに行った。
しばらくして‥。
「お父さん、きてよ。はよ来てよ」
娘がバスタオルで体を拭きながら出てきた。
「パン出して」
娘の声にかんが立っている。
「お腹すいているから、よけい気分が悪くなるやろ。はよパン食べらな」
お風呂の中で妻からそう言われたのだろう。
「おとうさん。何考えてるんや。あんなん食べて、お風呂入ったらよけ、酔っぱらうやんか」
風呂から出てきた妻の声にはけんが立っている。
「あんな空きっ腹にブランデー入りのチョコレートら食べたら、どないなるか分かっとるんか」
「……」
妻のにらむ目は、間隔が長い。目を合わせられない。
まさに、蛇ににらまれた蛙だ。
ブランデー入りのチョコレートのパッケージには、ナポレオンとある。
持って帰って娘にチョコっと食べさせて、「ほらね。苦いやろ」とする予定だったのに、自分で勝手に食べるとは思っていなかった。
今日もまた、失敗してしまった。
うーん。人生は失敗の連続だ。