日本政府の謝罪には、始まっていない問題さえある。

雑感

安倍総理の談話をある会議で全文読み合わせをして議論した。
議論しながら思ったことがある。

日本政府は、あの第2次世界大戦の時に起こった諸問題に対し、ほとんど必要な責任を果たしてこなかったということだ。
戦争に反対した人々を治安維持法違反で逮捕・投獄し、中には、小林多喜二のように取調中の拷問によって虐殺した例もあった。治安維持法違反の中心には日本共産党があった。天皇制の打倒と国民主権を主張し、侵略戦争に反対した運動は、当時の社会体制のもつ問題を真正面から捉えていた。天皇制打倒は、国民主権を実現するためには、絶対主義的な天皇制を打ち倒すことがどうしても必要だったからだ。天皇に主権があり、国民には主権がなかった。陸・海軍を統帥していたのは天皇であり、天皇には戦争を始める権利と戦争を終わる権利があった。打倒としていたのは、天皇制という社会制度が、「神聖にして犯すべからず」というものだったからだ。議会の多数を占めて与党になり、その力を持って天皇制を廃止するというプロセスが描けなかったからだと思う。
国民の基本的人権は保障されず、国民は法律の範囲でしか権利を認められなかった。国民主権の実現と国家の改革は不可分一体のものだった。
やがて治安維持法は、どんどん拡大され日本共産党以外の人々の弾圧に広げられ、宗教者の多くもこの法律によって弾圧された。

戦後、絶対主義的な天皇制は解体され、「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」となった。国政に対する権能を有しない存在である天皇の制度は君主制ではない。国民主権との間で天皇制は、国民主権を政治的に侵すような存在にはなっていない。完全に天皇の制度を廃止するか、もしくは日本国憲法のような規定にならないと国民主権は実現しなかった。日本共産党が主張した天皇制打倒という問題と国民主権の実現というのは、象徴天皇制への移行によって実現した。

国民主権がなかった日本社会には、絶対的な権力を持っていた天皇制による戦争への暴走を、国民の力でとめる社会制度上の仕組みはなかった。あの時代に、戦争反対を主張し、国民主権の旗と侵略戦争反対の旗を掲げて、運動した人々は、未来を予見して闘った人々だったから、名誉の回復を政府として果たさなければならない。もちろん、少しでも民主的な動きをした人まで徹底的に弾圧した治安維持法とその犠牲になった多くの人々のすべては、その名誉回復を行うべきだし、国家による賠償を実現しなければならない。治安維持法は、日本国内だけでなく植民地だった朝鮮半島や満州国にも適用された。ここで犠牲になった人々もたくさんいた。こういう人々の名誉回復と賠償も行わなければならない。
名誉回復が重要なのは、国賊・非国民というレッテルを貼られ、こういう人を出した家族は、地域の人々にもさまざまな迫害を受けてきたからだ。仕事を奪い地域における人間関係を破壊し、虐げた国の責任は極めて重い。

空襲に遭った国民は、空襲が行われても逃げるな、火を消せという教えを受けていた。この教えを守ろうとした人の多くは焼け死んでいる。「生きて虜囚のはずかしめを受けず」という戦陣訓を守って自決した兵士もたくさんいた。日本軍の無残な作戦の中で膨大な数の餓死者が生み出された。この餓死者の中には、戦場と化した東南アジアの諸国民もたくさんいた。日本軍は、現地の人々の生活を破壊し、食料を奪い道連れにした。

日本政府は、軍人だった日本兵を誉めたたえているが、謝罪したことはない。日本政府の誤った戦争に狩り出し、多くの日本人の命を虫けらのように扱い、戦死させた責任が日本政府には存在する。侵略戦争という誤りを犯したことによって、日本人310万人とアジア諸国民2000万人以上の命を奪った責任は極めて重い。植民地であった朝鮮からは、強制的に労働者として日本に連れてきて、強制労働に従事させた企業がたくさんあったが、これも国策だった。この問題では、日本政府と企業のそれぞれに重い責任がある。日本国民と侵略戦争と植民地支配を行った諸国民に対して戦争の責任を詫びて、謝罪し賠償の責任を果たすことが問われている。

いつまでお詫びするのか、というような意見があり、安倍首相の談話にも「謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と書いてあるが、はっきりしているのは、日本政府としての謝罪はまだ全く終わっていないばかりか、始まってさえいない問題がたくさんあるということだ。日本国民に責任を転嫁する前に、政府は謝罪と賠償をきちんとしなければならない。
第2次世界大戦のときに日本が引きおこした戦争におけるさまざまな問題に対し、責任を果たさない国が、お詫びという言葉を一言、侵略を一般論として一言書いただけで、責任を引き継いだなどというのは許しがたい。第2次世界大戦の問題は、全く決着がついていない今日的な問題であり、国際問題かつ国内問題だということを改めて書いておきたい。

雑感

Posted by 東芝 弘明