雑賀議長の告別式
雑賀議長の葬儀に参列して、立礼させていただいた。町長と副議長が弔辞を読んだ。雑賀議長の息子さんが親族を代表してあいさつを行った。笑顔の似合う優しい人だった。「議長として復帰したかったと思います」という意味のことを町長と議長が弔辞で述べた。議長は、9月議会の最初に会ったのが最後だったと述べた。はやすぎる逝去だった。
参列者はみんなマスクをしていた。立礼していると目だけで誰か分かる人と、判別しかねる人がいた。女性がとくに識別しにくかった。頭を下げながら目の前を通る人の靴を見ていた。色々な靴を履いている。こんな先の細い靴を履いて足が痛くないのかな、なんてことも頭に浮かんだ。
立礼が終わった後、もう一度会場の椅子に腰掛けて、花を手向けるまでの時間を待った。
「一般の方もどうぞ」とスタッフの女性に促されたので、前に歩いて行き花を手にした。痩せて細くなった顔を見てもう一度手を合わせた。
雑賀さんには、シティ・ボーイという異名がついていた。それは、雑賀さんがよくかぶっていたハンチング帽といつも肩にかけていたショルダー鞄、趣味がパラグライダーというところからつけられたものだった。関西大学法学部出身だったので、ときどき法理論を述べることがあった。難しい問いかけに対して、ぼくは何度か答えたことがあった。
思い出の写真を飾ってあるコーナーには、笑顔の雑賀さんがいた。そうそう、この人なつっこそうな笑顔がこの人の特徴だった。優しい感じが写真からにじみ出ていた。1枚大きな写真は、パラグライダーで降りてきたときの瞬間を撮ったものだった。
「かっこいいですよね。雑賀さん」
ぼくは、写真を見てそう言った。雑賀さんは、これからも自由にパラグライダーで空を飛び回り、かつらぎ町を見守ってくれるかもしれない。
天気予報は雨だったのに、葬儀が終わっても雨は降っていなかった。雑賀さんが笑って涙をこらえてみんなを見ているような気がした。



