セルフ・ガスト
3時過ぎから、かなり激しい雨が降った。今日の雨は激しすぎたが、雨音が心地良いときもある。ぽちゃんという音が混じっているようなしとしと降る雨の日は、雨の中に色々な音が交じる。聞いていると面白い。
雨が降る中を高野口で会議があるというので車に乗った。大谷の京奈和の登り口は、アプローチが長い道で、フラットな道から急に登って行く。舗装した道を上るときに、雨がこの坂道を下って川のような感じになっているのを発見した。中島みゆきの「ファイト」という歌が思い出された。冷たい水の中を魚たち登ってゆけ、だ。
夜は、妻が外出をしているので高野口のガストに行った。『ビブリア古書堂の事件手帖』を読んでしまいたかった。この本はずっと買い続けているもので、本にまつわる話が面白い。篠川栞子さんという女性がビブリア古書堂を経営しており、そこに勤めだし、後に夫になった五浦大輔が、書き記した「事件手帳」(文章がうますぎるが)によって、物語が展開するという形を取っている。古書のことになると栞子さんは、推理力を遺憾なく発揮し事件を解決する。事件と言っても殺人が起こるわけではない。古書を求めて手に入れようとする人々の策動が、多くの人を巻き込み、一つの事件を起こす。
五浦大輔と篠川栞子は結婚し、女の子が生まれる。扉子という名前の少女が、母の後を継いで次第に本にまつわる話に深く関わり始める。栞子さんのお母さんは、篠川智恵子という。この人が栞子さんを超える古本のバイヤーだ。栞子さんとの間で本にまつわる考え方の違いがあり深く対立している。智恵子は、世界を飛び跳ねながら本にまつわる仕事をしている。
頭のいい女性が活躍する小説は好きだ。知的な女性が元来好きだというのがあるからだとも思われる。
牡蠣フライ定食を注文した。フライは大丈夫。生は駄目という体質なので、生牡蠣は食べない。食べられない。
ガストは全てタブレットによるタッチパネルで注文することになっている。和定食だったのでお味噌汁が付いていた。にもかかわらず、「お水やスープバーのご利用をどうぞ」という意味のメッセージが最後に画面に出てきたので、反射的にスープをカップに注いでテーブルに持ってきてしまった。これを飲みながら「あっ、これは飲んじゃいけないようだ」と気が付いた。和定食にスープバーはくっ付いていない。
誰にでも間違いはあるが、どうも居心地が悪い。そう思いつつ、飲んでしまったあと黙って本を読んでいた。
ロボットが2人分の注文の品を運んで行き、戻ってくるとき、またぼくの横を通って行く。ロボットなりに頑張っているので、もうすぐ牡蠣フライも運んでくるかなと思っていると、人間型の女性ロボットが(嘘)、皿を持って目の前に立った。
「お待たせしました」
「あんまり待っていないですよ」
言葉を心の中で言ってみた。
人が運ぶ場合とロボットが運ぶ場合の違いが分からない。和定食だから和に合わせて人が運ぶんだろうか。
牡蠣フライにレモンを搾ってかけるために、レモンが添えられていたが、貧弱だった。これではレモン汁が五つの牡蠣フライにまんべんなく振りかけられない。これはちょっとだけ残念だった。例のスープカップは自立型メニューの影に置いて通路からは見えにくくした。食事が終わり本を読んでいると、また女性店員がやって来た。
「お皿をお下げさせていただいてよろしいでしょうか」
「はい」
返事をしたが、気になっていたのはスープカップだ。これがテーブルの上にあるのはまずい。でも仕方がない。女性店員は、スープのカップを見たように見える。「あらまあ、間違えたんですね」という感じが漂った。
さらに後ろめたくなりつつ『事件手帳』を読んでいると、カフェでスイーツを食べるシーンが出てきたので、脳が反応した。食べたいと思ったら、人間プチっとスイッチが入る。飲みたいだの、食べたいだのというスイッチが入ると、どうも意識がそちらに動く。三度ためらった後に、デザートとドリンクも頼むことにした。誘惑には勝てないというか、本の力は大きい。
ドリンクバーで2杯、デザートも食べたので、少し罪悪感は薄らいだ。アイスクリームパフェとカプチーノ、ブレンドコーヒーを飲み、しばらくすると『事件手帳』の後書きも読んで読了となった。店内のお客さんのピーク時が過ぎてテーブルには空きが目立つち始めた。
お店を出るためにレジに立つと、セルフレジと表示している。これを試してみる気持ちになった。
バーコードリーダーでレシートを読み込むと、2枚分の料金が画面に表示された。1枚だけ読み取ったのに2つ分の料金が表示されている。テーブル席に反応するのかと思いつつ、お金を確認して、ペイペイで決済を試みた。しかし、バーコードリーダーが反応しない。あきらめて帰ったらお金を払わないままになる。四苦八苦しながらピッという音がするまで格闘した。1分はかかっただろうか。
事務所に戻り、資料をプリントアウトして自宅に帰ると10時を過ぎていた。妻が帰ってきて洗濯をたたみはじめたところだった。お風呂の掃除をして、お湯張りをして、うたた寝してからお風呂に入った。