『そして』はいらない

出来事

リビングに物音がしたので目を覚ましたら、目をこらした先に娘が立っていた。時計を見ると6時45分だった。
「早いやん」
「自分史が書けていないから早く起きる必要があったんよ」
早く起きると言っても、いつもより15分早いだけだ。
腰痛になってから、硬いところで寝た方がいい、ということになって、火曜日からリビングで、文字通り横になって、少し足を曲げて寝ている。朝になるとみんなこのリビングに2階から降りてくる。

見ていると食卓に座って原稿を書き始めた。
「送って」
というのでガウンを着たまま家の外に出た。車の暖機運転のためにドアを開け、キーを回す。フロントガラスは凍りついていない。風があり霜が降りていない状態だった。
リビングに戻ってくると7時33分だった。あと2分ある。そう思ったので生ごみとリビングにあるゴミ箱3つをごみ袋に詰め込んだ。
「もう35分やで」
娘に声をかけて、ごみ袋を持ったまま、こんどはダウンジャケットを羽織って、外に出た。家の斜め前がごみの集積場になっている。そこにごみ袋を置いて車の運転席に乗った。36分、娘が後部座席に乗り込んだ。
笠田駅に向かい、国道480号にでる。信号待ちをしていると娘が自分史のことを書いた原稿を読み始めた。一人の持ち時間は2分から3分だという。
「『私』が多すぎる。最初の私は必要ない。なくても意味は通じる。『そして』はいらない。全部消せ」
「なんで」
「日本語には主語はいらない」(極端だなあ、我ながら)
「後で削るよ」
「なんか小学生の作文みたいや」
「じゃあ、なんで『そして』って接続詞があるん」
娘はムキになって噛みついてきた。
「『そして』は、文章が下手な人のためにあるんや」
「そうなん」
「そうや」
こんなやり取りをしていると駅に着いた。
娘は不満そうだった。
「バイバイ」
ちょっと笑った。
15分で書いた自分史を持って娘は駅のホームに走って行った。

出来事

Posted by 東芝 弘明