SMAP解散から見えてくるもの
SMAP解散について、何処までが事実なのかよく分からない情報が乱れ飛んで、木村派、中居派というような分け方が一般化されて、いろいろなことが報道されている。しかし、このような分け方自体にどうも違和感がある。事実を全く知らないぼくたちが、SMAP解散について論及しても、ほとんど意味がないと思われる。物事に対する論及は、事実を丹念に踏まえた上で論じるべきなので、ネットや週刊誌の記事を読み込んで論じることもしたくない。
でも、コメントを書く気になったのは、オリンピック以後放映されたSMAP×SMAPを見たからだ。柔道90キロ級の金メダリスト、ベイカー茉秋選手がビストロSMAPに出演した収録は、8月24日行われ29日に放映された。5人のメンバーが対立していると描かれ（実際に対立はあるかも知れないが）ているのに、5人は番組収録をきちんとやり遂げていた。痛々しくも見えるが、きちんと仕事をしていることを感じて拍手をしたくなった。
木村さんがジャニーズ事務所の側につき、中居さん、稲垣さん、草彅さん、香取さんが辞めた女性マネージャーに心を寄せているという報道だが、本当にこのような対立があったとしても、ここに問題の本質があるのだろうか。
日本の芸能人と芸能事務所との対立や確執は、SMAPにはじまったことではない。多くの芸能人が移籍問題や対立をめぐって大変なことになって、芸能活動ができなくなったり、完全にテレビや映画から消えて行ったりしてきた。芸名を使用することを禁じられた芸能人もいた。今回のSMAP解散でも、何人かのメンバーが次第に仕事をもらえなくなって、芸能界からフェードアウトしていくのではないか、という指摘が飛び交っている。TBSは、このような状況下で中居さんと稲垣さんが出演している番組の編成について、来年1月以降も2人には出演してもらうとコメントを明らかにした。こういうコメントが出るというのは、フェードアウト説が単なるうわさではないことを物語っている。
芸能事務所と芸能人の契約は、対等平等ではない。このような状況は、アメリカとは全く違うということについても、具体的な指摘がある。アメリカの契約は、まさに対等平等。事務所の移籍問題で芸能活動がストップすることはない。若手俳優の中には、このような芸能人に不利な状況を改善するために、労働組合を結成したいという動きもある。プロ野球の選手たちが労働組合を作ったように芸能界にも事務所別の労働組合ではない産別の労働組合を作る必要がある。そうしないと働く人間としての権利が守れない。
うわさについて触れておこう。木村さんが事務所側についているとしても、子どもの頃から支えてくれた事務所に対して敬意を表すのはあり得ることだ。同時に他のメンバーが育てて支えてくれた女性マネージャーが事務所を辞めたときに、一緒に出ていきたいと思ったというのもあり得ることだろう。そもそも、どちらが悪いという問題ではない。どちらも当たり前のように起こることだが、木村さんが悪いというトーンで描き、5人の対立は決定的だというような描き方というのは、それこそ、問題の本質をわざと踏み外している。
何人かのメンバーのフェードアウト説に対して、TBSが答えるかのようにコメントしたように、問われているのは、芸能事務所と広い意味で労働者である芸能人との社会的契約の問題だろう。芸能事務所の契約の仕方や所属芸能人とのトラブルが発生したときの問題解決の仕方に対し、新たな法的規制を行って、芸能人の活動を守る必要も検討するべき問題が横たわっているのではないだろうか。SMAP解散後、メンバーがジャニーズ事務所をかりに離れたとしても、芸能人として自由に活動し、他の事務所とも契約して仕事ができるように環境を作ることが、政治にも求められているのではないだろうか。
しかし、契約のあり方に政治的なメスを入れるだけでは、全ての問題は解決しない。やはり若手俳優の方々が作りたがっている労働組合を結成し、業界全体に対し、芸能人が権利を守れるよう交渉し、基本的な協定を結ぶような方向に進むべきだろう。芸能人は、事務所にとってはお金を稼ぐ商品なのかも知れないが、働くものの権利を守る仕組みを確立することが問われている。SMAPの解散問題を通じて、芸能人の権利が守られる状況へと事態を改善してほしい。それは、芸能人が文化活動を通じて、感じていることを自由に発言できるようになることともつながっている。自由な発言には政治的なものも含まれる。
SMAP解散の根底にある問題をメディアはきちんと事実にもとづいて国民に伝えるべきだろう。スマップのメンバーの中から将来、事務所に残る人、離れる人が出ても、いずれにしても芸能人としていい仕事を続けることをファンは願っているのではないだろうか。メディアは、5人の対立を面白がるのではなく、一歩でも二歩でもこういう方向に事態が動くよう5人を応援してもらいたい。
