共謀罪はあなたを忘れない
共謀罪は、277もの法律違反に網を掛けるものになっている。
277の刑法は、共謀罪によって様相を変化させる。今までは、犯罪が現実に行われた場合に、ケースによってはその犯罪が成立するかどうかが、裁判でも争われてきた。しかし、共謀罪の対象になった277の法律違反は、行為が実行に移される前の段階、つまり計画を実行するための準備行為が行われたかどうかによって、判断されることになる。こうなってくると、冗談で言ったことが、警察によって本気にされ、かつ準備行為を行ったと断定されれば罪に問われることになる。つまり、具体的に罪を犯していない段階、もし具体的に実行に移されても罪に問えないようなものであっても、共謀し計画を実行しようとした段階で罪に問われることになる。
人々は、口が裂けても冗談が言えなくなる。
「いてもたろか」
「おうおう、いてもたれ」
とか、
「しばいたろか」
と言った人間をみんなではやし立てるというシーンがあり、後日さらにその人が包丁を物色していたら(もちろん家庭用の包丁の購入だったとしても)、共謀して殺人を計画したという事件をでっち上げることができる。このようなケースの場合は、まさにフレーム・アップ、でっち上げに等しい。
共謀罪の対象に何が入っているのか、リストを探し当てたので、アップしておこう。277もあるので実に長ったらしい表になっている。
ここに載せたら、ものすごくへんてこなレイアウトになるが、致し方ない。
多くの国民は277もの法律違反事項が共謀罪の対象になっていることを知らない。
「私たちは犯罪を犯さないから関係ない」と思っている人も多いだろう。
人々が一番巻き込まれる可能性があるのは、目の前で発生している犯罪を見逃すことだろう。
所得税法の「偽りにより所得税を免れる行為等の罪」、「所得税の不納付の罪」、法人税法の「偽りにより法人税を免れる行為等の罪」が共謀罪の対象に入っている。
「私税金払ってないんや」「そうかい。なんか払わんでもいい方法あるんかいな」「ほっといたらいいんや。何もいうてけえへんで」
こういう会話を交わした段階で2人は、捜査の対象になる。
会話した人が、相手の法律違反を見逃したら捜査の対象に浮上する可能性がある。
自分が法律違反を犯していなくても、「壁に落書きした」という法律に違反した相手の話を何となく聞いただけで、協力したことになる可能性がある。
8年ほど前になるが、岩出市の選挙で訪問すると、年配の男性が「税金を払うのがしんどい」という悩みを話してくれたことがある。息子さんに相談すると、「親父、税金ら払うなよ。俺、払ってないで」と言ったという。共謀罪は、この親父さんも捜査対象になる。息子の不法行為を知り得たのに、それを見逃すのは、共謀したとみなされる可能性が生じてくる。
捜査対象になぜなるのか。共謀罪の場合準備行為を行ったかどうかを調べる必要がある。冗談交じりの会話の中に277の法律に触れるようなやり取りがあれば、捜査が可能になるので、警察は必然的に全ての国民の会話に神経を研ぎ澄まして聞き入ることになる。警察がある人物を要注意人物だと判断したら、共謀罪による逮捕投獄が可能になってくる。一人の人間に対し、150人を超える警察官が尾行したり、はりこんだりしてビラまきを弾圧した例があったが、277もの犯罪の対象があるので事件に引っかけて共謀罪をでっち上げることはそんなに難しくない。
2人で山に山菜を採りに入ったら、共謀罪が成立する可能性がある。ハイキングに行って花を摘んだら罪が成立してしまう。
不法滞在の外国人であることを知った人が、何日間か外国人を泊めてあげて、ご飯を食べさせてあげたら共謀罪が成立する。
「著作権等の侵害等の罪」も恐い。インターネットのYouTubeである楽曲をダウンロードしたら共謀罪が成立するケースがある。
買った譜面をコピーして、音楽教室で配布しみんなで活用したら共謀罪が成立する。
漫画本をコピーして自分のブログに貼り付け、ブログの読者がそれを共有したら共謀罪が成立する。
警察が捕まえる気になれば、SNSのtwitterやFacebook、インスタグラムを見るだけで、いろいろな著作権法違反を発見できる。閲覧して「いいね」したら危ない。
ここまで来ると「私は罪を犯さないから大丈夫、関係ない」
ということには、どうしてもならない。
今年の4月、ある大学の総長が、ボブディランの歌「風に吹かれて」の歌詞を引用して入学式の祝辞を述べた。大学が、この総長の全文を大学のホームページに掲載すると、JASRACからHP上の式辞が著作権法に触れるという指摘があった。JASRACは指摘しただけであり、使用料の請求や支払うための手続きの案内はしなかった。これがネット上で多くの人の目にとまり、反応がヒートアップした。J-CASTニュースがJASRACに確認したところ、電話したことは認めたものの、「請求はしていない」という答えだった。
今の法律では、ホームページに掲載した場合、著作権法違反に問われかねない事態だということで、場合によっては法律違反に問われる可能性が出てくるのだが、今回の場合はJASRACも、天下の有名大学を相手にことを荒立てるという対応にまでは至っていない。もし、JASRACが裁判所に訴え出たら民事裁判として著作権法違反かどうかが争われることになる。しかし、それは裁判によってしか決着がつかない。JASRACの申し立てが必ずしも勝利するとは限らない。
ぼくの個人的体験で言えば、「東芝弘明の日々雑感」にシリーズでいろいろな歌手の歌詞を載せて、それにまつわる物語を書いたことがある。この時は、JASRACからぼくが借りているロリポップのレンタルサーバーに連絡が来て、著作権法に違反しているので、記事を削除して違反状況を解消していただきたいということになった。違反状態が解消しない期間、レンタルサーバーは、ぼくのブログを閉じる措置を講じた。
ぼくが体験したケースをこの大学に当てはめたら、大学はホームページを閉鎖されることになる。大学が独自のサーバーを持っている場合、JASRACは、直接大学のサーバーを閉じる権限を持っていないので、裁判所に申し出て閉鎖のための仮処分申請等をする必要があるだろう。JASRACはおそらく、商業的なレンタルサーバーなどとの関係でいえば、楽曲の無断使用が頻繁に行われる可能性があるので、その場合はサイトを閉鎖できるという契約を交わし、同時にレンタルサーバーは、サーバーを利用しているユーザーに対して、使用契約の中で楽曲の無断使用を禁じているのだろう。こういう手続きをしているので、JASRACが指摘をすれば、レンタルサーバー側の判断によって、サーバーの使用停止という荒技をやってのけることができるのだと思われる。
しかし、共謀罪が成立したら、大学が総長の祝辞を大学のホームページに載せようと判断し行動に移そうとした段階で、著作権法違反を組織的に実行しようとしたということで、共謀罪による逮捕が可能になる。このことを一体誰が判断するのか。それは警察の任意捜査だろう。もちろん、逮捕する場合は、裁判所に逮捕請求をする必要があるが、逮捕請求の理由は「共謀罪」という角度からの請求になる。著作権法違反による逮捕というものではなく、「著作権法に違反する行為を共謀して実行に移そうとした」という点で、逮捕請求ができるということになる。
まだ実行に移していない段階だというのは、実際に法律違反が行われていない前の段階になる。日本の刑法は、実際の行為に対してそれがどういう罪に当たるのかを裁判で明らかにして、罪を量刑してきた。しかし、共謀罪は、実際の行為が行われる前の準備段階で逮捕されるということなので、どのような法律違反が実行されたのかを問題にしない。実行された後で逮捕されたら、実際の行為が著作権法にどう違反しているのかも含めて争われることになると思われるが、計画段階で逮捕されたら、著作権法違反について共謀し実行に移そうとしたのかどうかだけが問われることになる。
刑法の姿が大きく変わってしまう。警察の立場から言えば、計画段階で逮捕する方が純粋に共謀罪が成立するのかどうかだけを問題にできるので、事件を未然に防ぐために計画を実行に移そうとした段階で逮捕するのがいいということにさえなるのではないだろうか。
著作権法違反などの問題を共謀罪に加えたのはなぜだろうか。ネット上では著作権法違反が頻繁に行われている。見ているだけ、聞いているだけで著作権法違反に触れる可能性は極めて高い。「いいね」しただけで罪に問われる可能性のある著作権法違反を共謀罪の対象に加えているということは、ネット上の全情報を監視の対象に置きたいと考えているからではないか。つまり全国民を監視の対象にしたいという意図が共謀罪には盛り込まれているのではないだろうか。
全国民を共謀罪に引っかけて監視できるようにしたいということだろう。警察が恣意的に犯罪も犯していないのに特定の人物を監視し、尾行し、徹底的に追及すれば、やがてその人を共謀罪によって逮捕できる。逮捕するかどうかは警察の判断による。警察権力による全国民の監視。これが共謀罪の姿だろう。
国民が共謀罪のことを自覚しなくても、共謀罪は国民のことを忘れない。監視社会の網の目は、必ずあなたを補足する。情報化時代の中であなたのことを警察は必ず補足できる。警察の捜査対象になれば、シャカの手のひらの孫悟空のように逃れることはできない。