真下信一さんを知っていますか?
「真下信一さんを知っていますか」
こういう問いを発してみた。「知らない」という答えが返ってきた。いま、1985年10月(死去した後)に出版された真下さんの『いかに生きるか いかに学ぶか』という本を再読している。深いなと思いつつ、20代半ばに読んだ若い頃以上に書いている文章の意味が分かるなと思っている。
哲学者真下信一。読んでいる本の中に、主体性のない知識では、学んだことにはならないという意味のことが書いてあった。
「人間の立場をその中に含めない学習は、学習じゃない」
これは、名言だと思う。これに関連して真下さんは、「誠は天の道なり、これを誠にするのは人の道なり」という言葉を引いている。誠=真理を学ぶことは大事だが、その真理を、誠にするのは人の道、つまり真理を実行しなければ、誠にはならないということ。それは、学びを生き方に生かすということだ。
『虎に翼』の主人公である寅子は「はて?」という疑問の言葉をよく発する。ドラマでは、この疑問が契機になって、疑問を解き明かしつつ、学んだことを貫く寅子の姿が描かれる。見ている人は、そのまっすぐな生き方に共感している。最近の寅子は、貫き方に優しさと柔軟性がにじむようになった。視聴者の中には、その優しさと柔軟性に共感し、そこに寅子の成長を感じ、寄り添って理解するような感想が多い。
しかし、現実の世界で多くの人は、疑問や矛盾を感じて「おかしい」と思いつつも、寅子のように疑問を大事にして、答えを導き出し、その答えに従って生きることができない。導き出した答えを生き方に貫く人は少ない。
真下さんは、学ぶことと生きることを一体のものとして捉えて、学んだ誠を生き方として貫けと言っている。「はて?」から始まる実践。それを呼びかけている。
真下さんの書いていることを読んでいると、日本共産党の議員の仕事を思い出す。党の議員の多くは、寅子と同じように「はて?」を大切にし、そこから出発して調査をし、研究して得た結論に従って、それを貫く努力を重ねている。たとえ孤立したとしても、真理を貫く努力は尊いと思っている。この努力の先にあるものは光。希望だと思っている。
今の日本の中で、戦争と平和の問題に対して、学んで得た真理を貫く生き方が、どれだけ大事か。自分の信じた道を貫くことが、どれだけ尊い道なのか。そのことを思わないわけにはいかない。日本がアメリカの奴隷のように、戦争準備のために兵器を買い、極端な軍拡に走っていることは、少し調べただけで見えてくる。そこで得た知識に自分を関わらせ、学びを生き方に貫くことの大切さが、時代の中で問われている。学んだことを、生き方として貫こうとすると、軋轢が生じる。政治的、社会的立場とも食い違いが生じる。しかし、忖度して集団の中に埋没するような生き方を選ぶと、戦争は忍び足で、しかし同時に土足で踏み込んでくる。
大日本帝国憲法は、天皇主権の下で国民に命令を下す憲法だった。第二次世界大戦は、ファシズムを生み出した大日本帝国憲法をはじめとする体制に対する攻撃でもあったので、敗北した日本は、戦争を遂行した仕組みを変更することを余儀なくされた。連合国の要求は、ポツダム宣言にまとめられていたが、この宣言は、ファシズムに対する世界からの処方箋だった。世界史の変化が、日本に突きつけた要求には、人類の理想が込められていた。
人類の理想を体現して生まれた日本国憲法と憲法9条、恒久平和、基本的人権、国民主権などの原則は、人類史の巨大な変化の中で生み出された、一つの歴史の結晶だった。この歴史の中で生まれた結晶を大切にして日本の戦後がつられたら、国民の幸福度はもっと上がっただろう。しかし、現実はそうならなかった。
第二次世界大戦の中で日本の戦争を遂行した人々の子孫が、もう一度戦前の栄華を夢見て、今度はアメリカの手下として、戦争を準備している。このでっち上げと野望に満ちた企みを知った人は、自分の人生と学びを結びつけて、生き方の中心命題として、戦争準備にノーの答えを突きつけなければならない。
第二次世界大戦のときに、日本はアジアに唯一侵略戦争を仕掛けた国だった。国際情勢の変化の中で、日本はさも被害者であるかのような態度を取って、軍拡に血眼になっている。日本は、今度はアメリカの手先になって戦争の加害者になる。アジアは日本を被害者としては見ていない。「日本に攻めてこられたらどうする?」という問いは、日本の立場を見失ったものだ。この歴史認識の差を日本は知らなければならない。
日本国憲法を守れという声は、アジアの平和を守り、日本の現在と未来社会の平和を守ることにつながる。日本国憲法ができて78年。この時間の中で日本国憲法は、たたかう人々の中に根をはり血肉化していった。しかし、それはまだ圧倒的多数の国民のものにはなっていない。日本国憲法を守るたたかいは、もう一度憲法を誕生させるものになる。古い歴史と新しい歴史は、どこかで決着を付けなければならない。戦争準備に反対するたたかいは、新しい未来を開く。それは自由と民主主義を発展させる道になる。