ここでは売ってないんでしょ。それは分かっています

出来事

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auのお店の前には、2人の男が立っていた。
「おっ、2人か。ぼくが3人目だったらいけるかも」
車を降りて声をかけた。ワクワクした。
「待っているんですか」
この問いに意外な答えが返ってきた。
「おはようございます。Tです」
何だか変な展開だ。知り合いのMacユーザー、Tさんだった。
「もう買ったんですよ」
訳の分からない返事が返ってきた。どういうことだ。気が動転してきた。
店の中をTさんが見たので、目を動かすとauの制服を着た女性が歩いているのが見えた。
「今日は8時からの営業です」
「えー、10時からじゃないんですか」
何だか動きがぎこちなくなってきた。
慌てて入口の自動ドアのボタンを押した。指先がずれた。ドアが開かない。
それを見ていた店員が内側からドアを開けた。
店の中は明るかった。
「お話しをお伺いいたします」
「iPhoneの5sがほしいんですけれど」
「申し訳ございません。完売でございます」
「今日は8時からの営業なんですか」
「はい、そうです。インターネットでもそう告知したんですが」
知らなかった。全く知らなかった。

朝、民報のTVは、7時台に8時に開店するお店の前でiPhoneの販売レポートをやっていたらしい。
わが家は午前7時30分、BSで「あまちゃん」を見るのを日課にしている。そのあと、引き続きBSで世界の各地の街で暮らしている猫の番組をみている。忙しい朝なのに、猫の毛繕いやうたた寝やしなやかな動きを見ている。まったり感がある。
今日は8時になってからNHK総合でもう一度「あまちゃん」を見た。「あまちゃん」が終わるとNHKの「あさイチ」が始まる。なんと今日は能年玲奈ちゃんがゲストで出てきた。見たいなあと思いながら録画をして、auに向かった。
NHKはiPhoneのことをニュースにしなかった。猫が気持ちよさそうに眠っている裏では、iPhoneの販売の熱戦が火ぶたを切っていたということだ。NHK恐るべし。NHKは万能じゃない。

1時間前にお店に行ったら、高野口なら絶対に買える。
こういう確信があった。天気は最高に良かった。車から見える景色は美しかった。秋が始まりつつあった。車は順調にカーブを描いて河南の道を疾走し、赤い橋を渡った。時計を見ると自宅を出てからわずか5分ほどしか経っていない。はやる気持ちを抑えて信号を待った。信号は青になった。これは希望が絶望に変化する合図だった。

椅子に座って予約を受け付けてもらった。
「色は何色にします?」
色なんて決めてきていない。
思わずグレーと言ってしまった。世間ではゴールドが一番人気らしい。
「いつ入荷されますか」
「申し訳ございません。分かりません」

Appleは、全国の各店舗にそれぞれ少量のiPhoneを間配っている。都会では、1週間も並んだ人がいるらしい。台風のときにも並んだようなので、ちょっと「大丈夫かな?」と思ってしまう。
Appleは、どうして高野口店に30台ぐらい出荷しないんだろうか。1時間以内に完売してしまうような状況を作って販売熱を演出するのだろう。アメリカの商売は、肝っ玉の小さいんだろうか。
不満が浮んでくる。しかし、どんなに悪態をついても事態は1ミリも変わらない。
「朝、7時30分に来たら、すでに1人待っていました」
Tさんはそう言った。そうだろう。高野口のお店は24号に面している。このお店の前で寝泊まりしたら、行き倒れにしか見えないに違いない。並んだのは2人。小さい戦いだ。狙いは正しかった。狙いは正しかったのに、戦に遅刻したら、小さい相撲はあっけなく決着がついていた。

10時開店のジョーシンは、10時から販売するのでは。
ひらめいた。
橋本市のジョーシンに移動した。「情報はネットで」
失敗から人間は学ばねばならない。ネットで検索した。
橋本のジョーシンはiPhoneの取扱店ではない。岩出は取扱店だった。6万人を超える市が×で5万人と少しの市が○。解せない現実だった。
新しいカバーと保護フィルムだけ買おうと待っていると、店員が歩いてきた。
「何をお待ちですか」
「いや、もう少しで開店なので待っています」
「iPhoneかと思いまして」
「ここでは売ってないんでしょ。それは分かっています」
なんだか的確に答えられたのが悲しい。


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Posted by 東芝 弘明