「こんな出来の悪い議案はありません」
朝、議案の訂正が5本もあった。議会運営委員会の扉が開いたのは、9時30分を過ぎていた。
本会議最終日は、5本もの議案修正の説明から始まった。
川の流れのように、議案についての審議が始まり、異議なしという声が、何本か重なった後に、児童館の議案審議となった。
「こんな出来の悪い議案はありません」
ぼくは、ここから質疑を始めた。
「第三条は原則有料の規定になっている。児童館による児童の活動については料金を取ることになるのか」
「当然、児童館における子どもの活動は無料でございます」
青少年センター事務局長はこう答弁した。背筋はピンと伸びていた。確信をもった答弁だった。まだ朝の光が答弁席に差し込んでいた。
この発言を重視して、質疑を継続した。
「子どもの活動が無料だという規定は、一体どこにあるのか。この第三条を見てもどこにもそんな規定はない。あるのは、施行規則です。こっちの方は、原則無料だと言うことをうたったあとで、目的外使用について規定して、料金を取れることを書いています。こちらの施行規則の方がいい考え方になっている。条例があって施行規則がある。総務課長にお尋ねしたい。条例と施行規則の上下関係をお答えいただきたい。また、子どもの活動が無料だという青少年センター事務局長の答弁を裏付ける規定がどこにあるのか、お答えいただきたい」
「条例があって規則があります」
総務課長はそう答えたが、2つ目の質問には答えられなかった。自信がないように見える。
「休憩しょうら」
議員からこういう声が出た。
「条例案は訂正した方がいいですよ」
2日前に電話を入れた。趣旨を説明すると、「検討します」と言う返事が返ってきた。しかし、昨日確認すると指摘した問題は、全く直っていなかった。これが当局側の答えだった。
以前から存在している施行規則は、児童館は原則無料であることを規定した上で、目的外使用については料金を取れる考え方で成り立っていた。しかし、条例の方に料金の規定がないので、実際には具体的に料金を聴取する事はできなかった。
今回、町当局は、笠田東町民会館を児童館にするという議案を出すときに、児童館の貸し出しをおこなうことにして、料金規定を盛り込んだ議案を議会に提出した。その際、子どものための児童館の使用は原則無料という基本をひっくり返して、原則有料、全館貸し館という条例を出してきた。その結果、子どもの児童館使用にも料金を徴収するとしか読めない条例を作ってしまった。
10時台に止まった審議が再開されたのは、午後1時過ぎだった。
結局、議案は、質疑に入っていたにもかかわらず、町当局の側から修正が行われて、笠田東児童館の設置を加えただけの議案になり、料金規定以下の部分は、全文削除して12月議会に出直すことになった。
当局の側が議案を訂正しないと、審議が止まって対応が求められることは、鮮明に見えていた。
「当然、児童館における子どもの活動は無料でございます」
この答弁がおこなわれた瞬間に、審議の方向はすべて決まった。矛盾は克服しがたいものになった。
かつらぎ町議会は、ぼくの知っている歴史の範囲で言えば、議案を否決したのは1度だけしかない。取り下げた例はいくつか存在する。しかし、議会は、かなり「ごむりごもっとも」というような形で、当局をサポートしてきた。
議会は町当局にとって優しい存在だった。客観的に言えば。
他の議会の話を聞いていると、もっとシビアに是々非々を貫いているところが増えている。町も議会も住民に責任を負っている。曖昧な仕事はできない。
議会の審議が止まると、さまざまな角度から問題が検討されて、解決策が見出される。解決する方法はいくつか存在するが、今回は、時間をかけて料金設定を再検討するということになった。これが対策としてはベストな選択だったと思う。
議会が終了したのは午後8時前だった。
そのあと、全員協議会が開かれた。全ての会議が終わったのは9時10分を回っていた。役場の外に出ると涼しい秋の夜だった。