1月1日。憲法を守るために

雑感

明けましておめでとうございます。
今年の前半の最大の課題は、日本国憲法を改正するかどうかです。
自民党は、日本国憲法改正案を取りまとめようとしています。立憲民主党と日本共産党、社民党、自由党の4党は、安倍政権の下での憲法改正に反対しています。

国民の側には、「安倍9条改憲NO!!全国市民アクション」が結成され、3000万署名を集めています。伊都・橋本地域でも「伊都・橋本市民アクション」を結成し、署名を集めようとしています。この署名は、
(1)憲法9条を変えないで下さいということ
(2)憲法の平和・人権・民主主義が生かされる政治を実現してください。
という2つの請願事項を内容とした国会請願署名です。

同じく国民の側には、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」による「憲法改正を実現する1000万人ネットワーク」賛同署名に取り組む動きがあります。この会は、日本会議の主張を具体化する内容を持っていて、1000万人の賛同署名は、憲法改正の国民投票で3000万人の支持を集めるために1000万人のネットワークをつくろうというものです。具体的な要求は、
(1)「前文」…美しい日本の文化伝統を明記すること
(2)「元首」…国の代表は誰かを明記すること
(3)「9条」…平和条項とともに自衛隊の規定を明記すること
(4)「環境」…世界的規模の環境問題に対応する規定を明記すること
(5)「家族」…国家・社会の基礎となる家族保護の規定を
(6)「緊急事態」…大規模災害などに対応できる緊急事態対処の規定を
(7)「96条」…憲法改正へ国民参加のための条件緩和を
の7点です。

日本の憲法には、明治維新という大変革によって日本が封建時代から資本主義に移行する中で生まれた大日本帝国憲法(明治憲法)と第2次世界大戦の終結にいたる中で生まれた日本国憲法という二つの憲法がありました。近大日本を形成しようとする過程の中で生まれた明治憲法は、封建制を色濃く残した憲法でした。したがって国民主権を掲げることができませんでした。
この憲法は、第1章天皇から始まります。少し紹介しましょう(原文のひらがな部分はカタカナ)。
第1章 天皇
第1条 大日本帝国は万世一系の天皇之を統治す
第2条 皇位は皇室典範の定むる所に依り皇男子孫之を継承す
第3条 天皇は神聖にして侵すへからす
第4条 天皇は国の元首にして統治権を総攬し此の憲法の条規に依り之を行ふ

国民主権がない国というのは、国民の自由を保障しません。国民の自由は、法律の制限を受けるものになりました。
第2章 臣民権利義務
第18条 日本臣民たる要件は法律の定むる所に依る
第19条 日本臣民は法律命令の定むる所の資格に応し均く文武官に任せられ及其の他の公務に就くことを得
第20条 日本臣民は法律の定むる所に従ひ兵役の義務を有す
第21条 日本臣民は法律の定むる所に従ひ納税の義務を有す
第22条 日本臣民は法律の範囲内に於て居住及移転の自由を有す
第23条 日本臣民は法律に依るに非すして逮捕監禁審問処罰を受くることなし
第24条 日本臣民は法律に定めたる裁判官の裁判を受くるの権を奪はるヽことなし
第25条 日本臣民は法律に定めたる場合を除く外其の許諾なくして住所に侵入せられ及捜索せらるヽことなし
第26条 日本臣民は法律に定めたる場合を除く外信書の秘密を侵さるヽことなし
第27条 日本臣民は其の所有権を侵さるヽことなし
 2 公益の為必要なる処分は法律の定むる所に依る
第28条 日本臣民は安寧秩序を妨けす及臣民たるの義務に背かさる限に於て信教の自由を有す
第29条 日本臣民は法律の範囲内に於て言論著作印行集会及結社の自由を有す
第30条 日本臣民は相当の敬礼を守り別に定むる所の規程に従ひ請願を為すことを得
第31条 本章に掲けたる条規は戦時又は国家事変の場合に於て天皇大権の施行を妨くることなし
第32条 本章に掲けたる条規は陸海軍の法令又は紀律に牴触せさるものに限り軍人に準行す

明治憲法の規定は、しかし、憲法に根拠をもたない社会体制によっても動かされていました。
天皇に主権があり、国民に主権がない日本は、アジア・太平洋に侵略戦争を展開し、日本人310万人、アジア諸国民1200万人の命を奪いました。第2次世界大戦は5000万人の命を奪う人類史上例を見ない大規模な戦争となりました。日独伊三国軍事同盟を結んで、侵略戦争を展開した日本は、一番最後にポツダム宣言を受け入れて降伏しました。
戦後の原点は、ポツダム宣言にあります。この宣言は、日本の民主主義の復活を求め、軍国主義勢力の除去を求めました。
この結果、誕生したのが日本国憲法です。

日本の2つの憲法は、大きな歴史的転換点で誕生したものです。ぼくは、歴史の大転換によって生まれた憲法というものの値打ちを考えるべきだと思っています。
日本国憲法の章立ては、大日本帝国憲法そのものです。現代のこの憲法は、大日本帝国議会に大日本帝国憲法の一部改正として上程されたものです。天皇主権であった憲法を国民主権のもとでの憲法に生まれ変えさせ、国民主権と基本的人権、恒久平和を不可分一体のものとして体系立てたのが日本国憲法になりました。基本的人権は、国民が生まれながらにしてもっている権利として宣言され、権利と権利の調整のために、「公共の福祉に反しない限り」という文言を置きました。基本的人権の中で最も重要な規定は、憲法13条の個人の尊厳に関わる幸福追求権です。
この憲法は、国民主権のもとで国家権力を縛るものとして成立しました。これは現在日本における立憲主義の確立となりました。

この憲法の何を改正しようとしているのかを、見定める必要があります。
国民主権と基本的人権、恒久平和という憲法の中心的な命題が改正されるのか、されないのか。ここに憲法改正の焦点があります。
国民主権を持った憲法の下で、国家権力としての交戦権を認めず、軍隊を持たないことを決めた憲法は、もう2度と戦争をしない国として再出発しました。このことによって、日清、日露、満州事変、志那事変をへて第2次世界大戦に繋がった戦争に明け暮れた日本の歴史を大きく転換することになりました。国民主権のもとで国に交戦権を否定したら、そういう国は、戦争を国家の力によって引きおこすことはできなくなります。日本の恒久平和という原則にも立憲主義が貫かれています。
国民主権を具体的に実現する保障は、基本的人権にもあります。国民主権と基本的人権と恒久平和は、第2次世界大戦に対する深い反省によって生み出されたものであり、この3つの原則には、全世界の人類の理想が込められています。日本にとっては、アジア・太平洋に対する公約にもなりました。
明治憲法下の歴史よりも日本国憲法下の歴史の方が、歴史的時間が長くなっています。日本国民は、戦後国家権力の手を縛ったこの憲法によって、一人ひとりの存在を守られ、保障されてきました。人権侵害が発生したとき、多くの国民はこの憲法を拠り所にして、会社や国とたたかい、裁判を起こし、その中で法制度を改善させてきました。
日本国憲法は、最高法規として、国民の権利を守る最大の拠り所となってきました。

この憲法を本当に変える必要があるのかどうか。このことが重大な問題として私たちの前に突きつけられています。「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の署名は、国民主権の制限に繋がる元首規定と緊急事態条項による基本的人権の制限規定を盛り込もうとしています。憲法9条に自衛隊の存在を明記することによって、自衛隊が海外でアメリカの戦争に参加できるようにしようとしています。戦争をできる国にするためには、どうしても国民主権と基本的人権に制限をかける必要があります。結局、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の憲法改正は、日本の歴史を戦前に戻そうとする動きになっています。

民主国家が誕生し、国民主権が生まれた国でも、昔の時代を大事だと考え、歴史を下の時代に戻そうとする動きは、新しい社会の中にも残ります。今起こっている憲法改正の動きは、いわば王政復古の動きに近いものがあります。歴史の後戻りを認めるのか、それとも21世紀を日本国憲法の規定が実現する国につくりかえるのかどうか。ここに焦点があると思います。
ぼくは、憲法9条に歴史的な意味と価値を見いだしていますが、日本国憲法が実現した国民主権と基本的人権、恒久平和という有機的に結合した憲法のこの体系は次の世代に受け継ぐべきだと考えています。この中に位置している憲法9条を守ることの意味は極めて大きいと思っています。

戦後の日本は、憲法改正を党の中心的な方針としてきた自民党が政権を担うことによって、日本国憲法を隅々まで生かすという国づくりをサボタージュしてきました。同時にアメリカの占領と、サンフランシスコ平和条約と同時に実現した日米安保体制によって、日本国憲法には重大な制限が加えられてきました。日米安保条約と地位協定は、日本の中に国民主権や地方自治権を事実の問題として制限しています。また、日米安保条約は、多くの密約も含め日本の国家主権にまで大きな制限をかけています。
日本国憲法は、古くなったのではなく、新しい日本国憲法が生かされてこなかった歴史があり、日本国憲法を生かすことが21世紀にとって極めて意味のある国づくりになると考えます。

今年は、日本の現在と未来のかかった年になります。日本国憲法が実現しようとしている内容には、極めて深い意味と魅力があります。憲法を学ぶことは、暮らしや社会を見つめ直す力を持っています。日本国憲法を守るために、日本国憲法に依拠することが大切です。
そういう気持ちをもって、憲法改正の動きと向かい合いたいと思っています。


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雑感

Posted by 東芝 弘明