予算委員会についての考察
新議長による予算委員会の提案
松岡議長の2つ目の公約は予算委員会の設置。これには異論がない。ただし、予算委員会をどうつくるのかという点では、確認したいことがある。松岡議員は、今まで予算委員会を作り、町当局と一緒になって議員が予算をつくることを主張してきた。これは、議会の権能を超えるものだった。今回の公約では、この点は鮮明ではなかったが、今までの主張を踏まえると、こういう方向が打ち出される可能性がある。
議会が行政と一緒に予算をつくるというのは、議会の役割ではない。行政と一緒になって予算をつくりたいというのであれば、議員ではなく自らが首長になるか、職員になるしかない。
地方自治体が、国会のように議院内閣制であれば、与党として予算策定に関与していくことができる。実際に日本の国会では、自民党と公明党は、政府の予算策定に関与している。
アメリカはどうだろう。アメリカ大統領には予算提出権がなく、予算の提出権は議員にある。日本もアメリカと同じ仕組みであれば、議員が予算を作成することになる。しかし、日本の地方自治体は、予算の作成権を首長に与え、議員と議会にはその権限を与えていない。これは、踏み破ることのできない大原則である。したがって、議員と行政が一緒になって予算を作成するという論理そのものが間違っている。こういう間違いを平然と主張することは許されない。こういうことを主張して、議会が混乱させることはやめていただきたい。
議会改革の方向は明確
議会は、二元代表制の原則の下で、行政の仕事を議案を中心にチェックし、最終的な意思決定機関(もちろん全ての意思決定を行っているのではなく、制限がかかっている)としての役割を果たしている。同時に予算や議案の修正案(制限はある)、条例の提出権が議員に与えられている(本会議では、12分の1の議員数が必要。委員会では1人の議員に提出権が与えられている)。この範囲で議員は活動を行う必要がある。
議会が、住民の代表機関として役割を果たすためには、審議能力を高め、予算を修正する方向に進まなければならない。行政が一生懸命考えて予算を議会に提出したら、住民の代表である議員は、予算を徹底的に理解し内容を吟味しつつ、さらによりよい予算になるよう修正するというところに議員の果たすべき役割がある。議会の仕組みとして、こういう任務が議会にはあるということだ。
全国の議会改革の中で、同時に議会が力を入れ始めているのは、議員による調査研究と住民との懇談を踏まえて、政策をつくり提言したり、予算要望などを提出する点にある。これは、議員の自発的な活動であり、提言などのには行政をしばる力はない。しかし、自治体の発展のために、住民の代表である議員が、このような努力をおこなうことは、議会力を高めることにつながるし、ケースによっては、条例案の議会への提出にもつながる。
議員による条例案の提出は、議員に与えられた特別の権限ではない。日本の地方自治体では、首長と議員に議案の提出権がある。権限上ここに差異はない。提出権で首長と差異があるのは、予算や人事案件、契約案件などである。日本の地方議会の権限は、制限列挙という形を取っている。議会にはいくつかの制限がかかっており、チェック機能にも制限があるということになる。
この制限を補う役割を果たしているのが予算案ということになる。予算には、全ての事務が掲載されており、議会はこの予算を通じて行政全般の仕事を把握することができるようになっている。したがって、予算案と決算案は特別の意味をもっている。
かつらぎ町議会における予算委員会とは?
かつらぎ町議会で、予算委員会をつくるということになると、現状では特別委員会がいいのではないかと、個人的には思っている。常任委員会をつくると、所管事務調査ができるようになるが、予算委員会が所管事務調査を行うようになると、予算が策定されていない段階から議員が意見を述べるようにもできるし、各常任委員会の所管とすべてダブってしまうことにもなる。
予算・決算常任委員会を作っている他の自治体の議会を調べると、予算・決算の審議は、議案が本会議に上程され、委員会に議案が付託されてから審議を行っている。所管事務調査などは行っていない。こういう風にしないと話がおかしくなる。
特別委員会を作る場合は、本会議に予算案が上程されたら特別委員会をつくり、その委員会に予算案を付託することになる。特別委員会であれば、毎年、委員長と副委員長を選出して、予算案の審査ということになる。
本会議と委員会の運営には違いがある。委員会に予算案を付託すると、委員は、自己の見解を述べながら質疑を行えるし、質疑に対する回数の制限もなくなし、議員1人でも予算の修正案や組み替え案を提出できる。
通常、特別委員会は、議員の過半数を下回る委員で構成するということが考えられるが、よく議論をして全員による予算委員会を構成することも考えられる。かつらぎ町議会の現行の会議室では、全議員を委員にして予算委員会を行える部屋は、多くの説明員が出席できる会場は、本会議場しかないと思われる。本会議場で委員会を開催している議会は存在する。
議長の席に委員長が座り、横に事務局長が座って、本会議場で予算委員会を開けばいい。そのための条件整備を行えば、予算委員会の映像配信もあまり苦労なく実現できる。議会事務局の体制が3人しかいない中では、分科会をつくって同時並行で予算委員会を複数開くことは現実的ではない。わずか12人の議員のうち、議長は予算委員会には入らないので、11人で予算委員会を開くことになる。わずか11人の議員であれば、分科会を作らないで、予算全体に対して、数日間、予算委員会を本会議場を使って開くことが一番現実的だと考える。
質疑の質を向上させるためには、質疑の通告制を採用することも考えられる。これを行えば、ヒアリングとのリンクができるかも知れない。一般質問の発言席を活用して、通告した議員が質疑を一問一答で行い、通告していない議員が、通告した議員のあと自席で質疑を行うという形になる。
予算委員会に対して、映像配信をしないと予算の審議が住民から隠れてしまうことになる。委員会に議案を付託するのであれば、委員会における議事録の作成と映像配信が課題になる。
かつらぎ町議会が、予算委員会をつくることになれば、新しい取り組みが始まることは間違いない。予算委員会を作りたいという松岡議長の公約は、議論をきちんと組織すれば、よりよい方向に議会を発展させる契機になると思われる。
アメリカ合衆国大統領の予算案提案について補足しておきます。
ブログ記事の通りアメリカでは議会が予算案を作成・提案します。これは下の引用記事にあるとおり、アメリカ合衆国憲法に大統領の予算案作成・提案についての規定がないからです。ただ、議会に議席を持たない行政府の長である大統領が予算について議会に対して提案を行なっていないわけではありません。大統領は「予算教書」を発表し、議会に対し次年度の予算編成方針を提案します。「予算教書」は下の引用記事にあるように、議会が予算を策定するための参考情報との位置づけです。「予算教書」は、アメリカ合衆国憲法の「大統領は議会に情報を与え、必要と思う政策について議会に審議を勧告できる」とのアメリカ合衆国憲法の規定によるものです。
なお大統領は議会の予算案に対し拒否権を行使することができ、議会は上下両院3分の2以上の再可決がないと拒否権を覆すことはできません。
以下、財務省HPより引用。
1.憲法上の大統領予算案位置づけと議会の予算権
米国会計年度は、10月から翌年9月末までのため提出時期(通常2月第1月曜日)は異なりますが、我が国と同様、米国予算も、行政府の長である大統領の予算案が議会に提出されることにより予算審議が始まります。我が国においては、憲法上内閣が予算を作成して国会に提出することとされています。米国予算も、大統領予算案の議会提出により審議が始まるため、米国も我が国と同様、大統領が予算編成権を持っているように思えます。しかしながら、米国憲法には予算作成に関する大統領の権限規定はなく、大統領予算案は、議会が予算編成をする際の参考情報との位置づけです。従って、議会は、大統領予算案に従う必要はなく、担当省庁からのヒアリングを行い、自らの議会予算案を作成します。こうして作成された議会予算案を可決し、大統領の署名を得ることにより、予算が成立することになります。
米国連邦予算制度について ―大統領と議会の権限とその対立関係― : 財務省 (mof.go.jp)
そう、伊丹議員が書いているとおり大統領の作成する「予算教書」は、議会の側から見るとそれはあくまでも参考資料です。アメリカによる議会制度の力点は「大統領予算案は、議会が予算編成をする際の参考情報との位置づけです。従って、議会は、大統領予算案に従う必要はなく、担当省庁からのヒアリングを行い、自らの議会予算案を作成します」というところにあります。
戦後アメリカは、日本の地方自治体の制度設計を行うときに、アメリカと同じように議会に予算編成権を与えようとしました。しかし、日本はそれを拒否したということです。おそらく理由は、議員による予算案の提出を実現するためには、予算を編成するスタッフが議会事務局に必要になり、かなりの人数を要する仕組みが必要になるからです。
その結果、大統領制なのに、議院内閣制のような権限を合わせ持った強大な権力をもつ地方自治体の首長が誕生しました。
この権力の大きさがあるがゆえに、首長が暴走したら、なかなかその暴走を議会が止められないという問題が生じます。
しかし、こういう形ですが、議会と議員が条例案を提案するという点で、首長と議員に権限の違いはありません。ただし首長と議会には権能の違いがあり、町にしか出せない事件議決の案件や議員にしか出せない議会関係の条例や規則、議会に固有に存在する団体意思にかかわる決議や意見書があります。議会の権限が制限列挙的であることに関わって、首長の権限の方が大きいということです。
議員は予算を議案として議会に提出できません。これは地方自治法112条に規定があります。予算の提出権は首長の専権事項です。これとの関わりで予算のともなう条例案を出すためには工夫が必要です。施行期日を後ろにずらせば、予算を当局が作成することになります。こういう形を取れば、予算の必要な条例案も提出できると考えますし、かつらぎ町議会は、この方法を実際にとって、18歳までの医療費の無料化を、条例改正という形で実現しました。
議員は、予算案を議会には出せませんが、予算を修正することはできます。首長による予算の提案権をおかしてはならないという制限があり、それが具体的に何を意味しているのかは、なかなか分かりにくい点はありますが、それは、個別具体的に判断されるということです。予算規模が数百万円程度で、自治体の財政がそれを許せる状態であれば、議員は予算を増額補正することもできます。この考え方でいえば、減額補正はかなりできることになります。
議員による予算の修正は、極めて大きな権限であり、この権限を活用すれば、首長よりも大きな力を発揮することができます。議会を通じて、議員がこういう領域に活動を広げていけば、二元代表制の一翼である議会の果たす役割が鮮明になります。
ちなみに議長には、議案の提出権はありません。この議長に対する権限のなさは、議会改革の中で活用されなければならないと考えます。議案という点でいえば、提出できるのは議員と委員会です。議長が具体的な案件に対して提案しても、具体化は議員と委員会にゆだねる必要があるということです。
全国で行われている議会改革が、議案の修正、条例案の提出に力点をおくのは、ここに理由があります。議会が二元代表制の一翼を担って、そういう役割を果たすためには、議会による自由討議、政策協議が必要になります。そのためには住民との懇談会を盛んに開いて、住民の意見を聞き、それを政策化する努力が必要になります。