後味が悪い
議会質疑を終えて後味が悪かった。議員全員協議会のやり取りも、かなり後味が悪かった。原因は自分にあった。厳しい質疑をしなければという気持ちで質疑に臨んだのが、後味の悪さの原因だった。
「最近東芝さんの質疑は優しくなって、昔と違うのが残念」と言ってくださる住民の人がいたので、この人の言葉がずっと頭の中に残っていた。自分の中に甘さが生まれているのだろうなと思って質疑に臨んだ。
結局、厳しい質疑というものが、仕事をしている人の資質を問うようなものにいくつかなった。これは、議論をしても論理を批判するに留めて、人間性は批判しないという誓いを立てているのに、誤ってこの領域に入ってしまったということだ。これが後味の悪さだった。
34年間議員をやってきて、自分の質疑のスタイルというものは、自ずから変化してきたと思う。この変化は、しかし、真剣に議案と向き合ってきて、起こってきた変化なのだから、それを肯定的に受け入れていいと言うことだ。昔の厳しさを取り戻すというアプローチは、間違っている。
終わってから町長から電話をいただいた。率直に意見をしていただいたことは嬉しかった。質疑の仕方が昔と違うのは、それでいいということだ。自分の中の変化を肯定的に受け入れたい。
ただ、議員の議案に対する態度の問題、議決の責任の重さを同時に痛感した。議員の仕事の一つは、行政のチェックにある。この仕事は極めて奥が深い。議員は報酬を受け取って仕事をしているが、この仕事の半分以上は、提出される議案のチェックにある。この仕事をまともにしない議員は、議員として発展しない。
首長と副首長(市町村の副市長、副町長、副村長のこと)と議員は、どんなに巨大な自治体であっても、行政の全体を把握しようとする数少ない存在だ。全体的な視点をもつ位置にいる議員は、行政の具体的な仕事は一切していない。そういう立場にいる議員が深く自治体の仕事を理解するためには、仕事の内容に分け入る努力が求められる。
たった一人で、膨大な自治体の仕事を深く理解できることはない。これは努力をする出発点として確認できるだろう。このいくら努力しても把握しきれないことに挑戦することが、議員に求められている。住民の代表とは何かが問われている。
把握しきれない行政の仕事を深く把握する努力を行って、議案として提出されるものに対して、本質をよく把握して賛成、反対の態度を示す。ここに議員の最大の仕事がある。
今日の全員協議会では、夢洲機構とのコラボで、VIPによるインバウンドねらいの観光事業についての「最終報告」が行われた。これは、昨年の8月3日、補正予算の議案の中に事業として計上されたものだった。ヒアリングの段階で、この事業のずさんさはかなり鮮明になった。こんな計画を計上すること自体が間違い、これがぼくの認識だった。
ヒアリングで問題点や疑問点を指摘すると、主要施策に書いていることから説明がずれていく。説明がどんどんずれていくということは、内容が精査されておらず、議会に議案として出すところまで、事業が固まっていないということだ。
こういう傾向を持った事業は他にもあった。大きな事業であるアクアイグニスの企業誘致という事業も、口約束で2億数千万円の用地買収の予算を計上するところから始まった。口約束で大きな事業が動き出すのは明らかにおかしい。このときのヒアリングでも、こんな不十分な議案を出してこないでほしいとぼくは言った。
こういうことは、きちんと議案に対する調査を行えば見える問題だ。議案に潜む本質的な問題を明らかにして、賛成、反対の態度を取る必要がある。議決に対する責任が議員にはある。これを怠ると議会は追認機関になってしまう。
昨年の8月3日の本会議おける補正予算。ページを区切って質疑を行うが、内容が少なかったので、歳入と歳出に分けての質疑が行われた。議員の質疑回数はわずか3回。町長の答弁は、ぼくの質疑が終わってから、助け船のような質疑を行う議員によって展開された。他の議員はこの町長の答弁を聞いて賛成した。
しかし、町長の答弁は、主要施策に書いていない内容のものだった。ぼくは議員と町長の質疑応答を聞きながら、主要施策という町が責任をもって提出した資料とは全く違う答弁を積極的に展開する町長を見ながら、こんな答弁はない、町長が、そのような答弁をしたいのであれば、きちんと資料に書いておくべきだろうと思った。
真実は細部に表れる。公式な町の資料と合致しないような答弁が出てきたら、議員はそのおかしさを見抜く責任がある。しかし、誰もそうはならなかった。議案に反対したのは2人。ぼくは反対討論を行った。
この質疑から3か月足らずで事業は失敗し、町は102万円の損害を発生させた。結局コラボする相手の一つだった夢洲機構は、かつらぎ町との契約を拒んだまま、無責任な対応を行った。破綻した事業の企画内容は、VIPと呼ばれるようなインフルエンサー8人を、ヘリコプターをチャーターしてかつらぎ町天野にお招きして、おもてなしを行い、最終的には高野山観光を行ってチャーターした天空で難波に帰るというものだった。VIPは夢洲機構が領事館に働きかけ確保することになっていた。契約を結ぶことを拒んだまま夢洲機構は領事館に働きかけたが、この働きかけは失敗に終わり、企画そのものが崩壊した。
ぼくは最終報告に対し、「最終報告にすべきではない、もっと詳細な資料を出して教訓を明らかにすべき、その中で個人の責任もはっきりさせるべきだ」と発言した。この発言の中で「個人の責任もはっきりさせるべき」というのは踏み込みすぎだった。厳しい質疑を意識しすぎて、誤りを犯したと思う。
かつらぎ町議会は、議員間の協議で、この最終報告でいいという意見が多数を占めた。仕切り直して報告し直すべきだというぼくの意見は少数だった。議員も結果に対して説明責任がある。今日のこの状態で説明責任を果たせるのかも問われている。
議案の段階での賛成、反対の態度がやはり物事を決めてしまう。最初の賛成が最終報告に対するチェックにも反映する。議案に対する態度で言えば、本来は保守も革新もない。是々非々で臨む必要がある。ここに課題があると思わざるを得ない。