母が残した3冊のノート
ぼくの母は、ぼくが17歳の時にガンで他界した。
Blogを書き始めたときに、母の葬儀にいたる顛末を書いたことがある。
母の命日に
26歳の12月、こんな詩を書いている。
かあさん
かあさんの残した三冊の
日記と短歌と俳句の
ノート
かあさんは
ガンに蝕まれ
砕けていく骨の痛みに耐え
この三冊のノートに
二〇歳の頃の戦争と
ぼくたち子供らのことを
書いたのですね
酒で死んだとうさんに
「子を私に託した君よ
なぜ我が身を守らぬか」
と訴え
二〇歳になったにいちゃんに
「この子にあとをまかせられる」
と安心した
かあさん
ぼくが中学二年の年に
発病し
四年間
ベッドの上で闘い続けたのですね
四年ももったのが不思議だ
といったドクターの言葉が
ぼくの耳に残っています
かあさん
二〇歳の年
すでに
小学校の教壇に立ち
疎開してきた子供たちを教え
とうさんが亡くなってからは
小さな山奥の小学校に勤め
ぼくたち三人の子を育てた人
時代小説が好きで
短歌と俳句を詠み
八月が来るたびに
戦争を思い出し
保守的な村で
古くから労働組合の活動をし
早くから共産党を支持した
かあさん
ぼくと妹に
カチカチ山やぶんぶく茶釜や舌切りすずめの話を
本をチラリとも見ないで
なめらかに話してくれた
かあさん
疎開してきた東京の女の子の話や
空襲のことなどを
物語のように話してくれた
かあさん
くせのある髪をあまりとかず
化粧などせず
働いた
かあさん
ぼくは
今でもかあさんのノートを
読みかえします
ガンはかあさんから
話す力をうばっていきました
かあさんのノートは
語れなかった思いを記しています
美しかった字が
しだいに崩れ
崩れたぎこちない字で
ノートは書き続けられています