非常事態条項の危険性

映画

エピソード3

スターウォーズのエピソード6と7、さらに1、2、3を連続して見た。38年間で7作という作品をまとめて見ると、長いスパンを空けて見たときよりも話の流れがよく分かった。一番印象に残ったのは、「エピソード3 シスの復讐 」(2005年)だった。
なぜ、現在の人類よりもはるかに文明の発展していた銀河共和国(連邦国家にみえる)が、銀河帝国になってしまったのか、というところに興味と関心が集中した。

「エピソード2」では、共和国議会においてジャー・ジャー・ビンクス議員(パドメの代理)が、銀河共和国のパルパティーン(実はダース・シディアス)議長に対し、非常時大権を与える提案を行い、満場一致で提案が可決される。この議決によって、パルパティーン議長は、通商連合を中心とした独立星系連合との戦争が避けられない情勢だとして軍の創設を宣言する。やむを得ない苦汁の選択としての非常時大権のように見えた。
しかし、議会を傍聴していたパドメは、「民主主義は満場一致の中で今死にました」と言う。自由と民主主義にとって何が大切なのかを深く知る人物だ。ナブーの女王であった彼女は、女王の任期終了後、新任の女王の要請によって元老院議員になっていたが、暗殺を回避するために代理を立てていた。彼女の代理のジャー・ジャー・ビンクスが、独裁国家への道をひらく上で役割を果たしたのは皮肉なことだった。

パルパティーンは、実は影でシスとして独立星系連合を操り、クローン戦争を引きおこしていた。結局、戦争やむなしという情勢を自分の策略によってつくりだし、非常時大権を発動させ、権力を集中して軍を創設するという野望を果たしたということだ。

パルパティーンは、非常時大権のもとで軍隊を手中に納める。やがて共和国と独立星系連合との間のクローン戦争は、大量に製造されたクローン兵の活躍によって共和国側が優勢になる。勝利を確信したパルパティーンは、命令を従順に実行するクローン兵を指揮してクーデターを起こす。クーデターの最大の目的は、戦いの先頭に立っていたジェダイの全員抹殺だった。ほとんどのジェダイが殺された後、パルパティーンは、独立星系連合の残党の全ての抹殺をアナキン・スカイウォーカー(ダース・ベイダー)に命じ、完全に目的を達成させて戦争を終結させる。
戦争を勝利に導いたパルパティーンは、共和国議会を開き、共和国を廃止して銀河帝国を宣言し、銀河帝国を成立させる。共和国は、秘密裏のクーデターによって帝国となり、恐怖の軍事独裁国家となっていく。

非常時大権。これは、安倍総理が現在憲法改正をまず実現したいということで、創設しようとしている「緊急事態条項」と密接に関連するものに他ならない。
スターウォーズという架空の物語では、戦争やむなしという緊急事態のもとで、非常時大権が発動されたが、自民党の憲法改正草案第99条では、「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態」において、内閣総理大臣が「緊急事態の宣言」を発することができると規定している。しかも「緊急事態の宣言」が行われると、「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」と規定し、さらに「何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない」と規定している。
緊急事態は最大で100日間で延長も可能となっている。この非常事態宣言が発せられると衆議院は解散されず議員の任期は延長される。

スターウォーズでも非常時大権は延長され、最後は帝国の樹立という最悪の独裁体制を許すことになった。この話は、ジョージ・ルーカスによる創作にはとどまらない。
ヒットラーは、ワイマール憲法に規定されていた大統領の緊急命令権(第48条 ドイツ国内において、公共の安全および秩序に著しい障害が生じ、またはそのおそれがあるときは、ライヒ(ドイツのこと)大統領は、公共の安全および秩序を回復させるために必要な措置をとることができ、必要な場合には、武装兵力を用いて介入することができる。この目的のために、ライヒ大統領は一時的に第114条(人身の自由)、第115条(住居の不可侵)、第117条(信書・郵便・電信電話の秘密)、第118条(意見表明の自由)、第123条(集会の権利)、第124条(結社の権利)、および第153条(所有権の保障)に定められている基本権の全部または一部を停止することができる)を国会放火事件を理由に発動し、国民の基本的人権を停止し、法的手続きを経ないで共産党員を逮捕できるようにして総選挙を実施した。選挙の時に共産党議員や社会民主党議員の一部議員が逮捕されていたので、ナチス党は、国会で3分の2以上の議席を占めた。多数を力に全権委任法を成立させたヒットラー首相の政府は、ワイマール憲法に拘束されない無制限の立法権を掌握した。
国会放火事件は、ナチ党がおこなったものだったが、大統領の緊急命令を発するために共産党の放火だと事件をでっち上げたものだった。スターウォーズの場合は、全権を掌握するためにパルパティーンがニセの戦争を仕掛けたが、実際の歴史の中には、数多くの謀略やでっち上げが存在する。

ワイマール憲法における大統領の緊急命令権は、基本的人権のいくつかを列挙して停止できることを規定しているが、自民党憲法改正草案は、緊急政令を発することができるという規定になっている。これではフリーハンドを内閣総理大臣に与えることになってしまう。基本的人権の尊重は99条にも「最大限に尊重されなければならない」と書かれているが、これは抽象的な表現なので、いかようにも解釈できてしまう。
自民党は、「内乱等による社会秩序の混乱」などを上げているので、フランスのようにテロ事件が発生すれば、「緊急事態の宣言」がなされる可能性がある。

立憲主義の破壊は、個人の尊厳の破壊、つまり基本的人権の破壊に直結する。安倍政権が積みかさねている国家による暴走は、真っ直ぐに基本的人権の破壊に向かっている。戦争法の強行は、憲法9条を解釈によって破壊するものだった。憲法無視のこの蛮行は、他の憲法の規定さえをも無視できるという事態を引きおこしつつある。
安倍総理の「挑戦」は、まさに現代的な憲法規定に対する挑戦、立憲主義への挑戦に他ならない。半年後の参議院選挙では、憲法改正を争点にすると勇ましい。緊急事態宣言から憲法改正に手を付けたいようだ。
私たちは立憲主義を守り個人の尊厳を守る。個人の尊厳が保障される日本を積極的につくることは、未来を切り開くものになる。自由と民主主義を守り個人の尊厳を守る国づくり。これが立憲主義を破壊する安倍政権に対する対案になる。

シスの虜となったアナキン・スカイウォーカーは、ジェダイ候補として育成されていた多くの子どもを殺害し、人を殺すことをためらわなくなった。独立星系連合の残党を虐殺したアナキンは、宇宙船が着陸したのを見て船に駆け寄る。船から下りてきたのはパドメだった。
「なぜここに来た」
「あなたが心配だったの」
抱きしめた後アナキンが語りかける。
「君がいなければぼくは生きていけない。なんならシスを殺して2人で銀河を支配しよう。そうすればぼくたちは自由だ」
「何という恐ろしいことを言うの。私の愛したアナキンはどこに行ったの。もうあなたはアナキンじゃない」
パドメは、自由と民主主義を求めてやまない、戦争を一貫して排除して外交で争いを終結しようとしていた元老院議員だった。愛を誓い合ったアナキンが変貌しても彼女の信念はいささかも揺らがない。それは死ぬまで変わらなかった。
彼女は、アナキンを失ったことによって、生きる気力を失い、双子の子どもを出産した直後に死んでしまう。スターウォーズという物語が描いた希望は、パドメの生き方によく表れていた。彼女が産んだ双子が、やがて銀河帝国を崩壊させ、共和国の復活の力となっていく。

安倍さんはお正月に「スターウォーズ エピソード7」を鑑賞したようだ。
帝国との戦いをつうじて民主国家を実現する物語として描かれたスターウォーズは、緊急事態宣言という憲法改正が企てるおぞましい未来を知る上で参考になる映画だった。安倍さんが、そのことをどう学んだのか。知ってみたい。

さて、
今日の朝、かがんだ瞬間、腰に鈍痛が走った。筋肉疲労の腰痛だった。
少し腰を屈めて歩く格好になった。急に年を取った感じだ。
今日は、少し腰を屈めて生きていた。


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Posted by 東芝 弘明