中村哲さんの姿を胸に

雑感

「荒野に希望の火を灯す」──中村哲さんの35年にわたるアフガニスタンでの活動を伝えるドキュメンタリー映画を観た。この人の活動は、日本政府が諸外国に対して行うべき経済援助の姿そのものだった。しかし、政府は中村哲さんの活動には、真剣に向き合ってはいないと感じる。

砂漠地帯に灌漑用水を引き込む活動への苦労が、実にていねいに描かれていた。川の激流の中にどうやって引き込むための仕組みを構築するか。ヒントは中村哲さんの故郷の川、江戸時代の技術にあった。映画のこの場面は印象的だった。医師である中村さんは土木の専門家ではない。しかし、アフガニスタンに灌漑用水路を作る必要性を痛感した中村さんは、土木技術を学び、設計を書くところまで知識を身につけていった。中村さんたちの活動に対し、日本の土木を実施する企業の協力はなかったので、大規模な機械の導入や近代的な施設の建設などはできなかった。大型のユンボ1台かブルドーザー1台のような機械だけで灌漑用水を作るためには、人力が頼りだった昔の技術から学ぶ必要があった。

激流する川から水を引き込むことに成功して、用水路に水が通されるシーンは感動的だった。砂漠が緑地に変わり、農業が始まり、収穫が行われ、人間の暮らしが成り立っていく。
自然に対して人間の力の小ささを知り、自然とともに生きていくことを学ぶ。ここに中村さんが導き出した哲学がある。
資本の力がどんなに大きくなっても、その力は地球という枠を越えることはできない。地球という名のパンドラの箱を開けて中身を食い潰すと、残るのは滅亡しかない。箱の底に希望はない。

日本の経済援助も、人々の暮らしを根底から支えるものであってほしい。ものすごく大量に国家に対して資金を提供しているが、それがどのように使われているのか。日本の国家の資金援助の受け皿は、資金を受け取る国で活動している日本の企業に落ちるという状況がかなり存在する。それでも一定はその国の役に立つだろう。しかし、国家権力に対する資金援助が、その国の国民を苦しめる形になることもあり得る。その典型が武器の輸出。このことを国際支援だと言って議論している国会の姿は悲しい。

国家と国民生活とは違う。国家が国民の暮らしや国民の利益を代表している訳ではない。戦争は、国民生活破壊と結びつく。アフガニスタンにおけるテロとの戦いは、ほとんど意味のない戦いだったと思う。アメリカにおける同時多発テロは戦争ではなくてテロだった。犯人を特定して、国際的な警察力によって犯人の逮捕と国際裁判で裁くことが求められていたのに、タリバンを戦争行為で破壊するというアフガニスタンへの軍事作戦は、まったく間違っていたのは、当初から分かっていたことだ。この戦争によって、何が生まれたのか。失ったものの方がはるかに大きいのではないか。

中村哲さんの活動を見ながら、ウクライナのことを考えた。
中村さんの活動がウクライナでできるのかどうかも含めイメージがつながらない。農業さえもが成り立っていない国難ともいえる状況下で暮らしの基板をつくるアフガニスタンでの活動と、ウクライナの現実がなかなか結びつかない。ウクライナで平和的にできるのは、市民のくらしを守る物資の支援と、市民を戦争から守る医療的な支援ではないだろうか。日本はこういう方向でウクライナを支援してほしい。
ロシアの侵略に対するウクライナの戦いは、ゼレンスキー大統領の率いるウクライナ国家の反撃という形になっている。ロシアの侵略は、クリミア半島に対するロシアの足場も含め許しがたい。ロシアのウクライナからの完全撤退こそが問題の解決だと思う。しかし、戦争によって多くのウクライナ国民が命を失っている。現時点で停戦して、話し合いによってロシアがウクライナから完全に撤退するというところまで交渉できるかどうか。一番いいのは、戦争の即時中止、ロシアによるウクライナからの完全撤退だろう。
これができないから、戦争が続いている。しかし、ウクライナの戦い方がすべて国際法を守っているかどうかという点にも、大きな疑問がある。次第に反撃の仕方も含め支持できそうにない内容になりつつある。ただし、ロシアがウクライナにさまざまな足場を残しての停戦、戦争の終結には同意できない。クリミア半島にロシアの足場を認めたことによって、戦争の困難が増大している。停戦して、ロシアの足場を認めることが次の戦争への準備につながる。そう思えてならない。

即時停戦とロシアの完全撤退。これを主張できる状況にあるのかどうか。知りたいのはここにある。

実は中村哲さんの講演を和歌山市民会館で聞いたことがある。今から18年前の2005年12月1日のことだった。ブログを始めたころの記事だが、中村哲さんが憲法9条について語った講演の感想めいたものだ。ソ連とアメリカによる軍事介入の中、どういう思いで中村さんが灌漑事業を始めたのかが分かる。映画を補うものだと思うのでリンクを張っておく。中村哲さんの講演 2005年12月1日

雑感

Posted by 東芝 弘明